40.ゆきだるまつくーろー
「何もないじゃん!!」
TASにしか見えないものがあるのか、どこを見ても一面の銀世界、雪原でしかなかった。
「……フクロウ。ここまでくれば貴方ならわかるはず」
「いやわかりませんけど」
分かっていなかった。
しかし牡丹がいくら勘が鋭いとは言え、全くの無根拠という訳ではない。
だからこそフクロウのような聡いプレイヤーなら分かってくれると期待していたのだ。
「……じゃあ、まずは雪玉を作る。なるべく大きいのを」
「おおー!楽しそう!」
イワヒバは初めての雪遊びに目を輝かせているが、フクロウとヒメは首を傾げる。
とはいえ牡丹は普段から言葉でなんでも説明してくれる人ではないというのは有名な話。先程のTas式歩法も、あれで彼女なりに最大限説明しているつもりなのだ。
それに牡丹の言うことなら間違いないだろうということで、2人も作業に取り掛かる。
わっせ、わっせ、と雪を集める。
すぐにイワヒバの身長くらいの大きさになりましたが、牡丹はまだ足りないと言う。
「後は転がして大きくする。えっと……ヒメ、手伝って」
「はーい♡」
2人で仲良く雪玉を転がす。
お前それやりたかっただけだろ、と内心でツッコミつつ、フクロウは考察する。
なぜ雪玉を作るのか。1度全体を俯瞰して見渡してみる。
雪山で分かりづらいとは言え、ちゃんと歩ける道はある。ただ現実と違って、道なんて無視して突っ切ってしまった方が楽なので道を通るプレイヤーは少ない。
そして道中を思い出してみる。
正直今回は会話に夢中だったし、なにより牡丹の意外すぎる1面が衝撃的すぎてあまり観察していなかったが、
詳細に観察するまでもなく雪玉を模したモンスターが転がって来ることがたまにあった。
ということは、大きい雪玉を作って転がして……どこか壁にぶつけて破壊でもするのだろうか。
いやしかし、ここまでそんなヒントはなかった気がする。
「ねーねーみてー!ゆきだるまつくった!」
フクロウがボーッと考えていると、小さな雪だるまを手のひらにのせたイワヒバが寄ってきた。
「おー、ちゃんと顔と手までついて……って、その枝どっから持ってきたの」
「なんか雪だるま作ったら勝手についた!でもインベントリには入らないよ」
「あ、うん……。え、っていうかすご、自然に検証できてる」
色々と考えたいことはあるが、かわいいのでとりあえず写真を取っておく。
ズンッ……!
一瞬、空気が震える。
そして地面が揺れる音が広がる。
「え?なに?」
自然と視線は牡丹たちが作業していた方へと向く。
目に入ってきたのは高速で転がる巨大な雪玉だ。まさかモンスター化したというかとフクロウは驚く。
「敵!!!!」
呆然として避けることすら忘れていたフクロウとは違い、イワヒバは既に武器を構え迎撃体勢だ。
だがイワヒバの攻撃は不発に終わった。雪玉とぶつかる直前、イワヒバの横腹に衝撃が走り、次の瞬間にはそこにはちゃっかりとヒメをお姫様抱っこした牡丹が立っていた。
「牡丹さん!?一体なにを……」
「壊されたら困る」
そう言って山を登っていく雪玉を指す。雪玉は頂上に達すると、ドリルのように横にスピンして雪を撒き散らしながら穴が掘られていく。
否、そこには元々穴があったのだろう。噴火口という名の穴が。
雪玉が落ちた影響で小規模だが山が火を噴き、周囲の雪は溶けて雪崩となっていく。
「って、これヤバイんじゃ……!イワヒバちゃん!逃げ……」
フクロウが見たのは、横たわるイワヒバの姿だ。鎧で覆われているはずなのに、イワヒバの身体の細さがわかるような痛々しさがあった。
「『ニクヅハギモ』」
黄魔法『大地の壁』で雪崩から身を隠す壁を作り出し、なんとかやり過ごす。
「イワヒバちゃん!大丈夫!?」
「う、うん……ちょっと、びっくりしちゃって、からだ、うごかなかっただけ」
「……そっか。立てる?」
明らかに大丈夫ではない。呂律も回ってないし、焦点もどこか不安定に見える。
「うんっ!……っとと」
立ち上がろうとするも、よろけて尻もちをついてしまっている。
一瞬の出来事だったが、牡丹がイワヒバを蹴って吹き飛ばしたのは見えた。それが原因だろうか。
「……とりあえず、少し休もっか」
「えっと、わたし大丈夫だよ?ほら!立てるよ!」
「うーん……僕らも疲れちゃったし、ね?少しだけ休もう?」
「う、うん……わかった……」
フクロウは流石ロリコンといったところか。子供の扱いは慣れて……いるわけがないので、そういう妄想でもしていたのだろう。
明らかに無理をしているのは見れば分かるが、今はそれを責める時ではない。
「すまない、咄嗟の行動だった。でも大丈夫そうでよかった」
申し訳なさそうに牡丹が近づく。
かと思えばイワヒバを見るなりすぐにホッとしたような声をだしてインベントリを弄り出してしまった。
「いやあの、勝手に納得して許された気にならないでもらって。もう少し申し訳なさそうにし続けててもいいですよ」
「わかった(しょぼーん)」
本気で怒ってると思われたくないので言葉を選んだ結果変な日本語になったフクロウに対し、牡丹はもう表情機能で遊び出したのでイワヒバの容態の方へと再び視線を移す。
HPが減っていないところを見ると、衝撃すらほとんど与えずに吹っ飛ばしたのだろう。理屈はわからないが、牡丹にはそれができるらしい。
すぐに喋りも安定してきたし、VR酔いの類いだろうと検討をつける。
「うん、とりあえず緊急ログアウトもないし、大丈夫そうだね」
とりあえず大事には至らなかったが、思っていた以上に繊細らしい。
トイレ休憩も兼ねて、全体で少し休憩時間をとることになった。




