表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

6. もうだめだ


 小依によって最後のパンツが()がされる。

 これで残すは水泳用のサポーターだけになった。薄い布切れを見て、小依は暗がりの中で満足そうに微笑んだ。


「あはは。すごいことになっちゃってますねぇー。かわいそぉー」


 我ながら哀れと言う他ない。


 まな板の上の鯉。俺の上にまたがった小依を彼方に追いやることは、すでにできそうになかった。生脚が気持ち良い。女の太ももと言うのは、こんなにもすべすべしたものなのか?


 そして小依が動くのに合わせておっぱいが揺れている。はだけたシャツからピンクのブラジャーと谷間の深淵が見える。


「あ。ひょっとしておっぱい触りたいんですかぁ。やっぱり先輩はおっぱいは好きなんですねぇー」


 ニヤリと悪魔の様な笑みを浮かべた。


「は……はなせぇ……」


「おっぱいにはですねー。こう言う使い方もある訳なんですよぉー」


 そう言うと、ずしんと小依がのしかかってきた。


 うわあ。何も見えない。真っ暗だ。何が起きたんだ。この顔に触れる柔らかいものは一体何なんだ。


 俺は何を見ているんだ。


「……これは」


「おっぱいですよぉ。先輩のだぁいすきな」


 俺は深淵を(のぞ)いている?


「どうです?」


 挟まれている、という言い方は正しくないのかもしれない。そんな生半可なものじゃない。包まれていると言ったほうが正しい。生命の土壌。その瞬間、俺の精神は赤子の頃にフラッシュバックした。


 ——————お母さん。


 成長と共に忘却した記憶が蘇る。そうだ。俺はこう言う風に大きくなってきたんだ。


「お。おかああさぁあん」


 俺は絶叫した。


 深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。


「おっおっ、おかぁああさん」


 その深淵を俺は発見してしまったと言うのか? 俺は再び絶叫した。


 もうここがどこかも分からなくなってしまった。認識できるのは小依のおっぱいだけだった。まるで干したての羽毛布団のような柔らかさ。耳元で囁かれる優しい言葉も、俺をはるか記憶の彼方に連れていった。


「やだぁー。そんなに嬉しかったんです? 良いですよぉ、存分に堪能して」


「ふあーん。ふあーん」


「かわいいかわいいですねぇー」


 記憶の奔流と共に俺の身体もまた赤子に帰ってしまった。震える手のひらが母乳を探している。


「ダメですよう。まだ出る訳ないじゃないですかぁ」


「おかーさん、おかーさん」


「おお、よちよち。良い子でちゅからねー」


 頭を優しく抱きしめられる。


 知らず知らずのうちに涙が出てきた。情けないが、止めることができなかった。このおっぱいの前では誰もが等しく赤子だった。その気持ちを裏切ることは、生命に対して反旗を(ひるがえ)すに等しいことの様に思えた。


 さあ、()め!


 揉むんだ!


「あぶう、あぶう」


「揉みたいんですねぇー。良いですよー。優しくしてくださいねぇー」


「あぶう、あんぶう」


「ふにふに触ってくださいねぇー」


「あんぶう! ぶう!」


 あぶ、あぶ。ばぶう。ぶう、ぶうぶう。あぶばぶ。ぶうぶううばぶばぶぶうばぶう。ぶう。ぶううぶう。あぶばぶ。ぶぶうぶ。ぶううばぶ。ばふ。あぶばぶ。ぶうう。ぶうう。ばっぶ。


「たまきいいんちょー? せんせいをつれてきましたー!」


 ばぶ?

 ばぶう。ぶうう。あっば。ぶうぶう。ああ。おぱおぱ。ぶう。ぶうう。ばっぶ。ぶう。ぶうう。ぶうう。


「おもったよりはやかったですねぇー。どうします? じゅんびばんたんみたいですし。さっさとやっちゃいます?」


「ばうう。おぱおぱ」


「たまごっちせんぱい?」


「あぶう。あんぶう」


「あららぁー」


 俺の記憶はそこで途切れた。


 次に目が覚めたとき、俺は病院の白いベッドの上にいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