第8話『婆と遺跡』
デバイスを起動させ人材や資源等の確保の為に色々な惑星の様子を眺めていると、ふとその内の一つが目に留まる。
見渡す限り一面に砂漠が広がっている荒涼とした世界を二足歩行の何かが移動している。ロボット? いや、パワードスーツか? 砂漠だとイマイチ大きさが分かりづらいな。
ホバー移動でもしているのか、砂埃をまき散らしながら何かから逃げるように疾走するそれを何とはなしに眺めていたら、いつの間にかウルフコマンドーの皆さん達がやって来てモニターを覗き込んでいた。
「ねぇねぇ、何やってるんですか総統?」
こちらに声を掛けながら背中に抱きついて来たのは昨日風呂場に乱入して来た人狼娘の一人。
名前はトゥリー。やや青みがかった銀髪をした人懐っこい犬のような明るい性格の美少女だが、コイツは人との距離の詰め方が少しおかしい気がする。
最初はそれ程懐いていなかったし、比較的落ち着きのある真面目なヤツといった印象だったのだが……銭湯の買い取りから再び使用出来る状態にするまでの数日中に、コイツらに飯を食わせたり、色々世話を焼いていたら懐かれてしまったようだ。
「なーにか~美味しい物でもぉ、探してるのかな~?」
と、言いつつ真横からぴったりと俺の頬に自分の頬をくっつけながら近づいて来たコイツもトゥリーと同じく、物理的距離の近い配下の内の一人だ。
コイツの名前はピャーチ。眠そうな顔と間延びしたしゃべり方が特長の人狼娘だ。
コイツは特に食い物につられやすく、己の欲望に忠実だが、ウルフコマンドー達の中では唯一、魔法能力に特化した強化人狼でもある。
幻惑系の魔術で攪乱し、身体能力強化の魔術で素早く仕留める。といったことも出来る為、人狼の種族特性と能力が見事にマッチしているが本人は割と怠け癖のある性格をしている。
そんな二人と俺のことを恨めしそうに見つめている気弱そうな印象の美少年。彼が人狼のドゥヴァ。
彼には突出した能力はないが、人の動きをよく見ており、仲間が戦闘において動きやすいように的確なフォローの出来るタイプであり、逆に敵の動きを阻害することも得意とする為、チームで戦う時には非常に重宝する人材とのこと。
俺のことも熱のこもった視線で見るのは止めてほしい所だが。
と、そんな風に突如乱入して来た人狼三人組と再びデバイスのモニターを覗き込んでいると、逃走を続けているパワードスーツの背後の砂が勢い良く弾けたと同時に中から巨大なミミズに似た姿の怪物が現れ、瞬時にパワードスーツに襲い掛かる。
「あ、襲われてるねぇ、うへぇ、気持ち悪っ!」
「巨大ミミズ。美味しくなさそ~だぁ」
「うわぁ……おっきなモンスターですね。僕怖いです」
トゥリー、ピャーチ、ドゥヴァの順にそう言いながら飛び付いてくる。ドゥヴァの台詞がかなりの棒読みだったような気がするのは気のせいだと思いたい。
そんな事をやっていると、攻撃を繰り返す巨大ミミズにパワードスーツが反撃とばかりにバックパックからミサイルを発射する。
だが、巨大ミミズ……サンドワームとでも言おうか。サンドワームにはさしたるダメージにはなっていない様子。
三人の下敷きになりながら俺は、とりあえずあの世界の情報が知りたいからあのパワードスーツの人物を救出して話を聞いてこい。と、三人組を砂漠世界に派遣するべく送り出す。
普段はユルそうに見えても元人狼の戦士で今は組織の特戦部隊員。しっかりと公私の区別はついているようだ。
ウルフコマンダー中最大の攻撃力を持つ元気娘のトゥリーが、巨大なサンドワームの頭上を越える高さから食らわせた回転かかと落としによってサンドワームの頭部を粉砕!
パワードスーツ姿の人物に事情を聞くことに。
パワードスーツの中身は、カルパチアという名の眼光の鋭い老婆だった。
彼女曰く、この世界は度重なる戦争で文明の崩壊した世界だとのこと。
荒れ果てたこの世界では生き残った人々が水や食料等の少ない資源を求めて争いを繰り返し、人類は更に数を減らすといった弱肉強食で世紀末ヒャッハーな荒廃世界と化してしまっているようだ。
文明崩壊後にも小規模な戦争は断続的に行われており、戦死者や負傷者は後を絶たない。
そんな世界で、崩壊前の超古代文明の研究をしていた考古学者兼科学者のカルパチア婆さんと旦那は戦傷者や女子供を保護しながら野党や砂賊と化した荒くれ者共と戦っていそうな。
しかし、長年の無理がたたって旦那は数年前に病死。備蓄してある水や食料も底を尽きかけているという絶望的な状況。
そんな時、仲間より超古代文明の遺跡が発見されたとの一報がもたらされた。
婆さんは旦那の遺したパワードスーツを駆り、単身遺跡に乗り込むべく行動を開始。その途中にサンドワームに襲われたようだ。
報告を受けた俺は婆さんと交渉。いくらパワードスーツがあるとはいえ、単身で遺跡を踏破出来る可能性は低い。そして俺達は戦力があって、遺跡の中には組織設立に役立つモノがある……かもしれない。
その為、一時的に人狼三人組とパーティーを組み遺跡の踏破を目指す。遺跡から発掘される資源は平等に分配、必要に応じて水や食料と交換も出来る旨を伝えると一応の了承を得る。
利害関係は一致しているし、人狼達のほうが強いのもあってある程度の信用は得られたのではないかと思う。
と、そんな訳で人狼の若手三人組にウルフコマンドーの初任務として遺跡調査に乗り出してもらうこととなった。
食料や装備をやや多めに送っておき、彼等の帰還と報告を待つことにしよう。