―第20話―権現山の神様
目的の権現山のふもとは、海と近く、トンビがたくさん舞っていた。ふもとから見る権現山は、開聞岳と少し似ていて、中沢先輩のパワースポット、という言葉を思い出させた。
ただ、意外と高さは300メートルちょっとしかないらしい。林道を車で登っていく。頂上近くまで車で行くことができ、そこから山頂まで歩く時間も10分程度とのことだった。駐車場に車を止め山道入口に向かうと牟礼神社と書かれた鳥居があった。
「権現」というのは、仏様や菩薩様が日本の神様に姿を変えて現れることをいうそうだ。つまり、この山で何かの仏様や菩薩様が、日本の何かの神様になり牟礼神社に鎮守された。そういうことなのだろうか?
「うし、じゃぁ一反木綿、探しに行きますか!」
そういうと、伊集院君は、一礼をした後、鳥居をくぐった。伊集院君は、神社に行くときは、いつもしっかり作法を守っていた。その言葉とその作法のギャップがちょっとおもしろい。
「神社に、妖怪探しって、なんか変な気がする」
そう言って笑った。
「そういえば・・・、まぁでも日本は、荒魂っていうんだっけ? 善悪関係なく信仰の対象になってたりするから、神社に妖怪がいてもおかしくないかもよ」
伊集院君から、荒魂という言葉が出たことにびっくりした。その言葉を知ったのは、オカルト研究会に入ってからだったから、本当に伊集院君はそういうことに興味があって、もしかしたら知識は僕よりもあるのかもしれない。
いつもとは違い、霊の存在に注意しながら歩く。今のところ、それらしいものは見えなかった。
「どう、一反木綿いそう?」
伊集院君が聞いてくる。
「いや・・・、今のところ全然。というか今思ったけど真昼間だから、どうなんだろう・・・」
やかましいセミの声が、僕達を歓迎してくれてはいるが、妖怪なんてでそうな気配はない。
「そっかぁ・・・、確かに夕方以降の方がよさそうだよね・・・でも夜の神社への参拝ってあまりよくないんだよね?」
「ん~、まぁ、あまりよくないっていうよね」
「だよね、まぁ、とりあえず頂上まで行って、降りてから考えますか」
そうこうしているうちにすぐ山頂までたどり着いてしまった。再度出てきた鳥居をくぐって、あらわれた小さな祠に手を合わせる。瞬間、頭に映像と言葉が飛び込んできた。
ここでくるのか・・・ そう思った。久しぶりの感覚だ。
「ナガブイじゃが、ようきっくいやしたなぁ、まこてヨカニセになっせぇ」
いきなりの露骨な鹿児島弁に一瞬戸惑う。普段は、僕達若者は、いわゆる鹿児島標準語を使っていて、かなり違いのあるイントネーションと、若干の言葉をのぞいては、文字におこせば、ほぼ標準語に近い言葉を話していたから、かなり面食らった。
白く、長い着物を着た、老齢だがまぶしい光をまとった女性の・・・神様?が頭の中のど真ん中に現れる。現れるといっても、エネルギー体は、感じず、映像の形だ。こういうときは、普段、霊を見るときとは違って、頭の中に、その存在と自分がいる別の空間が現れる。そして、大抵はものすごく近い距離で対峙することがほとんどで今回もそうだった。
先ほどの言葉を訳すなら、「久しぶりだね、よくきてくれました。本当にいい男になって」といったところだろうか。でも、僕は、この山頂まできたのは初めてだ。そして、残念ながらいい男ではない。まぁ、いい男の部分は、親戚と久しぶりにあったときに成長したことに対して言われる決まり文句のようなところがあったから、そのようなものなのだろうが、久しぶりとは、どういうことなのだろうか・・・。
その神様は、思いっきりにこやかな顔で、僕に笑いかけたあと、隣の伊集院君に一言、二言声をかけて、頭の中に、映像の塊を残し消えていった。多分、これは、中沢先輩が言っていた、テレパシー的な情報で、おそらく人間である僕の脳では、その情報を解凍し処理するのには、多少時間がかかるようだった。
目を開けると、伊集院君が、少し放心したような感じで空を見上げていた。時間にして、どのくらいだったのだろうか。
何の神様だったのだろうか?そう思い、小さな祠をよく見てみたが、わからなかった。
伊集院君も、何かを感じたようで、僕たちは、言葉少なに、交代で錆びた展望台に登り、心を空と海に投げ出してから、もくもくと山を下りた。




