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13 対策委員会

 港湾局の中は外観同様石造りで、硬質な感じがいかにも行政の建物だと主張しているようだった。ポールは受付に聞いてくれと言っていたが、業務が終了したのかカウンターには誰も座っていない。俺がどこかに案内は出ていないかと周囲を見回していると、上に続く階段の踊り場からジャックが顔を出して「こっちだ」と言った。俺は黙って頷くとジャックの後に続いて階段を上っていった。

 会議室らしきその場所には20人程の人が集まっていた。どうやら俺が最後だったようで入室すると直ぐに対策委員会が始まった。

 昨日ケヴィンが言っていたように最初は現状について情報を共有することから始めるようだ。司会進行を買って出たギルドマスターが北の森の調査結果について改めて報告する。


「先日Sランク冒険者により北の森の東地域の浅い場所でドラゴンの飛翔が確認されました。赤黒い体躯であったことから元々魔素溜りにいるとされていた個体と思われます。ドラゴンはそのまま森を西の方角に飛んで行ったとの報告を受けています」

 

 周りからどよめきが起こった。その中でも特に上質な衣服を纏った一人が声を上げた。


「確認したのはSランク冒険者なのだな」

「はい、その通りです。またドラゴンが確認されたことにより、森の魔獣が町近郊に出没しているのはドラゴンの影響に因ることが濃厚となりました。ただ出没する魔獣は低級なものが多いため、こちらはギルドから既に発出済みの応援要請によって町に出る前に食い止めることに成功しております。ギルドからは以上になります」

「現状維持出来る可能性はどれぐらいになるのか」

「それはドラゴンがウェルペンまたは王都に来ない可能性ということでしょうか」

「ドラゴンは最終的に北の森から出て来るのか? 来ないのか? その可能性次第でどういう対策が必要かも変わってくる」


 やはり俺の予想通り、可能性の低いものに金は割けないという話に行きつくようだ。となるとそろそろ俺の出番という訳か。


「可能性ということですが、そちらの件につきましては専門家の意見も仰ぎたいと考えております。先ほどのドラゴンの調査をしてくれたSランク冒険者を当委員会のオブザーバーとして迎えることができましたのでご紹介させて下さい」


 ギルドマスターが俺に目線で合図をする。俺は立ち上がると頭を下げた。


「Sランク冒険者のギーと申します。先日、北の森でドラゴンの確認を致しました。以前、ドラゴンの鱗を手に入れた事を見込まれ今回オブザーバーにお誘い頂いております。どうぞよろしくお願い致します」


 俺の見た目が若いのが気になるのかチラチラと疑わしそうな視線を送ってくる輩もいた。だがギルドマスターがSランクだと言っているのに真っ向から噓呼ばわりは出来ないのだろう。そんな奴らもドラゴンの鱗と聞いて一様に目を丸くした。


「それでSランク冒険者のあなたの目から見て、ドラゴンは来ると思われますかな」


 白い鬚を蓄えた一見柔和そうな老人はその鬚をしきりに撫でながら、皺の刻まれたその顔の中で唯一そこだけば現役だと主張している抜け目ない視線で俺に答えを要求した。


「来るか来ないかで言えば、はっきりしないというのが現状です。しかしそれよりも重要なのは魔素溜りにいたドラゴンが、何故動き出したのかということです。そこが分かれば或いは森を出て来るか来ないかの判断が出来るかも知れません」

「それを確かめる術はあるのですかな」

「魔素溜りを見て来るのが一番早いでしょう」


 俺の一言に誰もが押し黙った。それもそうだろう。天然の要塞と言われる北の森においてその最深部にある魔素溜りは強化した魔獣が跋扈しているとされているのだ。瘴気濃い魔素にやられるか魔獣にやられるかの二択しかないと言われるそんな場所を見に行く奴がどこにいるというのか。


「準備に1週間程度頂けるならば私が見て参ります」


 俺が続けて発言すると、今まで部屋の片隅で腕を組んで眠っているかのようだったジャックが顔を上げた。委員会のメンバーは俺の申し出にあからさまに安堵の表情を浮かべている。

 それもそうだろう。仮に魔素溜りに行く人間を委員会側が指名したとしよう。その人間がうまく成し遂げれば問題は無いが、失敗した場合は指名した委員会側の責任が問われることになる。だが俺の意志で見に行く分には成功すれば流石Sランク、失敗すればSランクで駄目なら仕方ないで済む。最悪でもギルドのランク認定基準について問題視される程度だろう。彼らからすれば俺は願ってもない存在だ。

 オブザーバーを受けた時からこうなることは分かっていた。まぁ、ドラゴン討伐しに行くわけじゃなし、難しく考えることもない。


「1週間でよろしいのでしょうか」


 ケヴィンが堪らず声を上げた。周囲の人間も確かにとケヴィンの発言に同意しているようだ。俺が彼らにとって便利なだけの存在だとしても、十分な期間も与えずに送り出したせいで失敗となれば寝覚めが悪いのだろう。


「えぇ、十分です。お気遣いありがとうございます」

「では魔素溜りの調査についてはギルドから依頼の形をとらせて頂きます。委員会の皆さまもそれでよろしいですね」


 ギルドマスターの鋭い眼光を向けられては、首を横に振るものは誰一人としていなかった。依頼の形にしてくれなければ交渉するつもりだった俺としては、ギルドマスターの気遣いはありがたい限りだった。


「次の委員会は魔素溜りの調査結果報告といたします。本日は以上」


 委員会のメンバーがぞろぞろと会議室を出ていった。解決とまではいかなくとも糸口が見つかったこともあり参加者の足取りは軽い。


「ギー様」


 部屋を出ようとしていた俺を呼び止めたのはケヴィンだった。


「どうした?」

「魔素溜りの調査の件、まさか自ら申し出られるとは思っておりませんでした。ギー様にオブザーバーを依頼しなければ良かった……」

「誰かは必要だったろ? それが俺だっただけのことだ」

「そうではございますが……ご紹介頂いたエドモンド様に顔向け出来なくなります」

「俺もSランクだ。ギルドも依頼の形にしてくれたし、たっぷり稼いでくるさ」


 俺はケヴィンの肩をポンと叩くと今度こそ部屋を後にした。人からの紹介ってのも面倒なもんだな。だが、明日はいよいよボヌスの依頼であるペンの受け取りをすることになっている。ひとまずドラゴンの事は忘れて、俺は明日の依頼に集中することにした。

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