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5 薬草採取じゃなかったのか

 まだ薄っすらと星の残る北の森。ジャックに無理やり押し付けられた薬草採取にやって来た俺は、眠い目を擦りながら森の中を奥へと進んでいた。なんせ今日は『ラ・メール』に行く前に3件分の依頼をまとめて処理しなきゃならない。そういう訳で俺は手っ取り早く薬草が群生している場所に行くことにした。乗ってきた馬は奥に行くには邪魔になるため、森の入口付近の木に繋いできている。

 地表に張り出した根に足を取られないように注意して歩いて行くと漸く目印にしている洞窟が見えてきた。この洞窟は地上の開口部が狭いため目立たないが、中は人が立ち上がれる程天井が高い。奥行きはそうでもないが寝泊まりには十分のスペースがあった。駆け出しの頃はよく利用したもんだが、最近はめっきり訪れることが少なくなっていた。

 以前と変わらず洞窟の周りには様々な薬草が生えていた。俺は冒険者カードに書き込まれた薬草を確認すると採取に取り掛かった。


 やはりここまで来て正解だった。作業に集中していた俺は立ち上がって腰を伸ばした。集め終わった薬草を種類毎に束ねるとポーチにしまう。

 この分なら余裕で『ラ・メール』に間に合いそうだと思ったその時、長い不気味な咆哮が静寂を切り裂いた。ビリビリした振動が足元から駆け上がり俺の体を恐怖が走り抜けていった。堪らずに膝をつく。


 これはヤバい。


 俺は瞬時に洞窟に転がり込むと全身に防御魔法を張り巡らせた。すると翼の羽ばたく重い音がしたかと思った途端、周囲の樹々をなぎ倒さんばかりの風が吹き荒れ洞窟内に流れ込んでくる。防御魔法が遅ければ俺の体は飛んできた木の枝で穴だらけになっていたかもしれない。俺は風が収まるの待った。

 全身の毛穴が開き冷たい汗が噴き出てくる。そう言えば、いつになく森は静かだった。くそっ。探知魔法を展開させていたなかった自分に腹が立った。風が止むと俺は不可視の魔法も重ねがけして洞窟の入り口から慎重に上空を見上げた。


 そこに見えたのは俺の想定通り、ドラゴンだった。

 赤黒くきらめく巨体を揺らして飛んでいる。

 

 なんでこんなところに……。

 北の森に生息するドラゴンは魔素溜りにいるとされていた。今まで魔素溜りから出てきたなんて話は聞いたことがない。一体何が起こってやがるんだ。

 だがのんびり考えてる場合じゃない。ドラゴンは西の方角へ飛んでいった。この森は東西方向に長く、俺のいる辺りは一番東寄りだ。もし奴が森から出ないと仮定するならば、旋回して戻ってくる前に森を出ていた方がいい。幸いなことに薬草の採取は終わっている。俺は洞窟から這い出ると馬を繋いだ所を目指し駆け出した。あの馬、逃げてなければいいが……。


 再び咆哮を聞くこともなく俺は森の入り口まで戻ることが出来た。繋いでいた馬はのんびりと草を食んでいる。そこにいたことに安堵した俺は、綱を外して鞍にまたがると腹を蹴ってギルドを目指した。




 朝日に染まり始めたウェルペンの町を疾走した俺は広場で馬を降りた。途中ギョッとした目を向けてくる奴もいたが、そんなことに構っている場合じゃなかった。俺はギルドの扉を勢いよく開けて中に入ると、いつものカウンターに座っているジャックに走り寄って胸ぐらを掴んだ。

 俺が文句を言ってやろうと口を開いた時、先に言葉を発したのはジャックだった。


「ギー、先ずは魔法を解かないか?」

「…………」


 あぁ、そうだった。あまりにも慌てていたせいで不可視の魔法を展開させたままだったことを忘れていた。それで驚いている奴がいたのか……。町中を誰も乗せずに疾走する馬を見れば俺でもギョッとするか。それにしても慌てずに相手をしているジャックの方に驚く。何で俺だと分かった?

 俺は言われたとおれ魔法を解くと掴んでいた手を離した。俺の姿がジャックの瞳に映る。


「で、どうだった? ドラゴンの様子は」

「…………」


 ジャックはドラゴンの事を知っていたのか?

 くそっ、初めからこっちが狙いだったか。


「赤黒い色の奴だ。北の森に生息している奴だろう。西の方角に飛んでいった。一体何が起こってる?」

「それが分かればお前に見に行かせたりしてない」


 無表情なジャックの口の端が少しだけ上がった。


「魔獣が町の近くにも出没してくるようになった。ギルドとして各方面に応援要請を出している」

「ドラゴンのせいって訳か」

「多分な。それで薬草は採取出来たのか?」


 こんな時でも依頼の結果を気にするジャックを呆れた顔で見る。俺がポーチから薬草を取り出してカウンターに置くとジャックはそれを確認して直ぐに精算に入った。駆け出しが受けるような依頼だっただけに達成料の方はそもそも宛にしていない。だが、ジャックが出してきた金は思っていたよりずっと多かった。


「北の森の視察代金も入っている。これはギルドからの正式な依頼だ」

「始めから言えよ!」

「言ったら引き受けなかっただろ」

「…………」


 あぁ、その通りだな。

 妙に納得してしまった俺は黙って金を受け取った。そう言えば、広場に馬を置いてきたままだったことを思いだす。


「馬を広場に乗り捨ててある。後は頼めるか?」

「いいだろう」


 俺はジャックの回答に無言で頷くと扉に向かった。


「ギー」


 俺を呼び止めるジャックに、これ以上何かを押し付けられるのはごめんだと眉をひそめて振り返った。


「助かった」

「…………」


 俺は手を軽く上げてギルドを後にした。

お読み頂きありがとうございました。

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