47.ショタ魔王のカウントダウンボイス
「コホン……ようこそ我が城へ」
ゲーマーであるイチイは当然、色んなパターンの魔王を見てきた。別に恐ろしげな姿でなかったとしても驚くことはない。ないが、それにしたって思った以上にこじんまりとした姿だった。
具体的に言えば、5歳前後の少年。この作品では珍しいショタ枠である。
「悪いなこんな姿で。まさかここまで早く人間……それも転移者がくるとは。しかも味方としてだ」
「いや……まぁ力を失った魔王が幼い姿になってるなんてよくあることだ。気にすんなよ」
というか……と、人類側のメインクエストの内容を思い出して、展開が読めてきたのか、イチイは呆れた顔をする。
「……2人とも、もう少し近寄って来い」
「……?おう」
イチイが訝しみながらも一歩前へ足を出すと、グイッと服を掴まれ引き戻される。
「お、おい……なにすん──」
「ば、ばかっ、あれ以上近づいてたら死んでたわよ!」
一体何を言っているのか──魔王の方を見ると、つまらなそうな顔で拍手をしていた。
「オマエらって、死んでも生き返るんじゃねぇの?」
「え、俺殺されてたの!?なんで?」
「舐められても困るからな。こんくらいはできるぞと力を示そうとしたんだが……まさか感知されるとはな」
どうやら理不尽に死ぬところだったらしい。迷路には感謝しておこう。
「殺気がダダ漏れなのよ。ザコ」
「ほう……?」
「そんなんじゃいくら強くてもあたしは殺せないわ」
「面白い、では勝負だ」
正直、イチイはストーリーはサクサク進めたい派ではあるが、それはそれとして動画のネタになりそうだからこういう面倒事も歓迎すべきかもしれないというジレンマに苦しめられていた。
殺されそうとかそういうのはどうでもいい。まずイベント中のデスは1デスとしてカウントしないからだ。
だがそんな迷いはよそに、強制的に戦闘に入った。イチイはハッキリ言って疲れているので端っこでタイマンを観戦することにしたようだ。
「10秒やろう。その間オレは、一切動かん」
「あっそ」
カウントダウンが始まる。
迷路は、まっすぐと歩き出す。油断はしない。10秒と言うと短く聞こえるかもしれないが、焦る必要はない。焦って攻撃を急げば、相手の思う壺だ。
しっかりと相手を観察する。ほんの少し、身体のどこかが動く素振りでも見せれば攻撃はしない。警戒しているなら、単純な攻撃はできない。
だから慎重に、1歩ずつ歩を進める。最後の1歩。確実に間合いに入る。
ここまで近づかれて、何もしないバカはいない。全身全霊で魔王を観察する。
だが魔王の身体は完全に脱力状態。舐められているのか、或いはそういう構えか……。
「7,6,5……」
だが考えている暇はない。突如、迷路が影に消える。
迷路曰く、「現実でもできる」らしいこの技……それが本当であればNPCである魔王には有効だろう。
だが、魔王の表情は変わらない。知っているのか、或いは何が来ようと関係ないのか。
「4──」
このゲームでは相手の知覚外……大抵の場合、背後からの攻撃にはダメージにボーナスが入る。
まずは背後から心臓を一突き。流れで首を折る。
両方とも、ゲーム内のスキルは使わない。そんな紛い物ではない、純然たる殺しの技術。素人のイチイにも、美しさがわかるほど、洗練された動き。
現実であれば間違いなく即死。このゲームのシステム的にもかなりのダメージを受ける攻撃。
「──2,1」
魔王の小さな身体は確かにバラバラになった。それでもカウントダウンは止まらない。とにかく迷路は距離を離す。
カウントダウンが0になる。それと同時に、迷路のHPも0になった。




