―第24話―伊集院君の妹と少年の霊
鎌倉の後は、横浜の内装がおしゃれな居酒屋で、お酒を飲んだ。店内が暗めで、キャンドルライトまでおいてある。デートで使うのかと聞いたら、その予定と言って伊集院君は笑った。今朝疑問に思った東京から鹿児島に来た時の最初の印象を聞いたら、子供の頃から祖父母の家にちょくちょくいっていたから特に覚えていない、とのことだった。ただ、「街の人含めて全員が鹿児島弁のイントネーションでしゃべるのは、来るたびに最初は違和感を覚えるけどね」と付け加えられた。
今日は、ありがたいことに自由が丘の伊集院君の実家に一泊させてもらうことになっていた。あまり遅くなると、伊集院君の両親への挨拶が悪いような気がしたから早めに居酒屋を切り上げて、夜8時すぎに伊集院君の実家のマンションにお邪魔させてもらった。
ごはんは食べてきたといったが、簡単な夜食を出してくれて、お風呂も頂戴した。伊集院君のお父さんは、太っているわけではないががっしりとした体つきで濃い顔立ちをしていた。お母さんの方は、身長が高くスマートで、顔立ちもすっきりしていてどちらかというと伊集院君はお母さんの血を濃く継いでいるらしかった。お父さんからは、鹿児島弁で話しかけられたが、その鹿児島弁は、鹿児島標準語よりは、少しきつくて、ちょうど自分の両親が、両親と同じ世代以上の人と話すのと同じ言葉で、少し面食らった。お土産の鹿児島のふくれ菓子を渡すと、かるかんもいいけど、これが好きなんだと、喜んでくれた。
その後、伊集院君の部屋で、明日行く場所をどうしようかと話していると、伊集院君の妹さんが帰ってきた。伊集院君の妹さんは、高校3年生で、受験勉強で予備校に通っており、いつも帰りが遅いとのことだった。
伊集院君が、廊下を覗いて、隣の部屋に入ろうとしていた妹さんを呼び止めた。
「一応妹の真美」
「一応って何よ」と妹さんが返し
「こんばんは、妹の真美です、ゆっくりしていってくださいね」
と言った。お母さんに似て、すらっとして少し背の高い妹さんだった。
「こんばんは、お邪魔してます」
と、会釈をして妹さんを見ると、後ろに12歳くらいの着物を着たやせ細った男の子の霊が憑いているのが見えた。と同時に、妹さんが、友達とファミレスでこっくりさんをやっている映像が頭の中に飛び込んできた。酔っていた僕は思わず
「・・・こっくりさん・・・ファミレス」
とつぶやいてしまった。
その瞬間、妹さんの顔色が変わる。
「えと、こっくりさん・・・ですか?」
「あぁ、ごめんね、なんかちょっとそんなのが見えちゃった気がして」
伊集院君が
「小林君、霊感ある人なんだよ」と言い、そのまま
「何か見えたの?」
と聞いてきた。
僕が、見えた少年の霊の姿とファミレスでの風景を説明したところ、夏休みに入ってすぐ、高校の友達と、こっくりさん、(どうやら、妹さん達がしたのは、ヴィジャボードというものらしいが、)をやってしまい、その日から、たびたび夢にお腹を空かせた少年がでてくるのとひどい食欲に悩まされるとのことだった。
「食欲?」
と言って吹き出した伊集院君を妹さんがにらむ。
「そいうえばめちゃくちゃ食うようになったなって思ってたんだよな。受験勉強の糖分補給かと思ってたけど」
妹さんは、伊集院君をたたいた。
「どうしたらいいかわかりますか?」
と妹さんから聞かれる。自分は、他人に憑いている霊をどうこうすることはできない。というか、自分に憑いた霊すら、どうこうすることができないことがある。やっぱりこういうときは・・・と思い、
「こういうのに強い先輩がいるから、ちょっと聞いてみるね」
そう言って、酔っ払いの僕は、何も考えずにそのまま赤田先輩に電話をかけた。
「おー、こんな時間にどうした小林君」
そこで少し冷静になった僕は
「あ、夜分にすみません」といった。
「いや、バイト上がりだから全然いいけど、どうかした?」
そこで、僕は今の状況を話した。
「なるほど、小林君がどうにかできたらいいんだけどね、私も遠方だとちょっとな~」
「すみません・・・何か方法ないですか、自分でもできることとか・・・」
「ちょっとした冗談だよ、心配しない。そっちにうってつけの人がいるから明日連絡とってみるよ」
「いつもすみません、ありがとうございます」
毎回の事だが、頼れる先輩に感謝だ。
僕は、明日、連絡をもらえることを伊集院君と妹さんに伝え、自身の経験から霊自身は、せいぜい悪夢とかラップ音とか、その程度しか生きている人間に干渉できないことを伝えて、ひとまず安心させた。
だが、伝えはしなかったが、肉体を動かしているものは、精神であって、霊はそこに多少ながら干渉をすることができる。そこについては、やっぱり対処は必要だろう。
次の日の朝、赤田先輩から電話が入る。
「おはよう! 昨日言ってた人、今日一日大丈夫らしいから行っておいで。杉並で奥さんと喫茶店をやってる人で、近藤さんっていう人。一応自分の兄弟子にあたる間違いない人だから」
そう言って、近藤さんの連絡先の電話番号と住所を教えてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、おみやげよろしく頼むね~」
いたずらっぽく赤田先輩がいう。僕は、おとといバイトで一緒だった赤田先輩に、東京に行くことを言っていなかった。
「あ、関係ないけど、その人、霊ラインの除霊師なんておもしろい肩書がつくくらいの人だから時間あったら小林君も話を聞いて勉強しておいで。どうしてそう呼ばれるんですかって聞けばしぶしぶ教えてくれると思うよ」
霊ラインの除霊師? どういうことなのだろうか。それにしてもしぶしぶって・・・




