8.人力TASは明日のゲームの夢をみる
「もー!!おねーちゃんったら!夜遅くまでゲームしてちゃダメっていつも言ってるでしょ!!!」
多くのゲーマーがまだまだ夜はこれからだぜ!とゲームしている中、私がログアウトすると、カンカンに怒った我が妹兼マネージャーの芍子がお出迎えしてくれた。
「……今日は発売日。仕方ない」
「おねーちゃんは徹夜耐性ないんだから無理しちゃダメでしょ!!何回言えば分かるの!!」
ゲームならなんでもできると思われがちな私だが、徹夜耐性はない。
今日のβテストに参加している生粋のゲーマー達は、朝どころか次の日の深夜までプレイする人もたくさんいるだろう。徹夜耐性が高いというのは、ゲーマーにとって1種のステータスだ。
まぁ、こればかりは才能だから仕方ない。
「だいたい、おねーちゃんなら少しくらい出遅れても負けないでしょ」
「……はぁ、寝る」
そういうことじゃない!と叫びたいところだったが、今日はもう夜も遅いしそんな気力はなかった。
まったく、芍子ほどナンセンスな人間は見たことがない。
勝ちとか負けとか、そういう問題じゃない。βテストとは言え、発売日のゲームは配信直後にやるに限るっ!!
リリース直後のワクワクや熱気を共有できるのは、リリース直後しかない。それに乗り遅れるなんて、そんな勿体ないことできる訳がない。
……まぁ、理解されるとは思っていない。芍子はゲーマーじゃないし。
思えば誰かに理解されたことなんて1度もない気がする。
人力TASなんて呼ばれてるからなのか、それともいつも無表情だからなのかわかんないけど、ゲームする機械みたいな扱いをよく受ける。
ただゲームを楽しんでるだけのごく普通の女の子(26歳)なのに。
いや、1度も負けたことがないからって理由で、それを外野が騒ぐのは理解できる。
でもプロゲーマーさぁ、あの人らにまで畏怖の目で見られたら流石に寂しいんだけど。そういえば最近練習どころかパーティゲームとかすら全然誘ってくれないよね。一緒に遊ぼうよ。
……誘っても無視されること多くなってきたの、勝ちすぎたとか関係なく私の人格に問題があるんじゃ……いや、これ以上はやめとこう。
もはやいつも私の配信に謎の上から目線で指示厨コメしてくる指示厨君の方が、私に勝つことを諦めたプロゲーマーよりマシに思えてくる。たまに遊んでくれる時、めちゃくちゃハンデつけて負けてるのにめちゃくちゃ煽ってくるのがいい。プロゲーマー、ほのおタイプ弱点だから煽り芸とかしないんだよね。
ふぅ……。
……いやぁ、全然寝れない。
も、もう一度ログインしたいな。まだ2時間くらいしかしてないけど神ゲーなのは確定。まず動きに全然違和感なかった。違和感なさすぎて逆に違和感って感じ。
アシストも弱めで自由度高いし、なにより初期リス地点の景色がよかった。
ついついストーリーそっちのけで山の頂上まで登ってしまった。
山を登ってもその後ろに岩壁があったからクライミングしてやったら、鳥のモンスターに襲われたのも良かった。無粋な透明な壁がないというのはそれだけで没入感が上がる。
この歳になっても新しいゲームをする時のワクワクは止められるものじゃない。
「明日も、きっと凄く楽しい、よね……♪」