21 踏み出す勇気
力にならせて頂けないかと言うケヴィンの言葉が暫く俺の心を揺さぶっていた。
「力になって欲しいという話ではないが、私が今受けている依頼については話しておかなければならないと思う」
俺が口を開くとケヴィンは無言で頷いた。俺はボヌスからの依頼について説明を始めた。
ボヌスという男からペンの受け取りを依頼された。そのペンを私に渡したのリチャードだ。そしてペンに埋め込まれていたものが、貴方が耳にした『ドラゴンアイ』だ。だがその『ドラゴンアイ』はまだ生きているものだった。特殊な箱に納められていたが、確認してくれとリチャードが蓋を開けたことでそれが分かった。
思うに確認のためと言ってわざわざ箱を開けたのはドラゴンを呼び寄せるため。つまりドラゴン討伐をこのウェルペンにさせようという狙いがあったと私はみている。
当初は『ドラゴンアイ』を解放してドラゴンを北の森に留めることも考えた、だがこんな物を取引するボヌスに興味が沸いた。だからドラゴンを討伐することにしたのだ。
「つまり私がボヌスの依頼を受けたばかりにドラゴンを呼び寄せることになった。そして依頼人への興味から、勝手に討伐に行ったということだ。今回の事では迷惑をかけたと思っている。そんな人間が貴方に力を貸してもらう資格などあるだろうか。私はボヌスの依頼が済んだら早々にウェルペンを出ようと思っている。これで気が済んだであろう?」
俺の脳裏にイヴリンの姿が浮かんだ。いつもの俺なら後腐れなくこの地を離れている筈だった。それが何のかんの理由を付けて、ずるずるとウェルペンにいるのは間違いなくイヴリンのことがあったからだ。このままイヴリンと離れてはいけないと頭のどこがで警鐘が鳴り響いた。
ずっと黙って聞いていたケヴィンがくっくっと笑い出した。俺は怪訝な顔をして眉をひそめた。
「本当にポール君、いや失礼いたしました、ジュール殿下の言われていた通りですね」
「何がだ」
「きっとアーチボルト殿下はウェルペンを出るつもりだと仰られていました。勝手に面倒事に巻き込まれて勝手に解決すると、自分が原因だと言って逃げ出す傾向にあると」
「……」
「殿下はボヌスだけでなくその背後にいる依頼人について探る気でいらしたから『ドラゴンアイ』を解放されなかったのではないですか? 殿下の代わりにそのボヌスという人物について私たちに探らせては頂けませんでしょうか。もちろん背後にいる依頼人についても然りです。殿下を束縛するつもりはございませんし、決して殿下のご迷惑になるようなことは致しません。何卒ご許可頂けないでしょうか」
「だが、お前たちに何の得がある」
「ただの恩返しでございます」
時期国王と育てられた俺は命こそ取られなかったものの、フリースラント王国の滅亡と共に突然放り出された。ファティマ国はそんな俺たち一家を受け入れてくれたが、俺は国を出てからというもの何者にもなれずにいた。そんな俺の唯一の存在意義が冒険者ギーだった。依頼をこなす度に俺の存在が繋ぎ止められているようで、俺は冒険者ギーにのめり込んでいった。保有する魔力量を活かして気が付けばSランクにまで登り詰めていた。だが、俺の心が満たされることはなかった。この世への執着が沸いてくることがなかったのだ。
だがそんな俺の世界に色を取り戻してくれたのがイヴリンだ。世界に存在するものの輝きや喜びを見せてくれるイヴリンと共に生きていけるならば、俺が俺として存在することを許される気がする。俺にとってイヴリンは手放すことの出来ない存在になっているのだろう。彼女と共にあるために、これからどう世界と関わって行けばいいのか……。
「私はボヌスの依頼人について探りたいと思っている。『ドラゴンアイ』が生きていると知っていてボヌスに強要したのか、それともボヌスの判断に因るものか見極めたい」
あからさまにほっとした表情を浮かべたケヴィンは大きく頷いた。
「かしこまりました。ところで殿下、豪遊されるご予定とか。もしよろしければ私の別荘でお過ごしいただくというのは、いかがでしょうか」
「!?」
ドラゴン討伐の金でクロウと豪遊しようと話していた。クロウとしか話していないのに……そこまで知っているのか。
「実は街道封鎖で足止めをくらっている連中の中に怪しげな行動をとっている男がおりまして、その男の名がボヌスだと判明いたしております。どうやら『ドラゴンアイ』のために街道の封鎖が解かれるのを待つまでもなく、何らかの手段で殿下の元を訪れるつもりのようでございます。殿下と接触されてしまいますと、ボヌス自身が消される可能性もございます。私の調べが付くまでの間ボヌスとの接触を避けて頂いた方がよろしいかと」
ケヴィンは始めからボヌスの名も知っていたということか……。
正直に言えばケヴィンの手の上で踊らされているようで面白くなかった。だが、イヴリンと世界と関わって行くと決めた俺には、今は頷く選択肢しかないように思われた。
お読み頂きありがとうございました。




