44.上手に焼けました
「えーーっと……まずなにからしようかな。一旦ちょっとアイテム整理しますね。解説もちゃんとするんで」
説明しろとうるさいコメント欄を宥めつつ、まずはドロップアイテムの確認をする。
「把握した」
「早い早い早い。まだ僕アイテムボックス開いたとこだから」
「早くしろ」
「せっかちすぎる……。ほら、コメントでも『TASさんイライラタイムで草』って言われてますよ」
乱数調整中のTASさんよろしくウロウロし始めてうっとおしい牡丹を無視して作業再開。
「まず『大蛇の肉』はこれ食材ですね。ボスから食材落ちるのは珍しいですね」
『雑魚になるフラグ』
「こんなめんどくさいのが雑魚になるって考えただけで吐き気がしますね。で、鱗いいですね素材として……あー、称号がありますね。『深淵への入口』なんだこれ」
【深淵への入口】深淵へと続く道を守る溶岩大蛇を倒した証。強い魔物を食べられるようになる。この称号は所持しているだけで効果が発揮される。
「あー……わかったわかったわかりました。食えってことですね、肉を」
「え、蛇のお肉たべるの?じゃあ一旦帰る〜?」
「いや、多分ここで焼けるから帰らないよ。はいみんな集合〜!……集合!」
いつの間にやらヒメにべったりとくっつき手伝っていた牡丹を呼び戻す。
「むぅ」
「すいませんね、後で2人の時にベタベタしてくださいね」
「……なんの話だかわからん」
この期に及んでまだ隠せているつもりらしい。
「どうやっておにく焼くの〜?料理するやつもってきてないよ?」
「多分この場所だと置くだけで焼けますが、焼肉気分を味わうために盾の上に肉置いて焼きます」
「無理。普通の肉ならともかく、ここで生きてた生き物の肉がここの熱で焼けるわけない」
「あぁ……いわれてみれば……」
溶岩とか火山のエリアに来たら真っ先にやりたいとずっと思っていただけに、ガックリと肩を落とす。
「……ということで、溶岩しゃぶしゃぶをや〜る〜。ぱちぱちぱち」
「「「わーーーーーーーー」」」
各々が肉を取り出し、それを牡丹がしゃぶしゃぶ用に薄く切り分け、皿に盛り付ける。
「すごーい♡牡丹ちゃんはなんでもできるねっ♡」
「……な、なんでもはできない、できることだけ……」
「……??そっかぁ〜♡」
マグマの熱気でも分かるほど顔を真っ赤にする。イワヒバは何も気づいていないし、ヒメは……相変わらずなにを考えているかわからないしで、フクロウは気まずそうである。
「たべよたべよ!」
「うん、そうだね。お箸で持って数秒漬ければいいから」
「はーい」
ワクワク、と口にだしながら血の滴る円形の肉を溶岩溜りの中に入れる。
肉を入れるとジュワジュワというよりバチバチというような激しい音が響く。
「ねぇっ!!!これ大丈夫なの!?!?」
「無理なら無理で別の方法考えましょ!!!あ、焼けましたよ!!!」
「わかった!!!!!」
マグマによってしっかりと焼けた肉を引き上げる。
「おぉー!みて!みて!やけた!ほらみんな……えーーーっとカメラカメラ……ほら!!」
配信用のカメラを可視化して焼いた肉を近づけて見せる。近すぎてよくわからないが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりにコメント欄が「かわいい」で埋まる。
「いっただきまーす……ゲホッゲホッ」
「「「大丈夫!?」」」
「お口の中いたぁい……」
んべーと舌を出す。
「ん…?あぁ……たしかに、ちょっと辛いですね」
「え〜♡ヒメ辛いのたべらんな〜い♡」
「誰も頼んでないのに頻繁に激辛チャレンジしてるじゃないですか」
「あれはぁ♡女子の悶える姿みたいってみんなが言うから身体張ってるの♡」
ぶっちゃけてるようで普通に嘘である。激辛大好き女なのでチャンネル見に行っても女子の悶えている姿など見れない。「から〜い♡」と三文芝居を続けながら美味しそうに食べる姿だけが見れる。
「なるほど、これが辛いってことなんだねぇ……もぐもぐ……」
「あ、よかった平気そうだね」
「うん!おいしーよ!」
バチバチバチバチバチッ……
もぐもぐもぐもぐ……
バチバチバチバチバチッ……
もぐもぐもぐもぐ……
「──んふ〜♡おいし〜♡……ってみんな黙々ともぐもぐしてるけど大丈夫?」
「「「……?」」」
「配信者さん!?なんか喋らないとメッ、だぞ♡」
珍しくマトモなことを言われたので、仕方なく一旦箸を止めて話し始める。
「まぁじゃあ、戦闘の振り返りでもしますか」
「もぐもぐ……そだね」
「お米ほしくなってくるな……」
「……まぁ、食べながらでも聞いてください。とはいえ僕は大してなんもしてないですけどね。まずあれ、『行ってらっしゃい』のやつ。あれなんですか」
やっているゲームのことならなんでも知ってると言っても過言ではないフクロウですらも知らないスキルなので、いきなりフクロウが解説できなくなる。
「『魅了』のスキルを極めるとあーゆーことができるようになるの♡」
「……もう少し詳しくお願いできますか」
「だめ〜♡女の子には秘密が多いの♡」
ヒメがこの調子なのはいつもの事である。特に意味もなく隠し事をするのだ。
何故そんなことをするのかと聞くと、なんでもペラペラ喋る女よりは信用できるでしょ?とのこと。まったくもってその通りである。
「えーっと、とりあえず『行ってらっしゃい』でタッチした相手を『おかえり』で呼び戻すスキル、ということで合ってますかね」
「うん、そだよ〜♡」
「それだけ確認できれば充分です。急にイチャつき始めたと思ってびっくりしたので」
実際、そう見えた者は多い。
もはやこの数時間で牡丹がヒメのことを好きらしいというのは周知の事実となっている。
「で、牡丹さんが『崩烈拳』使ったじゃないですか」
「ん。同じ場所に攻撃を当て続ける限り、防御力を下げ続けるぶっ壊れ技」
「ぶっ壊れ技にできるのは貴方だけです。何hitしたらあんなに防御力下がるんですか」
「(もぐもぐ)……900hit。1Fで3回くらい攻撃を全く同じ場所に当てるだけ」
絶句である。
VRが当たり前のこの時代、そもそもフレームで映像が管理されているわけではないので、動きがフレームに制限されないという意味では不可能ではない。
だが、人が自分の身体を動かす速度ではない。
「高橋名人でも1秒間に16連打なんですよ。自重してください」
「そんなことが出来てしまうこのゲームが悪い。自由度が高すぎるとこうなる」
話しながら食べていると、ついに完食。すると一斉にシステムメッセージが届く。
『称号【鉱石種の血】を入手』
「あー……またなんかきましたね」
「だね〜」
「まぁ、なんか『鉱石種』って種族と友好的に接することができるっぽいです」
「だれぇ?」
「しりません」
急に情報量が多すぎて疲れてきた為、一旦解散となった。




