―第10話―去年の話―除霊後の部室訪問
そして除霊から二日後、報告と、お礼を言いに部室に向かう。研究会に所属しようかなと思ってはいたが、そもそもの活動は何で、何曜日に行く必要があるのだろうか。週3とかは、なさそうだと思うけど、それだと、ちょっと厳しいことになると思いながら、ドアをあける。
「こんにちは」
今日は、徳留副部長はおらず、西村部長と赤田先輩がコタツのノートパソコンの前で話をしていた。
「お、きたね。調子よさそうだね」
「はい、おとといはありがとうございました。すっかりよくなりました」
「どうぞどうぞ、入って座って」
部長は、コタツからパソコンを片付けて、その前に座布団をもってきてくれた。
「どう、なんか聞きたいことある?」
「あ、いえ、ちょっと聞いていいかわからないんですけど、どうしておととい除霊することができたんでしょうか」
研究会の活動内容などを聞く前にそんな質問をしてしまった。
僕は、幽霊が見えるくせに、というか幽霊が見えるからこそといってもいいのかわからないが、あまり、お経や祝詞というものの意味がよくわかっていなかった。ただ、確かに、それによって、場所が清められたように感じたり、今回のように幽霊がいなくなったりするからどういうものなのだろうか、とは思っていた。あの幽霊たちに憑かれたとき、自分なりに、取り憑かれないぞ!という強い思いをぶつけて振り払ったつもりだった。実際、それでいなくなる霊も多かったのだが、今回はいなくなってくれなかった。それから慣れとは怖いものだが、まぁ、実害はないか・・・と途中であきらめてしまっていた。それを赤田先輩はあの短い時間で除霊してくれたのだ。
「小林君には、どう見えてた?」
僕は、先日、読経、祝詞の奏上の最中に消えていった霊の見え方の話しをした。
「そっか、まぁ、そうだよね」
「あのとき、私は、いわばあの世との通信をしていて、そこでいわゆる、神様、仏様、今風にいうと高次の存在なんていったりするけど、その力を借りて小林君の魂からあの3人を引きはがして、別のあの世へ送ってもらったんだ。あの世を覗く、というのは目が覚めている人間には、とにかく難しいから、消えるというふうに見えたのかもね。小林君は、幽霊は見えても、他の存在の力を借りるといいうことをしてなかったんじゃないかな?」
「そうですね・・・そういうことは考えたこともありませんでした」
部長がそこで口をはさむ。
「人に憑く霊ってほら、ストーカーだから、やっぱり警察に頼まないといけないわけ。そして、とどまっている霊をあの世につれていってくれる警察が、僕たちが神様、仏様と呼んでいる無限の存在の中にいてくださるっていうわけだね。もっとも、実は、あの世にいる自分、分霊、片割れというか源泉もあってそれが助けてくれるということもあるけど、それはちょっとわかりにくいかもね」
「そう・・・なんですか」
「小林君は、あの形式に疑問をもったんじゃない?」
赤田先輩が言った。
「あ、いえ、でもどういうものなんだろうかとは思いました」
「実は、お経や祝詞とか、鈴とか御幣は、除霊に必須っていうわけではないんだよね。例えば、あの世に送らず、いったん小林君からはがしとるだけなら、私個人の力でできる。けど、あの世に自分から行かない魂を送るのには、あっちの世界の力がないと私では正直できないから、ああいう形になるんだ。はがしとっても、また憑かれたら困るしね。私にとっては、あの形が、向こうの力を借りるための、向こうの世界との通信手段のスイッチになるってわけだね。別にあの形をとらなくてもいいんだけど、言葉もそうだけど、一定の形式があると自分の魂の状態を固定しやすいんだ。だからやっぱり私にとってお経や、祝詞は大切なものなんだよ」
そこで、また西村部長が言った。
