第5話『組織の運営と幹部怪人問題』
ガラス製の容器にみっちりと隙間無く身体を収めながら、リラックスした状態で過ごしているネロを、俺は何とはなしに眺めていた。
SNSの投稿ネタでよく見かける『猫は流体』というのもあながち間違いではないのかもなぁ……などと思ってしまう。まぁ、彼女の場合は本当に流体になれる為どこにでも入り込むことは可能なのだが。
さて、とりあえず一人目の配下に組織設立資金の三分の一近くを投じてしまった挙げ句、その配下には逃げられてしまい部下はなく金だけが減ってしまうという最悪な状況は何とか避けられた訳だが……当初の予定とはかけ離れた状態になってしまっている。
現状最大戦力にして強力無比なダークエルフ様は首領たる俺の副官兼秘書となっている為、表立って身動きが取れない。
従って先頭に立って戦闘員や怪人達を率いる幹部怪人が必要となるのだ。
「なるのだ。じゃなくて、幹部怪人の前に必要なモノがあるでしょ?」
と、こちらの思考を読んだような発言をしたのは我らが参謀兼経理担当のネロ様。
彼女曰く、先ずは拠点となる場所を作るのが先決とのこと。至極もっともな意見にどうしたものかと気分転か……情報収集の為、ネロを肩に乗せ近所の見回りをすることにした。
散策途中、ネロ様のおやつ等を物色する為に家から歩いて4~5分程の距離にあるホームセンターに寄って帰ろう……と、思っていたが、その少し先にあるスーパー銭湯がふと気になり足を運ぶことにした。
「閉店……か」
入り口にある閉店のお知らせという貼り紙を見てボソリと呟く。日頃大して利用してもいないクセに無くなると途端に寂しがるという閉店あるあるにもの悲しさを感じながら最近までスーパー銭湯だった場所から離れようとする。
すると、ネロ様のネコパンチが飛んで来て、容赦のない肉球のプニプニラッシュを俺の顔面に叩き込んでゆく。
何をするんだこの野郎! と抗議の声を上げるが、緩みきっただらしない笑顔で何を言っているんだと呆れ顔で返されてしまった。
どうやら、帰る前に貼り紙の連絡先をメモしておけとのお達し。
「連絡先なんてメモしてどうするんだ?」
「ここを買い上げて組織の本拠地にするのよ」
ほぅ……なるほど。1から施設を作ったりするよりも手間が掛からないってことなのかね。場所も家から近いし、俺としては特に異論はない。
家に戻った後、俺のスマホを強奪したネロはスーパー銭湯跡地の買い取りにあたっての一連のやり取りを自ら電話連絡ですませ、そのついでに自分へのご褒美としてちゅ~るをネット注文するまでを華麗に済ませられる程に文明の利器を使いこなしていた。
担当者と直接会って対応しなければならない業務はネロからアイレに仕事を割り振り、順調に買い取り作業は進められてゆくため俺のやる事はない。
やや手持ち無沙汰のまま次に作成する幹部や怪人の案などを考えつつダラダラと数日を過ごしていると、スーパー銭湯の買い取りが完了。一応の拠点も出来た為、次の作業に移行することにした。
今のままでは人手が圧倒的に足りない為、さっそく手の空いたアイレに相談すらると、当てがあるとの事で、現在彼女は勧誘の為に元いた異世界へ出張中。
「お任せ下さい。忠実なる臣下に出来そうな者共を、必ず連れて帰って来てみせます!」
と、鼻息荒く飛び出して行った。元気そうで何よりだ。
その間にネロ様にはヒーロー側への威力偵察をお願いしておく。
ちょっと働かせ過ぎじゃないかしらとご機嫌斜めな彼女に、最近購入したちょっと良いブラシで丁寧にマッサージを施し、配下が増えて作業が一段落したらお休みを取って頂くという事でお許し頂いた。
あれ? 俺って組織の首領だよね? という台詞は言わずにおいた俺はとても空気の読める首領だとおもう。
現状もっとも役立たずな自覚はある……が、よく考えてみると指示を出すのが仕事なのでしょうがないよね。と自分を誤魔化す。
そうこうしている内にいつの間にか帰還していたらしいアイレが音もなく背後に現れる……と、俺が驚くので彼女はわざと音を立てて現れた。
「総統、お待たせ致しました。新たな戦力となる者共を連れ帰って参りました!」
見事、宣言通りに六人程の男女を引き連れて戻って来たアイレはそう言うと得意気に笑った。