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―第17話―気功師徳留副部長

 2週間前にUFOと遭遇した。そういう事実は、僕の現実の世界に何も変化をもたらさなかった。それは、夢を見ても、それが現実の世界に影響を及ぼさないのと一緒だ。


「よし、今日はこのくらいにしようか」

「はい、ありがとうございました」


 僕と相原さんは、徳留副部長の都合がいい日に部室で気功を習っている。相原さんは今日で5回目だ。たまに、小林部長や赤田先輩も参加するが、今日は僕と相原さん、徳留副部長の3人だけだった。徳留副部長の気功は、いわゆる中国の太極拳的なものと、インドのヨガをとりいれた我流のものらしく、西村部長は、徳留副部長のことをハイブリッド気功師と呼んでいた。この研究会の十八番のハイブリッドである。そんな徳留先輩の気功であるが、相原さんは僕と違って気功の才能があるらしく、毎回とても熱心に、指導を受けていた。「だって、美容にもいいらしいよ」そういう相原さんはとても楽しそうだった。


「今日は、二人はどうかな?二人とも大丈夫ならファミレス位なら、僕も行けるけど」

 3人でヨガマットの片付けをしながら徳留副部長が言った。


 オカルト研究会では、その活動がある日には、活動終了後、いくつかの選択肢があった。頻度が多い順に、①解散、②部室でお酒を飲む、③ファミレスや、居酒屋に行く、④ボーリングやカラオケなどに行くだった。ただ、②以降の活動は、西村部長がいるときがほとんどで、水曜日以外は人数が3人以下になることが多かったから、ほぼ①の解散になった。だから、徳留副部長の言葉は、多分に「どっちか、予定があるよね」という、調子を含んでいた。「そうですね・・・」とそう言おうとしたときに・・・


「あ、私は、行けますよ。小林君どう?」

 と相原さんがいった。


「・・・・僕も、行けます」


 相原さんの、言葉の調子から、行く気満々なんだと感じ、わずか数秒前と結論を変えた。それは、自分が行かなければ水を差すことになる、とそういう気持ちから出たものではあったが、それと同時に相原さんが行くのなら、という気持ちも確かにあって、どうやら僕の心は相原さんと一緒にファミレスにいくことを望んでいるようだった。


「あっ、じゃぁ行こうか、後ろのトイフルでいい?」


 意外な答えに、徳留副部長は少しうれしそうだ。トイフルは、九州で展開されている、リーズナブルなファミレスだ。大学生にとっても頼りになる存在で、九州では、全国展開だと勘違いしている人も多い。そんなトイフルが、大学のキャンパスのすぐ近くにあった。正門とは反対側だったから、後ろのトイフル、とそう僕達は呼んでいた。

「はい、じゃ、私、すぐ着替えてきますね」

 相原さんは、更衣室に走っていった。


 大学のキャンパスは広いから、キャンパスの目の前といっても、構内で歩く距離はそれなりにある。徳留副部長と相原さんが、中沢先輩の、UFOレポートの適当さを、笑いながら話している。その後をついていくと、伸びた草むらから、バッタが飛び出てきた。そういえば、バッタのフォルムって、なんだか、機械的な美しさがある。もしかして、バッタとか、他の昆虫とかに紛れて、宇宙人の監視装置があるかもしれない。そんなことを考えているとトイフルについた。


 僕は、ハンバーグプレートを、徳留副部長と相原さんは、チキンステーキを頼んだ。


「前から聞いてみたかったんですが、徳留副部長って、いつ頃から気功を始めたんですか?何かきっかけがあったんですか?」

「きっかけか~、うーん、自分の気功は我流とはいえ、本とかを参考にしたりしているから、ちゃんと始めたのは、最初の本を買ってきた中学2年生の頃からだったと思うんだけど・・・そうだね、その気功の本を読んでみようと思ったのは、人の体に疑問を持つことがあって、きっかけとしては、その疑問を持ったことからかな」

