第9話『婆と俺と猫』
人狼達若手三人組と婆さんが遺跡に突入して二日後、昼頃に彼等は戻って来た。
彼等は調査……をすっ飛ばして、最深部のボスを撃破。遺跡内部より様々な物を持ち帰った。
流石古代文明の遺跡。見慣れない鉱物等色々な物があったが、一番の収穫は最深部にて遺跡の守護をしていたという2メートル程の大きさの人型のロボットだ。
俺としては新しい幹部怪人改造用の特殊素材や、怪人素体用に現地の怪物等捕獲出来るだけで充分だったのだが、思わぬ収穫に驚いている。
かなり強力な兵器だったようでウルフコマンドー達が強化人狼形態に変身して、三人がかりでようやく倒せたというのだから装甲材だけでもかなりの代物なのだろうことが覗える。
遺跡内の調査どころか一足跳びに大きな成果を携えて戻って来た人狼達を労い休むように声をかけた後、婆さんにも休むように言ったが、彼女はそれよりも早く仲間のもとに戻りたいという。
それならばと早速、戦利品の分配をはじめる。
こちらで確保したいのは新戦力にするために必要になるであろう遺跡の守護者になっていたロボットなので、それが叶えばあとはどうでもよかったのだが、こちらの予想に反して婆さんは戦利品自体はそれ程必要としていないと言う。
その代わり食料や水、医療品や物資が欲しいとのこと。こちらの世界では簡単に手に入る物でもあちらの世界では貴重品であるそうな。
それならば、と婆さんのリクエスト通りに食料等の支援物資をデバイスから用意。ついでに遺跡内の戦闘で破損した婆さんのパワードスーツの修理と弾薬の補充。いくつかの装飾品や武器も渡しておく。
戦利品の中にあった侵入者撃退用の四つ脚小型ガーディアンも修理し、婆さんに従うよう調整。
ついでにパワードスーツ運搬用の大型車両も用意。
訓練も終わってヒマそうにはしていたウルフコマンドーの内の年長組の三人に婆さんを送り届けてもらう事にした。
これだけ用意しても一からロボットやら怪人やらを制作するよりも安上がりなので、こちらとしては大助かりだ。
ようし、それではいよいよこの破壊された遺跡のボスロボットを再生させるか。
と、思ったが……ふと画面を眺めていると、素材研究の項目が増えている。遺跡から新しい希少金属等の素材を手に入れたからだろうか。いいね。
これは面白い。と、研究費をある程度つぎ込んで新たな装甲材質を研究する。
素材研究の進捗は時間経過と共に確認出来る仕様とのことなので、その間はSNS等で時間を潰して過ごす。
適当に時間を空けて再び素材研究の進捗状況を確認する。その成果として、複数の素材を合成して、新たな素材を作り出すことが可能となったようだ。
「素晴らしい……今回は人材は手に入らんかったが、装甲材に使えそうな特殊金属はかなり良いものが作れそうだな」
「あら、人材も良いのがいたじゃないの」
と、そんな事を呟いていたら、唐突に背後から声をかけられ肩を叩かれる。
「うぉ!? びっくりした。なんだ、ネロか。んで、人材って誰のこと?」
「アンタも分かってんでしょ。カルパチアのことよ」
そう言いつつネロは眠そうに欠伸を一つ。
「カルパ……あぁ、婆さんのことか。でも、婆さんはなぁ」
確かに……科学者兼考古学者って言ってたし、機械関係にかなり詳しそうだった。なので、是非ともその力を我が組織で活かして欲しかった。
しかし、守らなきゃいけない仲間を大勢抱えているみたいだし、こっちからは勧誘しづらかったんだよなぁ。
「とりあえず、ダメ元で交渉したら話が纏まったわよ。事後承諾になるけど、いいわよね?」
「もちろん、役に立つ仲間が増えるのは大歓迎だ!」
顔は怖いが、以外と気さくなあの婆さんならば人見知りの俺でも問題なく話せる。問題ないと伝えると、
婆さんとどのような契約で話を纏めたのか、ざっくりと説明された。詳しくは後程、という事らしい。
説明を終えるとネロは、ウルフコマンドーの男を使いにやって待機していた婆さんを呼びに行かせた。
「じゃ、そういうことで」
と、去り際に俺にウィンクをしつつ。
「貸しだからね?」
と言いながら去っていった。
相変わらず頼りになる猫だ。男前すぎる。まぁ、それを言うとレディーに対して失礼とか言われて怒られる気がするので言わないが。
その後、連れて来られた婆さんと話を詰めようと思っていたのだが、やって来た婆さんは俺の手元にあったデバイスを覗き込む。
遺跡内部にあったロボットを幹部として再生させようかと思っていることを説明すると、画面に映っていた素材合成共々興味を持ち口を挟んできた。
かくして婆さんとの話はちょっとした言い争いから論争、作ろうとしている機体のコンセプトや外見、武装等々に発展し、大いに盛り上がった。
気が付けば明け方になっており、俺と婆さんの目の前には…………何故か金髪縦巻きロールのゴージャスお嬢様風の外見をしたメイド服姿のアンドロイドが出来上がっていた。
反省はしている。しかし後悔はしていない。