第4話『アイレとネロ』
「貴方様に救われたこの命、如何様にもお使い下さい。万難を排し、敵を悉く血の海に沈めてみせましょう」
なりゆきによって盛りすぎ強化改造を施された彼女は単身で王都に攻め込み国1つ潰す程に強くなってしまったらしい。
見事復讐を成し遂げた彼女は得意満面の顔で開口一番、そう言ってきた。
彼女の名はアイレ。過去と名は捨てて新しい名で生きたいとのことで名付けを求められた為、急遽ネーミング辞典を検索し、彼女に合う名前を考えた。
確かスペイン語だった……ような? 何語かはうろ覚えだが、緩急を自在に操る彼女の戦う姿が風の妖精のようだった為、風を意味するアイレと名付けた。
未だに名称も決まっていない組織だが、我が組織第一の配下である彼女を副官兼秘書に任命し、秘書とはなんたる者かという事やこの世界の知識等を本や動画などで学ばせる。
アイレは様々な知識を吸収してゆくと共に外見にも変化が生じてきた。
ある日、女性用のビジネススーツに身を包み、髪を纏め伊達眼鏡を掛け、まさにできる美人秘書。とでもいったような外見で俺の前にやって来た。意外と形から入るタイプらしい。
そんな見た目程クールではないクール系美人秘書兼副官のアイレと二人きり……ではなく、正確には二人と一匹による組織の設立となる訳だ。
どういう訳かと言うと、あの時舞い戻ったアイレの足下には一匹の黒猫がいたのだ。それもスライムに捕食されかかった状態で。
この黒猫は、少し前からウチに姿を現すようになった野良猫だ。
空気の入れ替えにとたまたま開けていた窓からいつの間にか入り込み、気まぐれに部屋を闊歩し気が付くといなくなっているといった感じだ。
コイツは野生全開の暴れ者といった風ではなく、非常に理知的で上品な猫であった。
窓の下にタオルを置いておくときちんと足を拭いてから入ってくるし、部屋のものを散らかすといった事もしないため、さして追い出す必要もないかなぁと好きにさせ、時折エサなどをやったりしていた。
自分からエサを欲しがる素振りはみせないが、くれるなら食べてあげてもいいのよとでも言いたげな態度が気位が高い印象を受ける……が、不思議と憎めない所があるヤツで、少しずつこちらに懐いて来ていると感じられる所に可愛げがあった。
両目の色が違う珍しい特色を持つ猫だった為に見間違いはない。
そんな程よい間柄……と俺は思っている猫が、異世界の怪物に襲われている現状に面食らいつつも、納得などいく訳もなく救助の為にまたも緊急で改造手術をする事となるのだった。
すでに身体の何割かは食われている状態のため、スライムから引き剥がすよりも逆に取り込んではどうか? という考えに至った俺はコイツに捕食能力と流体化の能力を付与し、自衛の手段として爪に初期段階の強化と身体自動回復能力……あと、戦闘以外の補助的な能力をいくつか与え配下とした。
アイレと同じく洗脳手術は行わなかったが、捕食されるのは怖い小心者の俺は俺を捕食しないようにだけは処置を施しておきました。
そんな経緯で仲間に加わる事となった彼女にはネロと名を付け、三食昼寝付き暖房とテレビの優先権という条件のもと参謀兼経理等基地運営の仕事を受け持ってもらう事になった。
ん? 猫にそんな仕事を任せても良いのかって? いやいや、いくつか適正を図る為のテストをしたが元々半分引きこもりニートの俺や異世界から来たばかりのアイレよりもよっぽど賢いことが分かり、俺がひっそりとダメージを負うことになるのと同時にネロとは会話がいつの間にか可能となっていた。これにはびっくり。
と、そんな彼女達が仲間になってくれた訳だが、一応どの位の強さがあるのかは把握しておきたい。
まずは戦闘用の敵として防御力を上げた巨大なゴーレムを何体か作り上げ、アイレと戦わせてみる。
が、残念ながら、アイレの強さというのはよく分からなかった。
何故ならば。さぁ、戦いの始まりだ……と、思った瞬間にゴーレム共は残らず破壊されてしまい、元の形も判別出来ない程の残骸と化していたからだ。
いや、確かに強い、という事自体は分かるのだが、いまいち実感出来ない。とでも言う感じだろうか。
気を取り直して、次はネロの戦闘力を測ろうと、オークを数体出現させ、戦わせる。
こちらはきちんとした戦いになっていて一安心。ネロが素早さでオーク共を攪乱し、鋭い爪で着実にダメージを与えてゆく。
何体かのオークを爪で切り裂いた後、ネロは身体を流体化させ、倒れたオークを取り込みはじめる。そして自らに取り込んだオークへと姿を変えると、残りのオークへと襲い掛かり、見事に撃破してみせる。
意図せぬ状況から改造することになった一人と一匹だが、大きな力を持っていることは確かなようだと一安心。
何はともあれアイレとネロが加わってくれたお陰で何とか組織作りも前進出来そうな気がしてきた。
無計画に始まった悪の組織設立計画だが幸先は悪くない。