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―第27話―近藤さんの話―脱線

「これは、サービスね」


 そう言って、お客さんのいなくなった喫茶店のテーブルに座った僕達に、近藤さんの奥さんがコーヒーを出してくれた。


「ありがとうございます。すみません、妹が上のお部屋で休ませていただいて」


「いいのよ、どうせ普段はたいして使わない部屋なんだから」


 奥さんに顔を向けられた近藤さんが、少しばつが悪そうにしている。


「お客さんもいないし、ゆっくりしていってね」


「ありがとうございます」


「妹さんには、悪いことをしちゃったかな」

 近藤さんが、伊集院君にいう。少年霊の素性を話したことについてだ。


「いえ、そんなことないです。むしろ、妹にとってよかったと思います。経験したことに対してそれが何かわかったことで、自分の中で消化できると思うので」


「そう言ってもらえると助かるよ。霊を見ていると、自分の価値観がこの世で一番大事な[この世で生きる]ということからずれていくような気がしてね。たまに無神経に霊の話をしちゃったんじゃないかと反省することがあって」


「いえ、自分からすると、霊を、そのなんというか見たり聞いたりすることができるのはすごいなと思います! ちょっとあこがれるというか・・・」


「いや、それは多分ちょっと違うかな。みんな魂は持っていて、言ってしまえば、そのうち死んだら必ずわかる世界の話だからね。それを見えない、聞こえない、感じないように作られているこの世の方が特別で、その特別な状態を前提に生きていくことがこの世の本懐、本来の姿だろうし」


 ちらっと、近藤さんが僕を見る。


「霊を認識できるとね、この世での[一生]を懸命に生きる、ということに対して難しくなりがちなんだ」


「なんかすみません・・・わからない世界のことなのに簡単に言ってしまって・・・」


「いや、そんなことは全然ないよ。自分も、昔は全く霊感なくてね、その頃はそういう風に思っていた時期もあったから」


「そうなんですか」


「うん、まぁね。でも、どうかな、ほら、もし本当に伊集院君が霊能力を持つことができるとして、そもそも幽霊を見たいと思うかな?」


「えと・・・」


「僕は、小さいころ幽霊を怖いと思っていたよ。それこそ夜中に一人で起きてトイレにいけないくらい」


「そう言われると、確かに怖いって思いますね」


「人間って本質的には幽霊を見たくないはずなんだよね。さっきもいったけど、見えないことが前提のこの世を選んで生まれてきているから」


「なるほど。言われてみるとそうですね、生まれる前に、死んだ後に、在る世の中のことよりも今の世の中に向きあわないと意味がないですね」


「その通りだね」


 伊集院君が、思ったよりもしっかりとした受け答えをするのに驚く。


「でも、そうしたらなぜ近藤さんは、霊能の道に進むことになったんですか?」


「んーと、ちょっといろいろあって・・・ どう話そうかな」


「あ、すみません、言いにくい話なら全然大丈夫です」


 伊集院君がそう言ったところで、僕は赤田先輩の言葉を思い出して


「あ、すみません、でも、赤田先輩から、霊ラインの除霊師、といわれることについては聞いてこいと言われていまして・・・」


 と言った。正直な話、僕も近藤さんのいろいろな話を聞きたかった。


「莉菜ちゃん・・・」


 近藤さんが頭をかかえるふりをする。


「じゃぁ、話さなきゃまずいね。ちょっと恥ずかしい話だけど」


「すみません」


「えっと、小林君今までに東京は何回か来たことある? もしくは大阪とか」


「東京は今回が初めてですね、大阪は1回だけ行ったことがあります」


「そっか、東京とか大阪の駅のホームで、入ってくる電車、怖いと思わなかった?」


「思いました。あんなに狭い通路にあんなに人がいて、あんなスピードで電車が入ってきて、正直事故が起こらないのが不思議なくらいに思いました」


「でしょ。自分も青森の田舎から東京にでてきて、そう思ったんだよ。実際ちょいちょい事故もおきているしね」


「近藤さん青森なんですね」


「そう、標準語のイントネーションより鹿児島のイントネーションの方が青森と結構近くてびっくりした覚えがあるよ」


「そうなんですか」


「調べたら方言周圏説っていって、近畿を中心に同心円状に方言が分布しているっていう説があるみたい。そうすると端っこ同士で、鹿児島と青森が古い言葉で似ていても不思議がないらしいよ。例えば、あんべが悪いって、青森では具合が悪いって意味だけど鹿児島でもそうだよね?」


「はい、そうです」


「でも東京では聞いたことなくてね。そして、あんべって漢字で書くと塩加減の[塩梅]なんだよね。こんな風に漢字だと意味が分かるっていうのがおもしろくてね。他にたとえば鹿児島だと[とぜんね]っていうと寂しいって意味だよね」


「はい」


「あれも漢字で書くと、徒然草の徒然、徒然ね、なんだよね。」


「あー、そうなんですね」


「そう、だから鹿児島とか青森とかには、多分古い言葉が残っちゃっているんだ。それこそ、今の世の中でも、新しい言葉は東京から作られて言葉が変わっていくように」


「面白いですね」


「そう! ・・・って結構脱線しちゃったね。話をもとに戻そうか」


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