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41 大洋に浮かぶ島

またまた間が空いてしまいました。申し訳ございません。

久々にギーの登場です。

 その日甲板に出た俺に思ったより強い風が吹きつけた。ピント張られた帆は太陽の光を受けていつもより白く、海鳥の先導する向こうには久々の陸地となる島が見えていた。この島は大陸間航路における中継地の一つで、元々無人島であったのを船を所有する会社や個人が組合を作り整備したものだ。水や塩、肉や野菜から衣類の他、船に必要な様々な物が手に入るよう運営されている。もちろん利用できるのは組合に属している船か、高い利用料を払える裕福な船に限られていた。

 10年前、西大陸へ隠れるように向かっていた俺たちが、この中継地に降り立つことなどあるはずもなかった。だが今日ギーとしてではあるが、晴れてこの地に踏み入ることが出来るというのは感慨深いものがあった。島の周囲は水深が浅いため、甲板に括りつけていた小舟で渡ることになる。水夫が漕ぐ規則正しいオールの音を聞きながら、徐々に近づいてくる島の様子をじっと眺めた。


 桟橋に降り立った俺とクロウに「出発は明朝になります。この島の酒も悪くありませんよ」と声を掛けた水夫は、そのまま海上の船へと戻って行った。

 船上での日々が長くなったせいか一歩一歩がフワフワとして、地面を歩くとはどういう事だったかと、長いこと忘れていた感覚に戸惑いを覚えた。


「島の外周は歩いて二時間程だそうです。ギー様、少し見てみますか」

「そうだな、この島の運営にも興味がある」


 クロウの提案に乗って歩き出そうした時、ガラガラと低い音をさせて荷車を引いた少年がやってきた。まだあどけなさが残る少年は日に焼けているためなのか浅黒い肌で、腕に巻いた赤いバンダナで汗を拭った。


「あれ、兄さん達だけなの? ドルバック貿易の船が着いたって聞いてきたんだけど」

「あの船だ。確かに着いている。俺たちはこの島が初めてだから、先に降ろして貰ったんだ」

「初めてなのか? まぁ、大きな島じゃないから直ぐに飽きると思うけど、良かったら酒場にも来てくれよ。一軒しかないからすぐに分かるはずだよ」


 屈託なく話す少年が押してきた荷車にはいくつもの樽が積み込まれている。きっと先ほど戻っていった水夫と物品の補充をするのであろう。それにしても荷運びの仕事をしている少年から酒場を勧められたのが少し意外だった。


「分かった、後で寄せてもらおう」

「よろしくな」


 盛大に手を振る少年に見送られて、今度こそ俺たちは歩き始めた。島の海岸線の砂浜は珊瑚が多いのか黄色味を帯びており、ヤシがつくる木陰が太陽の照り返しを防いで目に優しい。


「フリースラントでも組合に援助金を出してたよな? 現在はどうなってるんだ」

「はい、ケヴィン殿によりますと当初は連合国からの援助も多少なりとはあったそうなのですが、それもここ数年は打ち切られた状態だそうです」

「それで少年まで働いてるって訳か」

「まぁ、安く使えるのは間違いありませんからね」


 そのままのんびりと島の北側に回っていくと、高床式の簡易な小屋らしきものが連なっているのが見えてきた。


「島で働く者たちの住居や備蓄の倉庫でしょうか」

「かもしれないな。どれぐらいの人数がいれば島の運営は出来るものなんだろうな」

「後でケヴィン殿に伺ってみましょう。ギー様、どうやらこの先は進めないようです。小屋の間の道を行きましょう」

「あぁ」


 人の背丈ほどの高さに建てられた小屋には人がいないのか、周囲からは動物の甲高い鳴き声が聞こえるばかりだ。そのまま島の中央部に向むけて歩いていくと、鬱蒼と生い茂る樹木の合間に泉が見えてきた。大陸を隔てる大洋において、この島が如何に貴重な場所であるかが分かる。泉の周りには水を汲んでいる子供たちがいた。


「随分と小さい子だな。出稼ぎには見えないが」

「左様でございますね。もしかしたらこの島で生まれた子供なのかもしれません」

「中継地としてだけでなく人の暮らす島としても機能してるんだな」


 俺たちに気付いた一人の子供が周りに声を掛けると、一斉に振り返った子供たちが「わあっ」と高い声を出して散り散りに走り去っていった。

 この子供たちのためにも中継地として運営されている島々の状況について把握しておくべきだろう。


「クロウ、ポールに中継島の実情を調べて欲しいと伝えておいてくれ」

「たまにはご自分で話されてはいかがでしょうか」

「あいつと話すのは苦手なんだよ。何でもお見通しみたいなのが気に入らないんだ」

「それでもイヴリン嬢のことはお伺いしてみたいのではないのですか」

「ホークが守ると言ったんだ。安心だろ」

「はぁ。確かにその点は我が弟ながらご安心頂けると思っておりますが、そういうことではなくてですねぇ。大体どうしてイヴリン嬢に通信具をお渡しになられなかったのですか」


 イヴリンのことを考えない日なんてある筈もない。セントポーリアでは一つ屋根の下に暮らし、毎日のように一緒に散歩に出ていたんだ。だからこそ少しでも声を聞いてしまったら、歯止めが利かなくなるのではないかと怖くなる。

 だが彼女の笑顔をこの先も見続けるために船に乗ることに決めたのだ。そのためにも今は自分のやるべき事に集中すべきだし、きっとイヴリンもそれを理解してくれるだろう。


「全て終わったら、直接話したいんだ」

お読み頂きありがとうございました。

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