「疑問ですか」


 その話は、僕も去年徳留副部長に聞いたことがあった。以前の相原さんには苦手な話だったかもしれないが、今なら大丈夫だと思う。


「うん、小林君には以前話したけど・・・相原さん、人間の内臓ってさ、その機能を保っているのが疑問に思えたことない?」

「特に・・・そう思ったことはないと思いますが・・・なんか、なぜ人間の構成物がこれなんだろうと、すごく・・・なんというか気持ち悪いと思ったことはあります・・・」

「もしかしたら、根本的な感覚としては同じなのかもしれないね。僕は小学生の頃、人間の脳は豆腐の硬さと同じだということを聞いて、なんで80年も90年も壊れずにもつのか?ずっと疑問に思ってたんだ」

「あ、それは私も聞いて疑問に思ったことがあります」

「ね、なんか今考えても不思議だよね、科学的な理屈はあるのかもしれないけど・・・。それからも、母親が魚をさばくときに、包丁で掻き出す内臓や、海岸で打ち上げらえたクラゲ、牛とか豚とかのレバーのやわらかさ、そんなものを見て、やっぱり、同じようにあんなにもろいものが、生物を作っているなんて、とても信じられないと思うようになっていたんだ」

「確かに・・・そう思います」


「ところで、相原さん、スズメ、食べたことある?」

「いえ、でも食べられるのは聞いたことあります」

「そっか、食べてる餌にもよるんだけど、実はとてもおいしいんだよね」

「そうなんですか」

「うん、うちの父親は、空気銃で狩猟をしていて、冬はよくキジバトやヒヨドリ、たまにスズメなんかを撃ちに行くのね。そして、小さい頃はよくそれに付いていって、撃たれてぽとっと落ちたヒヨドリやスズメなんかを、とりに走ってた。撃たれた場所はわかるのに、案外すぐに見つからなかったりするんだ」

「なんか、犬みたいですね」

「確かに・・・僕は犬替わりだったのか・・・」


 相原さんが、笑う。相原さんも、もうすっかりこの研究会にうちとけている。そう思ったが、そういえば歓迎会の時から、そうだったかと思い直し、自分はどうだったかなと、そんなことを考えた。はじめに来たハンバーグプレートを、先に食べはじめる。


「それで、撃った鳥を見つけると、手で包んで父親のところにもっていくんだけど、手袋の上からでも、包んだ鳥の暖かさが、伝わってくるんだよ。不思議なもので、撃たれた鳥はちゃんと目をつぶっているのね。そして首は、だらんとなっているんだけど、それを大事に手の中に包んで、こころの中で「ごめんね、ありがとう」とつぶやくんだ。そうすると、手の中の小さな鳥の体から何かが抜け出た気がして、なんというか、鳥から、鳥だったものへと物質的になったように感じたんだよ。「あ、これは、今冷蔵庫の中にある魚と同じになったんだ」ってね。赤田さんとか小林君なら、別の見え方をするのかもしれないけれど、その時僕は、「生命を支えているものが外に出たんだ」とそう感じたんだ。それから、そこで感じたものが、自分の体に、生命に、自然に、宇宙に、天にあふれていることに気づいたんだ」

「それが、気だったんですね」

「そう。それで、どうやら物質的なもの以外に生命を支えているものがありそうだけど、それは何なんだろうと思って、気功とかヨガとかの本を買ったりしたんだ。だから、それがきっかけかな」


「そうだったんですね・・・。ところで、今は、生命にかかわる話でしたけど、そういえば、小林君が、気は万物の本性って言っていたんですが、そうだとすると、生命以外のものにも気はあるんですか?」

「うん。あるよ。ちょっと抽象的になるけど、生命については、気は流れている、活動しているという感じかな。生命でないものは、その中に内包されていて動いていないという感じだね。だから、生命でないものには、あまり気を強く感じられない。そこらへんは、多分霊魂との関わりもあるんだろうね」

