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63 占い師かよ

「こんなところで何してる」


 ウェルペンの冒険者ギルドにいるはずの男――ジャックが目の前のソファにどっかりと腰を下ろし、俺に問いかける。


「あ? だからこれからクーデター起こすって言ってるだろ。お前こそ何でここにいるんだ」

「俺がギルドマスターだからに決まってんだろ」 

「……」


 なるほど。前から胡散臭い奴だとは思っていたが。


「元々おれはこっちの出身なんだ。だからお前のこともよーく知ってる。なぁ、アーチボルト殿下よぉ」

「お前、知ってたのか!?」

「アーチボルト殿下は東大陸じゃ有名人だからな」


 ジャックは口の片端を上げて、不敵な笑みを浮かべた。


「いや、待て。俺が誰だか知っててドラゴンの偵察させたのかよ」


 ドラゴンがいるとも知らずに行った北の森でのことを思い出した。

 突如現れた赤黒い巨体に震えが止まらなかった。


「ギーが適任だったからな」

「そこはギーかよ」

「便利に使って悪かったな」


 どちらからともなく笑い出した。


「ジャック、久しぶりだな」

「ギー。元気そうで何よりだ」


 俺が伸ばした手をジャックは力強く握り返した。


「それでアーチボルト殿下としてクーデターを起こすのか?」

「あぁ。それで冒険者ギルドの力を借りに来た」

「なるほど……。2つばかり聞かせろ」

「そこは分かったじゃないのかよ」


 さて、ギルドマスターとしてのジャックは俺に何を問うつもりだろうか。


「発案者は誰なんだ」

「あぁ、それか」


 さすがに鋭いところを突いてくる。


「提案したのはマルグリット王女殿下だ」

「ふん。あの女狐か」


 女狐ねぇ。俺のいない10年の間に何があったのか。まぁ、これから一緒になるなら知らない方がいいのかもしれない。


「それで2つ目は」

「お前がガリア王国の王になるのか?」


 なぜ? その事はクロウにも伝えていない。知っているのはあの場にいたマギー、聞いていたかどうか定かではないがピエールと俺の3人だけのはずだった。

 無言を肯定ととらえたジャックが言葉を続けた。


「女狐と結婚。お前はそれでいいのか。ドルバック貿易の娘のことはどーするんだ」

「さっきからお前何なんだ。それ以上何も言うな!」


 振り上げた腕は即座にジャックに掴まれた。そのまま無理やりソファーに押しやられる。


「いいから座れ」

「なぜドルバック貿易の娘とのことを知ってる」


 俺はジャックを睨みつけた。

 だがそんなことなど意に介していないようにジャックは淡々と話し出した。


「簡単な推理だ。東大陸のアーチボルト殿下がわざわざウェルペンのドラゴン退治を買って出る必要なんてないだろ。何のためにそこまでするのか。あの時お前はラ・メールで働いていたし、あの店の主人はドルバック貿易の一人娘だ。年齢はそこそこ離れていても男女の間だ、そういう感情が生まれてもおかしくない。それに惚れた女の土地を守りたいという方が、恩返しだとか何とかよりよっぽど納得のいく理由だろ」

「はぁ……まいったな。お前、占い師かなんかに転職した方がいいんじゃないのか」


 あまりにも言い当てられて先ほどまでの怒りは霧散していた。


「それで娘となんかあったのか」

「ネーデルラン皇国に行っちまったんだ」

「振られて自棄になってるってわけか」

「うるさいっ」


 俺は頭を抱えた。待っていてくれると言ったイヴリンは、自らの意思でリチャードの所に行ったんだ。それは俺を拒絶したということに他ならないだろ。


「娘はお前がアーチボルト殿下だと知ってたのか」

「いや伝えてない。そもそも俺はもう殿下じゃない。そんな過去の話を伝えて何になる。今の俺が俺の全てだ」

「お前なぁ……」


 ジャックは大きなため息をついた。


「いいか、今のお前があるのは過去のアーチボルト殿下があるからだ。突然湧いて出てきたわけじゃないだろ。今のお前だけ見てくれと言われても普通は惚れた相手の全てを知りたいと思うもんだ。逆の立場だったらと考えたことはねーのかよ」

「俺は……」

「大方ネーデルラン皇国に連れてった奴が、お前のことを教えてやるとでも言ったんだろうよ」

「くっ」


 結局俺は自分のことしか考えてなかったということか。

 この10年フリースラント王国から逃げ出した自分のことが許せずにいた。冒険者になったのだってフリースラントのために何も出来ないアーチボルト殿下という存在を忘れるためだった。だからどうしてもイヴリンにはアーチボルト殿下でしたとは言えなかった。そんな俺のことをイヴリンがどう思うかまで気が回らなかった。


「俺はどうしたら」

「先ずは過去の自分と決着をつけろ。アーチボルト殿下としてお前がやりたかったことをやり通せ。そのための力ならいくらでも貸してやる」

「すまない」

「ギーには動機は不純でもウェルペンを救ってもらったからな。それと娘のことは当分俺に任せてくれないか」

「えっ?」

「これからクーデターを起こすって奴よりは、俺の方が安全だろ」


 はっきり言えばたとえジャックだろうと任せたくはなかった。今すぐにでも行動してイヴリンに俺の気持ちを伝えたかった。だがジャックの言う通りこれ以上の犠牲が出る前にクーデターを起こす必要があった。マギーとの結婚の件もあったが、今はやれることをやるしかない。


「分かった。俺はクーデターに専念する。後はなるようにしかならねぇだろうしな」

「ふん。ギルドとして力を貸すんだから勝ってもらわねえと困るんだよ。せいぜい張り切るこったな」

「だからうるさいって言ってんだろ」


 俺たちは再び笑い合った。

お読み頂きありがとうございました。

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