48.魔族側のメインクエストが判明!その内容とは!?
「ま、こんなもんだ」
負けイベントというものが、ゲームには存在する。敵の強大な力をプレイヤーに示す目的で、ステータスをめちゃくちゃに上げた敵や特殊な状態で絶対に倒せない敵と戦わさせられる。基本的に倒すことを想定されておらず、仮に倒したとしてもなんか負けたっぽくイベントが進む。嫌いな人は嫌いなタイプのイベントだ。
しかしそれにしたって、あまりに理不尽すぎる。カウントダウンを除けば、なんの前触れもなくプレイヤーのHPが0になるのだから。
とはいえここの運営がなんの考えもなしにこんな訳の分からないイベントを用意するとも考えられない。何か対処法があったのだろうか。
「むりかぁ〜。せめて見えれば1発避けるくらいは出来たかもしれないけど」
考え込んでいると、復帰した迷路から悔しそうな声が……いや、それ以上に気になる発言があった。
「迷路、俺には突然お前が死んだようにしか見えなかったんだけど……あれ避けれんの?」
「わかんないけど多分!あたしの体が反応したからね!」
迷路の言うことはよく分からないが、多くの死線を掻い潜ってきた迷路がそういうのであればそうなのだろう。実際、ここの運営は対処できない攻撃は用意しない。
とはいえ流石魔王と言ったところか、初見殺しもいい所である。
「お前らニンゲンには……つか、この世界のやつらにはわからんだろうが、魔法ってのは本来こういうものだ」
「……何?」
「原初の魔法……分かりやすく言えば呪いか?ともかく魔法ってのは、殺すのに特化した技術だったんだ」
「へー!」
『殺すのに特化した技術』というワードに迷路が目を輝かせる。イチイもゲーマーとして、そういう設定には興味があった。
「ま、そんなことは……いや、その辺も話しつつ、我らの目的も話そう」
魔王が指を鳴らすと、景色がガラッと変わり、学校の教室のように黒板と机が置かれる。
「わーおなんでもありじゃん。早よ人類滅ぼしにいけよ」
「……順を追って話すから聞け!まず、昔の魔法は殺しに特化した技術だったと言ったな」
「はーい!今は違うの?」
迷路が疑問を投げかける。
確かに、少なくともプレイヤーが現段階で使える魔法は、大体が殺傷能力のある魔法だ。それ以外だと回復やバフ・デバフの魔法もあるが、どちらにせよ戦闘に使うということは変わらない。
「生き物殺すのに火の玉投げる必要なんかあるか?そんな非効率なことせず、ただ相手の生命を終わらせればいい」
なるほど。先程の魔王の魔法を見れば分かりやすい話だ。
あんなことができるなら、わざわざ避けることができる攻撃などする必要がない。
「強大な力さえあれば魔力を無理矢理従わせ、ほぼノータイムで殺すことができる。それも一度に多くな」
恐ろしい話だ。力の強い物が勝つ……弱肉強食といえばさも自然界の当然の摂理に聞こえるが、喰われる側にも足掻く権利くらいはあるだろう。
ともかく昔は、この魔王にはそれができたらしい。
「だが……我がちょっと別の世界に行っている間に世界は変貌していた。『秩序の女神』とかいう余所モンが、世界のシステムを勝手に書き換えたのだ!」
バァン!!
……魔王、渾身の台パンにより部屋が揺れる。
「お、落ち着けよ。地震かと思ってビビったじゃねぇか……」
「ほんとだよ!反射的に机の下に隠れちゃったじゃん!」
「お、おう……すまん」
※地面が揺れる表現はどのゲームでも警告文があり、当ゲームでは設定でON/OFFの切り替えが可能です。
閑話休題
「秩序の女神の『バランス調整』とかいうので、決められた呪文で魔力に『お願い』しなきゃならなくなった。おかげで力だけはあった魔族は魔法が使いづらくなって、逆に頭だけはよかった人類に押され気味になったのだ」
なるほど、とイチイは思う。
魔法の設定と同時に、メタ的な部分の説明、そして魔族の現状についての説明と、一気にしてきている。
これまで謎だった部分が明るみになりそうだ。
「結局我は1度封印されてしまったが、意識はあった。この世界の魔法を研究しつくし、ついに自由に扱えるようにまでなった!」
得意げに研究の成果をみせる魔王であったが、イチイ達の表情はなんとも微妙な表情だった。
「ん?なんだお前ら。0から言語を解読したのだぞ?その凄さがわからんほどバカでもあるまい?」
「あーいや……そうじゃなくてさ……」
「まぁなんていうか……知ってるからね」
そう!魔王が割と長年の月日を経て解読した「魔法言語」は、フクロウによって数日の間に既に解読されていた!
「あ、そう……。まぁいいや。なんとかしてこの城の中では本来の魔法を使えるようにしといたのだ」
「あぁ……それがさっきの突然死か」
「そうだ。だが……こんな狭い城の中でだけ最強でもなんの意味もない。とりあえず我の力を取り戻し、その後女神を殺す」
「そういうことか……」
イチイが腑に落ちたような表情を見せる。全プレイヤーの疑問、すなわち「何故たったあれだけしか残っていない人間を魔王は滅ぼさないのか」の答え。そもそも魔王の目的は人間を滅ぼすことではなく、その上、女神を殺すことにあったのだ。
「お前らがニンゲンを倒した経験値の一部を我が貰う。その代わりお前らのステータスに補正が掛かる」
「お、なるほどね。いいぜ」
「そうか助かる。なにせ我はあの場には踏み入れられんからな」
「えー?どうしてー?」
あの場……つまり人間側のプレイヤー達がいる場所のことだろう。何故入れないのだろうか。
「あぁ、我は龍に嫌われやすい体質でな。寝てるとはいえ今近づいたら……まぁ、そもそもあの龍の結界のせいでほとんどの者は入れないが」
「龍……?いたっけ、そんなの」
「そういや見かけねぇな。プレイヤーにワクワクしてもらう安易な舞台装置としてなんなら最初にドーン!と出てきてもおかしくないのに」
確かに、安易な舞台装置こと龍はファンタジーの花形と言ってもいい。その巨体とデザインの良さからくる迫力には誰もが心を踊らせることだろう。
「なんだお前ら、魔法言語は解読してんのに龍には気づかんか。ニンゲン共の村を中心に……あー、岩山が、あんだろ?ほれ、ここの窓からも見えるぞ」
「そうだな?」
プレイヤー達の村を取り囲むように、円形に聳え立つ岩山。どこかに隠し洞窟があるわけでもなく、登ろうとしたり、魔法などで吹っ飛んだりして山を越えようとしても、一斉に鳥のモンスターに囲まれて死ぬ。
故にイチイ達プレイヤーは、テスト版だから範囲を狭くしているのだろうと思っていたし、それ以上の意味はないと思っていたが……。
「あれ、龍だぞ」
魔王のその言葉は、多くのゲームをやってきたイチイにも、普通の人には分からない世界を経験してきた迷路にも、理解できないものだった。