「霊能力っていっても、実は、すごいいろんな形があるんだ。生きている人の魂、死んだけどまだこの世にいる人の魂、あの世に行った魂、あの世にある、人間の先輩ともいうべき、神様や仏様といわれるような魂・・・。そして、そのコンタクトも、魂から他の魂の記憶を覗いたり、逆に、他の魂にその記憶を見せたり、それが意識せずになされていたり本当に様々で複雑なんだ。赤田さんは、いわば技術を使って、小林君よりもたくさんの霊にアクセスできるってことだね」
「そう・・・なんですか」
「今回は小林君にゆかりのある霊、一般的には守護霊っていわれたりするけど、その守護霊にゆかりのある神様に、おばあちゃん、女の子はあの世に連れて行ってもらったんだ。そして、ドクロの幽霊は、私にゆかりのある神様に、あの世に引っ張って行ってもらった、という感じかな」
「守護霊ってどういうものなんですか?僕、人についている霊はみることあるんですけど、それがいわゆる守護霊なのかは、ちょっとそう思えなくて・・・自分でも、自分の守護霊みたいなものを見たことがなくて」
実際、僕には誰かの後ろに必ず霊が見えるなんてことはなかった。むしろいないと感じることの方がずっと多い。
「それは、守護霊といわれるものは、基本的にこっちの世界にいるものではないからね、向こうの世界から助けてくれる存在であって、そこらへんを漂っている霊とは違うからね」
「そうなんですか」
「うん、だからずっと見守ってくれているとはいえるけど、ずっと後ろについてるかといわれてるとそうでもないと言えて、逆に、ずっと後ろについてるような霊は成仏してないんじゃ・・・ってことだったりもするし」
「なるほど・・・」
そういわれると、納得できた。テレビに映る霊能力者がいう、誰にでも守護霊はいるという言葉に疑問を持っていたから。
「でも、小林君だって、例えば、いつもよりすごく鮮明に見える幽霊とかみたことあるでしょ?」
「あ、あります、自分でも不思議なんですが、おそらく3百年は昔のお侍さんが、目の前に実際にいるかのように見えたこととか・・・」
「この前除霊した女の子の霊はどうだった?」
「日中は特には・・・、眠って金縛りにあっているときに出てくるときは、洋服の形から、クマのぬいぐるみの毛並みまでしっかりみえました」
「それは、その女の子の魂が、小林君に見せてる、もしくは、小林君が覗いている、さっき部長が言った記憶のようなものなのね。日中女の子がそういうふうに見えなかったのは、多分小林君が見ようとしてなかったせいね」
確かに、その幽霊を見ようとはしていなかった。
「そして、あの世にいった魂とのコンタクトは、基本的にその記憶のようなものとすることになるのね。その記憶と通信できた時は、向こうはこの世じゃないから、その通信の回路が成立した状況に応じて、頭の中に直接見せられる、といった感じ。例えば自分の場合は、目の前に除霊をする人がいたとして、その人を助けてくれる霊、いわゆる守護霊に力を貸してもらいたいときは、その人の情報・・・名前、生年月日とかを手掛かりに、私の守護霊や、縁のある神様にその人の守護霊を探してもらった上で、私の守護霊にその人の守護霊を見せてもらって通信をするんだ。ただ、自分は、そういうのをよくやる関係で、神様に問いかければ、見せてくれるって状態になっていて、その問いかけが小林君を除霊したときにした、読経や、祝詞の奏上だったりするのね。それをすると、除霊する人の近くにその人の守護霊を見せられて、コンタクトがとれる。回路の中身は複雑だけど、出てくる結果は割とシンプルな、まぁテレビスイッチを入れたらテレビが見れるというそんな感じかな」
そういえば、意識していなかったけど、ぱっと頭の中に鮮明に映るものと、曖昧な形をしている魂とあって、確かになぜか区別しようとしていなかった。少し考え込む僕をみて、西村部長が、
「幽霊は、自分で見てると思ってても実は、自分1人で見ていることは少なくて、何かに見せられているってことだね。だから見えなくなったりすることもある」
