38.人力TASはリアル恋愛ゲームを始めたようです
今回のこのタイトル、これだけで丸々1本作品書けそうだな……。
最近、姉がおかしい気がする。
ゲーマーではない私にとって、姉の考えてることはあまりよく分からない。
とはいえ妹として、マネージャーとして、姉のことは毎日見ているのだ。誰よりも姉のことは分かるし、些細な変化も見逃すはずもない。
おかしくなったのはこの3日ほどだろうか。
まずミスが多い。というと誤解を生むかもしれないけど、ミスをしたのは2度、それも私でなければ気づかないほんとに些細なミスだ。そもそも本来ならあれをミスとは言わない。
だけど姉はゲームでミスをしたことがない。比喩表現ではなく、常に完璧で美しい動きをする。
あとは……いつもより口数も少なくなった。何かを考え込んでいる感じかな。
普段からそんなに喋る方ではないけど、話しかけられたら返すし、必要なら喋る。
そういえばさっきのスパチャ読みもいつもと比べて数秒ラグがあったような……。
「……ということで聞きたいんだけど、何かあった?」
「べつに……なにも……?」
そんなはずない……いやでも、嘘をついている様子はない。本当に心当たりがない時の表情だ。
「芍子からじゃ分からないかもしれないけど、私だってミスをしないわけではない」
「いやいや……でもだって、つまり私からでもわかるミスをしたってことでしょ?」
「む……」
「何か心当たりはないの?些細な変化でもいいんだけど」
自分の内的変化は、案外自分では気づかないものだ。特に姉のように感情を表に出す機会が少ない人はそういう傾向にある気がする。気がするだけで根拠があるわけじゃないけどね。
「そういえば、この前バグがあった」
「ばぐぅ???」
おっとお?予想外の方向の言葉が飛び出したんだけど。
いやまぁ、バグという外的要因なら、いつもミスをしない姉がミスしたのも理解できるが。
「大型イベントのすぐ後だったか……ヒメというプレイヤーに話しかけようとすると、上手く言葉がでなくて」
「ふむふむ……」
「その後も、何度も話しかけようとしたが、何故か鼓動が速くなって近づくこともできなくて」
「うんうん……ん?」
「ふとした時にそのプレイヤーの顔が思い浮かぶようになって」
「……いやそれ」
「今も思い出すだけで……身体が熱くなるんだ……」
「『今も』ならバグなわけねぇだろチョーーーップ!!」
色々言いたいことはあるが流石に突っ込まざるを得なかった。
「バグじゃないなら……この現象は一体なんだと言うんだ……」
「お姉ちゃん、それは恋だよ」
「鯉……?コイ目コイ科に分類される大型の淡水魚」
「じゃなくてLOVEの方ね」
「LOVE……?暴力レベルの略じゃなくて、英語で愛を表す単語の?」
「え、うん、そうだね」
暴力レベルがなんの事かは知らないけど、私が知らないってことは多分古いゲームのネタかなんかだろう。
「恋……そうか、恋か……これが恋……」
「え、えっと、大丈夫……?」
「…………」
すっかり黙り込んでしまった。顔だけは何か真剣に考えているように見えるけど、よくみると少し頬が赤らんでいる。ガチじゃん。大丈夫かな。
3時間くらい経ったころ、突然すくっと立ち上がったかと思えばこう言った。
「告白してくる」
「よーし落ち着こうか!」
姉の恋路は、ほんとうに先が長そうだ。
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