「身の回りにある大気が、風になると感じられるのに、動かないと普段感じられないのと同じようなものですかね」

「そんな感じだね」


 チキンステーキが二つ運ばれてくる。あっちの方がおいしそうだ。相原さんは、いただきますと、手を合わせて、食べる。


「ところで、オカルト研究会に入った、きっかけとかあったんですか?」

「自分は、もともとサークルとかは入ってもしょうがないと思って入っていなかったんだけど、1年生の時の学園祭で、オカルト研究会が、占いの館を出していたんだ。その頃は、人の気の流れ方について研究をしていたから、たまたま興味で、占いをするような人の気の流れを見てみようと、思ってその館に入ったんだ」

「見てもらうはずの、占い師を逆に見てみようと思ったんですね」

「そうだね」

「そしたら、神原先輩という先輩がいてね」

「あ、先日、赤田先輩からすごい人だったと聞きました」

「そう。どちらかというと赤田先輩とか小林君の分野の人だと思うんだけど、見た瞬間、こんなに気の流れの強い人がいるのかとびっくりしたんだ。小林君は去年のOBの先輩との飲み会で会ったよね?」

「はい、歩く神社みたいな人だと思いました」

「小林君の感覚だとそうなるんだね」

「少し失礼な言い方かもしれませんが、目の前にいると居心地が悪くなるくらいの人でした。それを赤田先輩に言ったら、「小林君は魂がくすんでいるから」って言われましたけど・・・」

「ん~、なるほど・・・」

「あ~」

 否定の言葉は出てこなかった。


「そして、その神原先輩なんだけど、僕の手をみて、「人の治療にはまだ早いですね」、とそう言ったんだ」

「治療ですか?」

「うん、言われた瞬間は、何のことかわからなかったけど、その頃はもう、自分で自分の気の流れをよくすることで、元気になることができていたから、これを他人の治療に生かせないかと、そう考えていた、そのことに気づいたんだ」

「それは、鳥肌が立ちますね・・・」

「でしょ?そこで、どうしてそう思うんですか?って聞いたらさ、「輸血をするときに、A型の人にB型の血を輸血するのは、まずいでしょ?できればA、少なくともO型の血じゃないと、だから輸血をする血を選べるようにならなきゃ治療なんてできないですよ」って。質問の意図をすっとばして、その先の、治療をするのには早い理由を話してくれたんだ」


 そう言って、徳留先輩は、笑った。


「その理由って、どういうことなんですか?」

「気自体は、みんな持っているものだから、自分の気を自分でどうにかすることはそんなに、大きな問題がでないんだ。逆にあまり、効果が出にくいくらいだね。でも、自分の気を他人にいれるときは、それは、異物の気になっちゃうから、相手にとって悪くない気じゃないとまずいんだ。だから、自分の気だけではなく、自然、宇宙の気を自分の体を通して使うことで治療することが多いんだけど、そこには、相手を思いやる心が必要で、その時の僕は、そんなことを考えていなかったからね」

「なるほど・・・」

 僕は

「そういえば、気って、治療とかだけではなく、武術でも使われたりするんですよね」

 と言った。

「そうだね、なかなか現代の格闘技とか、そういう見方だと、理解しにくいだろうけど、そういう使われ方も実際されてきたわけで・・・。気は良い影響だけでなく悪い影響を与えることもできるんだ」

 相原さんが

「気も思ったより複雑なんですね。日常生活で意識することはないですけど」

 と言う。僕も、以前はもっと単純なもののように思っていた。


「意識しないで済むように、生活がなされている。ということもあるかもね。例えば、気の取り込みが、体に与える影響、それを避けるための工夫がこの料理にも、見て取ることができるんだよ」

「どういうことですか?」

「このチキンには、熱が通してある。当然、もう生命ではない。でも不思議に思ったことがない?なんで、ほとんどの食べ物は熱を通すんだって」

「それは、生肉だと、寄生虫とか、菌とかの影響があったり・・・」


「小林君はどう?」

「そういえば、小学生のころ授業で、野菜炒めは、かさを減らして、たくさん栄養を取るためって習いましたね」


「うん、二人とも正しい答えだと思う。でも、もう一つ側面があって、焼くと、量が食べられるんだ。かさが減るということではなくてね」

「えーと」


「生物は、亡くなると、それから、時間がたつにつれて、どんどん生命としての気がなくなっていく。でも、生肉や、生野菜には、幾分か残っている。そして、それは、食べた自分の気に影響を与える。ところが、焼くと、その気は、ほとんど取り除かれるから自分の気に対する影響を気にすることなく取り込むことができるんだ。ちなみに、海が凝縮された塩も焼くほどではないけど、余計な気を取り除く効果がある。生肉や、生野菜を、何もつけずに、たくさん食べ続けることができるか?これって結構難しいことだと思うんだよね」


