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―第18話―伊集院君と、一反木綿調査?

「ところで・・・一反木綿って鹿児島の妖怪だったんだね」


 講義の終了後、伊集院君からそう言われた。彼は、僕が大学に入学して初めてできた友達だ。彼には、オブラートに包んで古代思想研究会のオカルト志向の活動内容を話していたから、そんな話をされても不思議ではない。だが、彼は、サッカーサークルに所属しているいわゆるリア充だったから少し意外だった。


「え?そうなの?それは知らなかったなぁ」


 本当に知らない。出身県にそのまま住んでいると、意外と県外の人から聞かれて気づくことは多かった。だが、一反木綿は、その名前を知っているのに、地元鹿児島の妖怪と知らなかったから自分でもびっくりした。


「地元では、言われていたりはしなかった?」


「いや・・・そんなことは聞いたことがなかったけど。妖怪自体、親から聞いたりということはまったくなかったし、友達ともそんな話は出なかったなぁ」


「へ~。そんなものなんだ」


「たまたま親がそういうことを言わないだけなのかもしれないけど・・・今度帰ったら聞いてみようかな。伊集院君、妖怪になんて興味があるの?」


「いや、次にどこにドライブに行こうかと考えて鹿児島の名物とかをいろいろ調べていたら、なぜか一反木綿にたどり着いたんだ」


「そっか」


「高山町の権現山ってところで見ることができるらしいんだけど、ちょっとドライブがてら夏休みがはじまったら一緒にいってもらえないかな?」


 心霊スポットには、自分は、基本的に行かないようにしている。それは、もちろん憑かれたら嫌だということのほかに、わざわざ、霊を冷やかしに行く必要が、まったくわからなかったからだ。

 オカルト研究会で行くことはあったが、それは、除霊とセットであることがほとんどだ。少し迷ったが、伊集院君のお願いだし、権現山は、地元から近く、知っている場所で心霊スポットかというとそうではないだろうと思ったから、行くことにした。


「いいよ。でもちょっと一反木綿について、少し調べてみるね。研究会に資料があるかもしれないし」


 赤田先輩か、西村部長にも、念のためアドバイスをもらっておきたい。


「了解。よろしくね」


 部室で、資料を見ていると、妖怪についても、いくつか触れたものがあった。辻神といわれる魔物が大学構内の建物建築現場に現れたものを、オカルト研究会で封じた、という嘘か本当かわからない記録まであった。1987年の記録だ。だが、一反木綿は、妖怪研究の総論的なレポートに地元鹿児島の妖怪として少し出てきた位で、詳しく記載はされていなかった。


 そうしていると、タイミングよく赤田先輩が部室に入ってきた。


「お疲れ様です」


「お疲れ様、何か調べもの?」


「はい、ちょっと一反木綿について・・・、友達に聞かれちゃったんですけど、自分、鹿児島の妖怪だったなんて知らなくて」


「あ~、一反木綿ね」


「赤田先輩知っているんですか?」


「うーん、まぁ、知っているというか、あれって知名度は全国区じゃん」


「はい」


「で、多分ほとんど見間違いなんだよね。あくまで、鹿児島で伝えられてきた一反木綿がいろんな場所で目撃されているということで言えば」


「見間違いですか?」


「うん。小林君は見たことあるんじゃないかな?白い半透明の・・・レジ袋に近いような色のおうとつのない、ただ、ふわふわとした浮遊霊が、すーっと空を飛んでいくのを」


「あ、あります、結構ありますよね、どちらかというと夜よりも日中に多く見ますけど・・・。2つ仲良く飛んでいったり・・・記憶的なものは見えませんが」


「そう、多分、ああいうのが多くの一反木綿の正体」


「そうなんですか・・・、でもあれって何なんですかね?」


「亡くなった人が、この世で縁があったものに挨拶をして、未練を残さずに、晴れ晴れとした気持ちで成仏しようとしているときとか、この世に長くとどまっていたけど、何らかの事情ですっかり未練のなくなった魂なんかが、成仏するときにあんな感じになることがあるんだよね。未練がなく、もう関心があの世に向いてるし、こっちも、たまたま見かけただけだから、ただのエネルギー体にしか見えない。一反木綿と間違われるもので多いのは、その中でも多分長くとどまっていた方の霊で、魂の形がもう人間の形をほとんど残していないものだと思うんだよね。まぁ、他に、自然霊とかの見間違いもあるんだろうとは思うけど」


 そういえば、亡くなった人の霊はたくさん見てきたが、成仏する瞬間は、それほど見ていないことに気が付いた。そうか、もう、関心をこちらに向けることもなく、まさに天に昇っていく、そういう成仏の仕方なら、たまたまそちらに意識が向いたとかでない限り僕の霊感にはひっかからない、そういうことなんだろうなと思った。


「なるほど・・・、じゃぁ、現地に行ってもあまり意味はないですかね」


 現地に行っても、意味がなければ、それはそれで安心だ。結果ただのドライブになるのだから。


「現地にいくの?大隅の高山町あたり?」


「はい。一反木綿について聞かれた友達に、ドライブがてら行ってみたいって言われまして」


「小林君が、そういう誘いにのるのってちょっと意外だね。でも、うーん、現地かぁ」


「何かあるんですか?」


「いや、ほとんど見間違いとは言ったけど、もちろん、いないわけじゃないからね」


「そうなんですか」


 うーん、赤田先輩にそう言われると、ちょっと心配だ。


「でも、まぁ、大丈夫でしょ。冷やかしにならないように注意して行っておいでよ。もし何かあってもなんとかしてあげるから」


「・・・そのときはお願いします」


 頼れる赤田先輩に感謝だ。僕は帰ってから、伊集院君に、[一反木綿、特に、資料はなかったけど、先輩に聞いたら、だいたいが見間違いだよねってことみたい。なので行ってもそれらしいものは見ることはできないと思うけど、どうしようか? それでも行くならもちろん行くよ]とメールした。


 返事は[まぁ、そんな簡単には見れないよね。目的はドライブだし、行こう]とのことだった。


 オカルト系の話を、オカルト系じゃない人に話すのは正直なかなかつらい。自分が、どこまでそれを信じているのかを、巧にごまかしながら、そして、自分は、常人なんですよとさりげなく刷り込みながら話さなければいけないからだ。


 だから、なるべく、伊集院君ともオカルト系の話は避けていた。だけど、僕はオカルト研究会で、オカルト話を遠慮なくする楽しさを覚えてしまっていた。今回の伊集院君の誘いには戸惑いがあったが、メールでの返信は、妖怪の存在を否定するものではなく、その返信に少しの期待を確かに感じていた。


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