といった。その話を聞いて、確かにいろいろな点で合点が言った気がした。僕は、幽霊のことが見えると思っていたが、それは、壮大な仕組みによってなされた表面の一部を見ていただけであって、たいていの人が、幽霊を見えないように、自分にも見えてない、そして見せられていない世界があったのだ。そして、人間は、言葉によってその感情を固定化することができる。お経や、祝詞を読むことで、自分の状態を固定しているという赤田先輩の言葉には説得力があった。
「僕の・・・その守護霊的な人はどんな人なんですか?」
「守護霊も、1人じゃなくてたくさんいたりするんだけど、私が見たのは短い白髪で、すごい笑顔のおばあさんだったね。顔に笑いじわがたくさんあって、面長で、歯がとてもしっかりしていて、白色の着物をきてた。まぁ、結構な極楽浄土にいらっしゃるようで、すっごくまぶしかったよ」
「あ・・・」
僕には、そのおばあさんに心当たりがあった。高校生の時夢のなかにでてきて、何も言わずただ満面の笑みで僕を見ていた、現実での記憶の中にはない人。その人だった。その人の後ろには、孔雀の羽のような、玉虫色のような、そんな表現しがたい色をした、ステンドグラスのように質量をもった光があって、あの人はだれだったんだろうと、そう思ったのだった。
「小林君、幽霊が見える割にはあまりご先祖様、神様、仏様との縁を大切にしてないよね」
「そう言われれば・・・」
「この世は、人との関わりなしには生きられないし、その関わりがなくなっていくと縁がなくなるわけだけど、それは、魂でも同じなんだよ。せっかく、霊感もあるんだし、小林君を助けたいとさえ思っている存在もいるんだから、その魂との縁をおろそかにしない方がいいよ」
「そうですね・・・わかりました。でも、なんで縁を大切にしていないとわかったんですか?」
「それは、そのおばあさんが、せっかく助けたいのに、小さい頃と違ってろくに聞く耳をもたないし、墓参りに来もしないってグチってたから」
「ごめんなさい・・・」
なんとなく謝ってしまった。霊の声は聴かないように意識していたから、そのせいかもしれない。
「私に謝ってどうするの」
そう言って赤田先輩は笑った。
「土日に墓参りにでもいってきたらいいのよ、ちなみに、お墓も、あの世とのコンタクトを取る回路を作るのにぴったりの場所だからね」
「わかりました。ありがとうございます」
こうざっくばらんに、霊の事を話してくれたり聞いてくれたりした人は、今までいなかった。もっと、いろいろなことを話したい、そう思った。そういえば、まだ入部の件について話してなかった。そう考えたら
「ところで、そろそろ肝心の入部の件だけど・・・」
と西村部長が切り出してくれた。
「あ、そうですね・・・どんな活動を週何回くらいやっているんですか?」
「まず、メインの活動日は水曜日なんだけど・・・」
僕は、よくわかったようでわからない活動内容を聞いた後、もう入部することは決めていたから、入部届を出した。
次の土日、僕は、軽くなった体で実家に帰省し日曜日の朝に墓参りをしてきた。そこに霊は見えなかったけど、その夜、僕は確かに、「きてくれてありがとうね」という声を聴いた。
月曜日は部室にちょっと顔を出したら、西村部長しかいなかったので、西村部長に、ふと浮かんだ疑問を聞いてみた。
「霊との縁も大切にしなければいけないということはわかったんですけど、動物は、生きているときは他の魂との縁を大切にするっていうのはあまり考えられない気がするんですよね、猫とか犬は多少あるかもしれないですけど・・・墓参りは多分しないだろうし・・・」
すると西村部長は
「それは、人間というのは、この世から卒業する2~3歩手前になって初めて人間として生まれくるものだから、そこが動物とはちょっと違うところだよね。もっとも神や仏とか、特定のものでなくたって、この世界そのもの全てに、縁を感じることができたなら、それでも多分よくて、それは日本人にあってそうな気はするな」
と言った。
「すべてに縁・・・ですか」
「そう・・・ちなみに・・・・猫とか犬は、結構墓参りするらしいよ?今度赤田さんに聞いてみ」
ああ、思っているよりもこの世界はずっと広く複雑なんだ。




