5.創造神田中
「私に任せろ」と言った牡丹だったが、人力TASと呼ばれるプロゲーマーの専門は対戦ゲームなので、流石にクリエイティブなことは比較的苦手である。
『格ゲー』とか『FPS』ではなく『対戦ゲーム』全てが専門というところが恐ろしい。
しかし逆に言えば、クリエイティブなことであれば、人力TASを遥かに凌駕するゲーマーが、世の中には存在するということである。
β版に参加している100人にいるかどうかは分からないが、まずはこの場所をネットに流し、増援を待つ。
1人、2人……少しずつプレイヤーが集まり、待ってる間ちゃっかりレベル上げをして帰ってきた頃には、50人ものプレイヤーが集まって来ていた。
牡丹は高い所に登り、大きく息を吸って叫んだ
「こんにちは!!!!」
ちなみに、現実世界では、現在夜中の2時である。しかし、ゲームの中では太陽が高く登っている時間のため、こんにちはでも間違いではない。
「えーっ、まず最初の目標は、女神像を作るってことなわけですが!!銅像を作れるって人いますかーーっ!?
いたらここまで来てください!!」
いる訳がない。ゲーマーをなんだと思っているんだ、芸術家ではないんだぞ。
と、1部のプレイヤーや配信をみた一般人は思っただろう。
だが、ここには知る人ぞ知るあの人がいる。
「あ、僕でよければやりますよ」
落ち着いた足取りで牡丹の前まできて、女神像作りを志願した彼の名は田中。創造神の異名を持つゲーマーである。
動画や配信などはしていないものの、クラフト要素のあるゲームには必ずといっていい程顔を出し、様々な作品を作ってはまた新たなゲームで作品を残す。Twitterなどでスクショをあげる程度なので、知らない人もいるが、それでもここにいるほとんどのプレイヤーは、彼の名を知っている。
「ほぉ……それはよかった!いやぁ私はクリエイティブなことは苦手でね。ぜひ頼むよ」
尚、牡丹は他人に興味がないので知らないのであった。
それでも彼女が彼に女神像作りを託したのは、彼のキャラメイクにある。
一見すると平々凡々な、どこにでもいる成人男性の顔で、自分の顔をキャラメイク時にスキャンしてそのまま使っているように見える。
だが、人力TASと呼ばれる彼女は、やや動きがぎこちない事に気づいた。ほんの些細な違いだ。誰から見ても自然な動きに見えただろう。
このゲームのキャラメイクでは、自分の体をスキャンして、それを元に髪型や色などを少しずつ変えていくのが主流である。というか、普通はそうしないと見た目に明らかな違和感が出てしまう。
だが、創造神田中は、キャラメイクは1から全て作り上げる派である。
このゲームにおいてそれは、非VRゲーム時代の「顔のパーツを選んで組み合わせる」ことではなく、顔のパーツは自分で描き、体型も細かく調整するには相当な労力が必要だ。
しかも、全く違和感なく、わざわざ平凡な見た目にするのは、かなり難易度が高い。
長々と語ったが、つまりは普通はやらないのである。
そして、それを一瞬で見抜いた牡丹は、彼なら素晴らしいものを仕上げてくれるだろうと、女神像作りを託したのであった。
「では、まずは素材を集める必要がありますが……どれくらいの大きさのものをご所望で?」
「できるだけ大きい方がいいと思うが、だからと言って時間がかかりすぎても困る。貴方が数時間で作れる範囲でお願いしたい」
「分かりました。それで、素材を集める道具などは……」
その会話で気づいたが、言われてみればモンスターのドロップアイテムにも素材に使えそうなものはなかった。
どうしたものかと思案していると、1人の村人が話しかけてきた。
「ああ、それなら、村の倉庫ににツルハシがあるのでご自由にお使いください」
牡丹はお礼をいい、その場にいるプレイヤーにツルハシの場所を教え、そして真っ先に攻略にでるのであった。
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