美乃と桃音とシューティングゲーム
どん、という鈍い爆音とともに、大地が大きく揺れる。
音の発生した方向を見れば、土煙がもうもうと立ち込めていた。
「今のは音的にロケランかな~。適当にアタリをつけて撃ってるっぽいね。こゆみん、見えた?」
隣にいる赤い髪の少女が訊ねてきた。
ロケランが飛んできたであろう方向を見れば、建物の影にうっすらと煙が見える。
「見えたよ~五百メートルくらい離れたところの壊れた建物の影にいるみたい」
私の報告を聞いてモモネちゃんは短く返事をして駆けだした。
数秒後、自分たちの勝利を示すアラートが鳴り響いた。
モモネちゃんが最後の相手を倒したのだろう。
ほどなくして私たちはバトルエリアからロビーへと転送された。
「いやー、やっぱり桃音ちゃんは強いよね!至近距離で撃たれたロケットランチャーを無傷で防ぐって他の人では考えられない芸当だよね」
私が手放しに彼女のことをほめると桃音ちゃんは軽く肩をすくめた。
「戦闘力だけならねぇ?でもこゆみんのその体質もたいがいじゃない?なんで五百メートルも離れたところのほんの少しの煙を視認できるのさ」
先ほど参加したバーチャルゲームを思い出す。
チームを組んで戦えるバーチャルシューティングゲームがあると誘われて一度遊んでみたのだ。
私はダメージこそ稼げなかったが持ち前の視力でサポートに徹した。
具体的には屋外にいるメンバーの位置を全て桃音ちゃんに伝え続けたのである。
桃音ちゃんの戦闘力と経験をもってすれば定期的に敵の位置が分かれば相手が隠れる場所、交戦するであろう場所を特定するのはたやすいらしく、先ほどのバトルは二十分もかからずに殲滅するという終わりを迎えた。
「こういうゲームで相手の位置を相手より早く把握するっていうのはかなり大きなアドバンテージなんだよ、こゆみん」
「そうなんだ」
「なんか疑ってない?そうだね……じゃあさ、みくもんとこゆみんがペア組んで私と対戦しよう、フリーモードで」
フリーモードは装備する銃を一つに絞る代わりに、最初から装備した状態になる身内対戦向きのモードだ。練習にも使える。いきなり話題を振られたみくも先輩が桃音ちゃんを見る。
「私は普通に戦えばいいの?」
「うん。あ、こゆみんはスナイパーやってみてね」
こうして私&みくも先輩VS桃音ちゃんというフリーマッチが幕を開けた。
「美乃ちゃん、スナイパーは相手の位置を把握するまで迂闊に発砲しちゃダメだよ」
「はーい」
「特にモモネはその辺のプレイヤースキルが尋常じゃないからね。たとえ建物の影でも、足音で位置を計算して偏差射撃したり跳弾射撃するくらいには索敵力が高いのよ」
「あ、みくも先輩みくも先輩」
「?」
「モモネちゃん、あそこにいるけど、撃っていいの?」
私は遠くにあるビルを指さす。みくも先輩もその建物の方を見るも、怪訝そうな顔をした。
今回のルールは一発でも桃音ちゃんに掠ったりすれば勝ちのハンデがついている。
具体的には、モモネちゃんの体力バーはかすり傷一つで死亡するほどに減らした状態でスタートしているのだ。
相手の位置を把握するまで発砲するなとは言われたけど、見つけたなら撃って問題はないはず。
そう思って提案したんだけど、みくも先輩は固まっていた。
「ほ、本当?どうやって見えたの?」
「ビルの一番上の部屋にある鏡の反射で建物の中にしゃがみこんでいるモモネちゃんが見えたんだー」
今も私の目にははっきりと、モモネちゃんの姿が見えている。
「……この角度から、モモネの頭は鏡のどのあたりに映ってるの?」
「ちょっと下の方だね~囲碁なら3六みたいなところ?」
「そうね……じゃあ、そのあたりに立って。次に右に曲がって……はい、構えて。……撃って!」
みくも先輩の発言に沿って構える。少しそのまま姿勢をキープしたあと、号令に合わせて発砲した。
数秒後、戦闘終了のアラートが鳴った。
~モモネ視点~
ゲームが始まる。
超人的な視力を持つこゆみんの力を見てみたくなった私は彼女にみくもんと組ませて対戦を行った。そして今私は、建物の中にしゃがんで作戦を考えている。
「みくもんは頭いいから、跳弾射撃とか厄介なんだよね。通路に追い込まれたら厄介だとして……こゆみんは射撃はからっきしだったけどあの視力はヤバそう。視力で見つけてみくもんに報告、ってしてくるのが考えられるパターンだけど。さっさとこゆみんを倒すのがベストかな?でも何もせずに倒すのもなー」
そんな風にのんきに勝つための作戦を考えていた時だった。
突然窓が割れ――鏡のふちにぶつかって跳弾して――驚いて立ち上がった私の額を貫いた。
(あは、想定外すぎるや)
「いやー、はっはっは……おかしいでしょ!?何が起きたのさ!?」
から笑いした後桃音ちゃんが詰め寄ってきた。
上手く説明できる自信がなかったので即座にみくも先輩にヘルプを出す。
「一、美乃ちゃんがビルの中の鏡に反射する桃音が見えたと言い出す」
「……は?」
「二、映っている様子を聞いて私が座標を計算、美乃ちゃんに姿勢を取らせて発砲させた。以上」
「えぇ!?」
モモネちゃんは目を丸くして驚いていた。でも、それが事実なのだ。
「反射まで見えるとはねぇ……そこに跳弾射撃を使いこなすみくもんか~。さすがにあの状態で跳弾射撃来るとは予想できなかったよ。距離的に普通は見えないと思うからね……」
「ペアの私でさえ信じられなかったからね?狙撃練習したら化けそうだ」
そんなみくも先輩の軽口により私は幾度とFPSゲームの特訓をさせられることになるのだが――
それはまた別の話です。