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42.眠気

「ただま〜♡」


フクロウに10分ほど遅れてヒメが再びログインしてきた。


「……待ちわびた」

「遅かったですね。女の子は準備に時間がかかるってやつですか?」

「ま、そんなとこ〜♡」


あいも変わらず不気味なプレイヤーである。瞳のハートマークは目線を隠し、表情も貼り付けの笑顔を使っている。イワヒバが人形に例えたのもあながち的外れではないのだろう。


「でわでわ!でっぱーつ!」

「「おー!」」

「……たまに古いですよね、ヒメさん」


フクロウのせいで微妙な空気になったところで、冒険が再開した。


火口からどう入るべきか、思案すべきかとなんとなく警戒していた一同であったが、それは杞憂に終わった。

火口がワープポイントになっていたのだ。


「あれって世界観的にどうなってんですかね」

「……理由はありそう。でも、ヒントがない」

「ですねー」


そんな考察とも言えない雑談をしていると、イワヒバが小首を傾げる。


「それって、ゲームだから……じゃダメなの?」


ごもっとも。ゲーム内のあらゆるものは、全てゲームを楽しく遊ぶために都合よく設定されたものである。

やれ考察だのなんだのとわかったところで何にもならないことで思考を巡らすなど無駄の極みである。


「……謝った方がいい。フクロウはそういうのすごく怒る」

「怒りませんよ!?」

「む……私の時はすごく怒った」

「知らないだけで悪気はないものに怒ったりはしないです」


妙に距離が近いというか、古くからの付き合いっぽい感じに、イワヒバとヒメは顔を見合わせる。


「……まぁそれはともかく、道中は牡丹さんのおかげでどうせ暇ですし、考察の魅力でも語りますか」

「おぉー!ききたーい!おにーさんが何やってるかイマイチよくわかってなかったんだよね!」

「それより私は、2人の関係の方がきになるなぁ〜……♡」


ヒメの発言は無視して解説が始まる。

正直配信を見ている視聴者もそっちの方が気になっているようで、

『おいおいおいおいおい』

『考察の魅力より2人の関係の解説をしろ』

『貴様ぁ!!逃げるなああ!責任から逃げるなアアア!!』

と、荒れに荒れていた。が!スルー!圧倒的スルー!炎上しないコツはスルースキルを鍛えることにある!


閑話休題。


「まず、イワヒバちゃんは現実とゲームの世界の違いは何かわかるかな」

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん……あ、人が作ったか作ってないかだ!」


イワヒバはこういう時に1発で抽象化した模範解答を出してくれるので話がサクサク進む。進行役をすることの多いフクロウにとっては有難い存在だろう。


「正解!つまり、全ての物に意味があるんだ。その意味を読み解くのが考察の役割なんだよ。

特にこういう、オープンワールドのRPGでは、世界観って1番重要でね。遊んでて、魔法とか魔物とか、そういうのが出てきても強烈に違和感を感じるものはなかったでしょ?」

「あー……まぁたしかに?わたし、現実世界のことはあんまよくしらないけど」


まずは分かりやすく、魔法や魔物と行った明らかに現実には存在しないもので例えたが失策だったようだ。現実世界のことをよく知らないイワヒバにはあまりピンとこないらしい。


「あー……じゃあ、まずは現実世界の話をしようか」

「うんっ!ききたい!」

「さっきイワヒバちゃんは、現実とゲームの違いは『人に作られたかどうか』って言ったね。ゲームの世界では人が、地面を作って、山を作って、建物を配置して、その他ゲームに必要な全てを配置してるわけだ」


うんうん、とイワヒバが頷く。


「じゃあ、現実ではどうだろう。今ある建物や、地面や山や川や海は、どうやってできたと思う?」

「え……?たてものは、人が作ったのは分かるけど……地面とかは、なんか……最初からあった……?」


おぉ……とフクロウから声が漏れる。ようやく子供らしい答えが聞けてちょっとホッとしてるまである。


「かなーり昔から遡ると、まず、宇宙がビックバンっていう大きい爆発によって生まれたわけでして」

「うちゅう……なんか、あれだよね。空のもっと上にあるやつだよね」

「あ、宇宙からもう曖昧か。えーーっと……まって。地球が丸いのは知ってる?」

「ん?ん?んー……え?その丸いっていうのは、なんていうか……お皿みたいなってことじゃなく?ボールみたいなってこと?」

「そう、だね。ごめん、ちょっと遡りすぎたね」


現実の知識が思ったより足りなかったので、もう少し時代を進めて説明することにした。


「じゃあ、今の建物とか、言葉とか、文化とか、そういうのって昔からの歴史の積み重ねだっていうのはわかるかな?」

「んー……わかるような……わかんないような……」


これはどうしたものかと頭を悩ませていると


「着いた」


いつの間にかボス部屋の前まで来ていたようだ。仕方がないので、今度時間をとって理科のお勉強をさせようと約束した。完全に保護者面が板についている。


「ふあぁ……なんか、眠くなっちゃった……」

「フクロウが難しい話をするから」

「……まぁ、VRって入ってるだけでも脳みそかなり使いますからね。一旦、ログアウトして仮眠取らせましょう」


VRはその仕組み上、どうしても脳を酷使する。慣れればむしろ現実にいる時よりも疲れないまであるが、慣れないうちは普通に歩くだけでも現実より脳が頑張ってしまうため、突然眠くなることは多い。むしろよくここまで長時間続けてこれたものである。


ログアウトして10分も仮眠取らせればある程度は大丈夫だが、牡丹はそれに意を唱えた。


「いや、このメンバーなら2分もかからない。イワヒバ、いけるな?」

「んっ……!だいじょーぶっ!」


ペシンッ!と自分の頬を両の手で叩き、気合いを入れる。

フクロウは心配そうに見つめているが、牡丹は満足そうにフッ……と笑い、扉を開けた。

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