第6話『人狼達』
朝から広々とした湯船につかって晴れ渡る青空を眺める。
素晴らしい一日の始まりに相応しい、とても贅沢なひと時だ。
これもスーパー銭湯を買い取り本拠地に出来た役得というヤツなのだろう……しかし、時として良いこと同士を掛け合わせてもより良くなることばかりでは無い! と、今俺は思い至っている。
何故なら、本来とてもリラックス出来るであろう憩いの場所がとても落ち着かない場所へと変貌を遂げてしまったからだ。
と、いうのもここは男湯であるにも関わらず、俺の回りには三人の女性が並んでいるからだ。
一人はアイレで、残りは昨夜アイレが配下にと勧誘して来た六人のなかの二人だ。
この六人はアイレが異世界で助けた人狼族の戦士で、アイレにとても恩義を感じているという。
力を重んじる彼等、彼女等はアイレの桁外れの戦闘力に魅せられ、強い憧れを抱いたのだそうだ。当然、その超常的な力を授けた俺のことも尊敬していると言った。
イヤイヤ、そこまでは良いんですがね。その後が問題だったのですよ。
スーパー銭湯の買い取りが完了した為、さっそく皆で入ろうとアイレが言い出したのだ。
良いアイデアだと人狼達も賛成し、人狼のうちの男の一人がボイラーの調節を買って出た。やり方は何故かネロ先生が教えていた。何故知っていたかは不明。
その後、人狼達のうちの二人は怪我をしていたので治療のために離脱。これで風呂に入る人狼の男は一人となった。
当初はこの人狼の男……大分若く、少年と言っても良いほどだが、そんな彼がアイレや俺の素晴らしさを湯船の中で熱く語り出し、その瞳の奥に次第に妖しい光を灯し始めた頃……男湯に俺の救出という名目で人狼少女二人とアイレが乱入して来た……という訳だ。
当然、全裸で。
そもそも人狼達やアイレは混浴などまったく気にしておらず、護衛もろくに付けずに風呂に入るほうが問題だと言った。
その為、せっかくの機会なので皆で入りましょうとの話となり今に至る……という訳だ。どうしてこうなった。
人狼とはいえ変身前なので見た目は当然普通の人間と変わりない。そしてここにいる三人の人狼達は年頃の少年少女。
そんな彼等が心身共に結構ガッツリと距離をつめてこようとする。裸で。 こんなオッサン相手に。事案である!
これも人見知りをこじらせかけているクセに、なんか面白そうだからという理由だけで悪の組織を作り上げようとした報いだろうか。
などと、思いつつ次第に意識が薄れてゆく中でそんな事を考えていた。
「よかった。気が付かれましたか。」
目を覚ますと、すぐ目の前に柔らかな笑みを浮かべたアイレの顔があった。
これはもしや膝枕というやつではないだろうか、慌てて飛び起きようとすると止められる。どうやらのぼせてしまったようだ。
スポーツドリンクを飲みながら横になって休んでいるとアイレに頭を撫でられる。
徐々に身体の熱が引いてくると、心身共に落ち着いて来たので気恥ずかしさが出てくる。心なしか嬉しそうな表情をしているアイレから離れ、礼を言って立ち上がる。
もう今日は疲れたし、組織の作業は明日でいいかな……そんな風に『明日から頑張る』精神で遅々として進まない悪の組織設立計画にしびれを切らしたネロ様に思い切り尻を蹴られたのはそのすぐ後のことだった。
翌日、人狼達六人にそれぞれ個別面談を行った。
昨日は俺が倒れてしまった為に、あの後アイレには人狼達に事のあらましを説明してもらい、彼等にはイメージを掴むために戦隊ヒーローのDVDを見てもらっていた。
全員に色々と質問をしたが、世界征服や改造手術を施されることに関しても異論はなく、むしろ積極的に参加したい。と全員が語った。彼等の意欲は高い。
とりあえず彼等の中で一番強い年長の男性が代表者として幹部怪人への改造手術を受け、残りの五人は戦闘員への改造手術をする事で話は纏まった。