VR鉱山殺人事件
お待たせしました。
「さて、無事女神像のアテもできたことですし、鉄を集めることにしましょう」
フクロウはNPCに聞いた鉱山を目指しながら、カメラに向かって話しかける。
「えーっと、恐らく牡丹さんも同じ予想なんですが、女神像はできるだけいい物を作った方がいいのでしょう。
最初に女神像を作れと言われたのは、女神が降臨するのに必要だから。質を高めれば、降臨できる時間が増える。つまり、貰える情報が増える可能性があるということです」
早歩きしながらも、ゆっくりと、できる限りカメラ目線で考察を話す。
コメント欄には、「なるほど!」「よくそんなことすぐ分かるな」と言った素直なコメントから、「俺は分かってた」的な、多分わかってなかったコメントが散文する。
「さて、着きましたね。ではまずはツルハシの耐久を調べましょうか!」
鉱山に着くなり、「石のツルハシ」をストレージから取り出す。
そして、検証のお時間です、といい笑顔でツルハシを構え勢いよく振り下ろした。
コンっ……
と、ゲーム的にはイマイチ手応えのなさそうな音が響く。勿論素材は出てこない。
普通ならここでやめそうなものだが、検証勢フクロウは尚も入口付近の岩……というより、壁を叩き続ける。
「2、3、4、5、6、7、8……」
叩いた回数を数えながら、同じ姿勢、同じ角度、同じ強さで叩いていく。
「……96、97、98、99、100」
パリンッ!
丁度100回、手応えのない音を聞き続けたところで、ガラスが割れたような効果音が鳴り、手に持っていたツルハシの感触がなくなる。
時間にすると約5分。
しかし、これを見ていた視聴者からすれば、変わり映えのしない景色を眺めているだけで非常に退屈な時間であったことは間違いない。
何はともあれ、これで無事検証は終わり
「よし、じゃあこれをあと5回くらいやりましょう」
では、勿論ない。
初見の視聴者からすればいよいよちゃんと採掘ポイントでの検証を始めるのかと心待ちにしていただろうが、まだまだ序の口である。
謎に訓練された視聴者にとってはいつものことだが、ここから、叩く強さや姿勢を変え、10本のツルハシが壊れていた。
「さて、とりあえず此処はこのくらいでいいでしょう。
次は採掘ポイントで検証しま……」
ようやくフクロウが鉱山の中に入ろうとしたその瞬間、配信画面が暗転した。
画面には、『撮影者がデスしました』と言う文字が浮かびあがっていた。
フクロウがリスポーンし、配信画面にも光が戻ったが、フクロウ本人も、そして視聴者でさえ、何が起きたのか分からなかった。
「……まぁ、予想はしていましたが、こんな早い段階でしかけてくるとは……」
具体的に、何が起きたかは分からなくとも、キルログを見れば、誰が自分をキルしたのかは一目瞭然である。
『きた』
『でた!』
『またあいつか……』
『でたよ』
『相変わらず仕事が早い』
『「このコメントは削除されました」』
『うっわ…』
『死神様キター!!!』
その人物の名前が見えた瞬間、コメントがすごい速さで流れる。
1部を除けば、あまりいい印象ではないようだが、しかし、それでもこの界隈では有名なプレイヤー。
そう、彼の名は……
「黒牙 イチイ…!」