「想像するだけできつそうですね」


「でも、本来、生物の食物は、ほとんどが生だったはずなんだ。だから、逆にいうと、今ほど、たくさんの食物をとらなくてもある程度は生きていけるっていうことだとも思うんだけど、そこで火を使うと、気の影響を極力減らして、体という物質をつくるための栄養だけを思う存分にとることができるんだ。ただ、逆に、焼かれたものだけを食べていると、気を取り込めなくて多少支障がでてくるから、生ものも食べたくなる。それが、ドレッシングの塩分で適度に調節された、この小さなサラダや、とんかつのキャベツとか漬物!」


「なるほど・・・でも、そしたら、リンゴやみかんなどのフルーツはどうなんですか?私かなりたくさん食べる自信があります」

「そうだね。実は、リンゴや、みかんなどのいわゆる果実は、気は結構強いんだけど、まだ、そんなに他の生き物の気に影響を与えるような特定の気になっていないんだ。例えば、動物なら、卵とかにあたるわけで、卵も果実と同じく、一つの命としての気の個性がまだ出てなくてね。だから、他の生物が取り込んだとしても、他の食物に比べれば幾分自然とか、宇宙の気とかに近くて特定の影響を強く及ぼしにくいんだ」


 そういえば、相原さんは、以前、食べられなくなったとき、早くに食べられるようになったものの中に、卵が入ったクッキーがあった気がする。


「それは、一つの生命として確立する前だからってことなんですかね・・・」

「そういう風に、考えていいと思うよ。僕もそう見てるしね。ただ、もちろん、気から見た部分は、一側面にすぎなくて、例えば、種子であっても米とかは、生米だと固いから、という理由で食べられなかったり、食物に塩分があった方がおいしく感じるのも、物質的な体の要求が大部分であったりするから、あくまでも一つの要素位でとらえておいてほしいけどね」


 中沢先輩は、そう言ったが、気の影響の側面は、自分の経験からもすごく納得できた。僕は

「そういえば、なんだか無性に野菜が食べたくなることがあるんですけど、気を取り込みたいってこともあるんですかね・・・。牛丼を食べに行くときに、僕は、ほとんどネギ玉牛丼を食べるんですが、ある時に気付いたんです。僕は、ネギを食べたくて行っているんじゃないかと。牛丼だけならさして食べたくないんじゃないかと」

 と言った。


「それは、多分そうかもね。ちなみに生野菜を何も付けずに食べまくって、気功に目覚める人もいるらしいよ」

「そうなんですか?そんな簡単な方法が・・・」


「でも、僕は推奨できないかな。荒療治な気がするし、自分の気のコントロールから使えるようになっていった方がいいと思うんだよね」

「なるほど・・・」


「ところで、最初の話に戻りますけど、気によって、脳や、内臓って強くなっているんですか?」

 と相原さんが言った。

「僕は、そう考えているよ。ちょっと前に僕がレポートした「体内にある空洞と気の関係」は、そこが、一つの論点だったしね。それを医学部の友達に話したら、笑われたけどね」

「まぁ、それは仕方ないかもしれないですね・・・」



 僕は、もし聞けるようなら徳留副部長の就職活動の状況について聞いてみようと思っていたが、いつの間にか平らげられていた3人の皿は下げられてしまった。


 なんだか、聞けずにほっとしたような、それでいてもやもやとするような、僕の心は統合されずに複雑な気分でトイフルを後にする。


 とりあえず、サラダにかけるドレッシングの量を少なくしてみよう。そう思った。


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