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41 拉致



 ルードヴィヒは冷たいものが頬にあたり目を覚ました。目の前には暗い天井がある。高い場所に、小さな明り取りの窓が見て取れた。


「ここは……」



 かび臭い。体を起こすと、右手に鉄格子が見えた。どうやら城の地下牢のようだ。ときおりぴちゃりとぴちゃりと水滴が落ちてきた。劣悪な環境だ。


 ルードヴィヒはリアを見送ったあと森の入口へ向かった。リアに心配をかけたくはない。しかし、その後、すぐに三人の男達に襲われた。途中で囲まれていることに気付き、応戦するも体が自由に動かない。棒状のもので後ろから殴られ、あっというまに薬をかがされ意識を失ってしまった。


 恐らくここはアリエデ。今の自分を拉致するのはアリエデしかない。他国はそんな愚を犯さない。公には病気といっているが、他の国の上層部はしっている。それが解呪不可能な呪いだということを。いつ死んでもおかしくない者を人質にとっても無意味なのだ。



 クラクフ王国は呪われた王族を助けない。いつ死んでもおかしくない王子奪還の為に兵が命を落とすことのないようにそう決まっている。

 ただ報復はあった。王族の絆は強くそれは熾烈なものになる。


 だが、リアはどうだろう。彼女は自分を助けようとアリエデにきてしまうのではないか。それにもしクラクフ王国がアリエデに攻め込んできたら、リアは身を切り裂かれるような苦しみに苛まれるだろう。


 ルードヴィヒはそれだけが心配だった。それに己の不甲斐なさでフランツとコリアンヌに迷惑をかけてしまう。間違ってもフランツが助けに来ないといいのだが、と祈るような思いだ。前途ある騎士を巻き込みたくはない。


 ふと床に目を向けると目玉が浮くような薄いスープが置かれていた。重湯代わりに丁度良いとルードヴィヒは起き上がり、腹は空いていないが皿に手を付けた。


 食事は日に二回、スープと硬い粗末なパンがでた。牢は湿気が強くかび臭い。リアも地下牢に繋がれていたと聞く。

 こんなところに若い娘が一人放り込まれたのかと思うと胸が痛む。








「いいざまだな。クラクフの王族がそのような汚物を口にするなど。それほど飢えがつらいのか?」

 

 囚われたルードヴィヒを嘲笑う声。


 鉄格子の前に影が差していた。人がいるのには気付いていたが、ルードヴィヒはひたすら固いパンを咀嚼し食事に専念する。リアと約束したのだ。もう二度と死を望まない。彼女がいいと言うまで生き続けよう。


「貴様はクラクフの呪われた王子であろう。おい、貴様、聞こえているのだろう? いい加減に返事をしないか」


 ルードヴィヒが挑発に応じず黙々食べていると相手が焦れてきた。堪え性のない奴だ。食事も終わったことだし、ルードヴィヒは彼に応じることにした。


「何の用だ。この国の国王は地下牢に降りてくるほど暇なのか。アラニグロ地区の結界が破れ、魔物に攻め込まれているのだろ?」


 痛いところをつかれ、ニコライの顔が怒りにゆがむ。


「アラニグロ地区だと? 貴様ら外国人はおかしな言いまわしを使う。あそこは黒の森だ。この死にぞこないが!」


 ニコライが癇癪を起す。

 その時になってやっとルードヴィヒはニコライに目をむけた。だが、その姿を見て驚く。髪が老人のように真っ白だ。目は血走り濁っている。年の頃は自分と同じはずだが、国王はすっかり老け込んでいた。聖女を追放したことで、この国の穢れを背負っているのだろう。



 一方、ニコライはルードヴィヒの驚いた顔に満足した。このような場所に囚われているのに超然とした彼の態度が気に入らなかったのだ。絶望にゆがむ顔が見たいと思った。


「なあ、ルードヴィヒ、これから茶会はどうだ?」

「茶会?」


 にやりと笑うニコライに、ルードヴィヒが訝しげな顔をする。

 

 ニコライは聖騎士や兵士から彼が無力だと聞いていた。彼を倒し攫ってくるのは赤子の手を捻るようだったという。


 ルードヴィヒは呪われる前は武勲をたてた国の英雄だったと聞く。今は痩せ、見る影もない。全身が呪いに侵され、歩くにも不自由し杖を突く。

 みじめな奴だ。たとえ大国の王子といえど、恐れるに及ばない相手だとニコライはせせら笑った。





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