37.いわゆる「どくまも」について語る配信
火力という言葉がある。
ゲームにおいてそれは、「攻撃の威力」を表す言葉である。
基本的に火力の高さは正義であり、当たらなければ防御力などいらないと考えるゲーマーも少なくない。
このGWOにおいてもそれは同じで、大抵のプレイヤーが火力と身体力にステータスを振っている。
しかしそれは、あくまでモンスターという「当たらなければどうということはない」が現実的な難易度になる存在が相手の場合の最適解である。
対人戦では相手の攻撃に全く当たらないというのは原理的に不可能に近い。
そこで、対人戦では耐久調整という戦略が存在する。
対人戦要素がほぼないこのゲームで耐久調整もクソもないが、仮想敵を設定し、その攻撃を〇発以上耐えるだけの耐久値になるようにステータスを調整することを言う。
攻撃を受ける前提でステータスを振る戦略と考えて貰えれば良い。
「ぐへぇ」
さて、何故このような話をしたのか。
イワヒバがたった今負けた相手、怪しげな男は耐久振りビルドだからである。
「まいどあり」
結局2人はお金を払ってスノーブーツを手に入れたが、イワヒバは全然納得いってないようだ。
「卑怯って言葉はあの人のために存在するんだね!」
「まぁまぁ……あれだって戦い方は結構難しいんだよ?」
スノーブーツを履いて移動しながら、ぷんすかと怒るイワヒバを宥める。
「……どーゆーこと?」
「まず、『格闘家』系の職業自体あまり強くはないんだ」
「えー?牡丹ちゃんだって多分格闘家でしょ?でもすっごく強かったよ」
「あの人は色々例外だから……それに、牡丹さんも格闘家が1番強いから使ってるわけじゃないだろうしね」
「ふぅーん」
牡丹は様々なジャンルでトップをとる化け物ゲーマーだが、本来ガチでプレイしているのは格闘ゲームのみである。他のジャンルはなんかちょっと大会出てみたら優勝できちゃったとか、半分趣味でやってるところがある。
格闘ゲームでも飛び道具を使ったり武器を使ったりするキャラクターもいるが、牡丹はステゴロ一筋でやっている。
「で、その中でも特に『魔法闘士』はあまりいい評価はされてないね」
「強かったけどなぁ」
「まず、格闘家系の職業の仕様として、魔法は全て拳にまとわりつくのは分かるかな?」
「まぁ戦ったからね!拳は避けにくいからやりづらかったなぁ」
仮面の男はその中でも『魔闘士』と呼ばれる、魔法攻撃に特化した職業だった。字面にロマンこそあるが、実態としてはかなり弱い。
「確かに殴る速度は速いし全部避けるのは不可能なんだけど……でもイワヒバちゃん、魔法ってどういうところが強いと思う?」
「えっと……色んな種類の攻撃ができることかなぁ。あと色んな方向から攻撃できるのもいいよね」
「あぁうん……すごい本質的で正しいんだけど、もうちょい浅い解答が欲しかったかな」
イワヒバの言っていることはもちろん正しい。
魔法は形を変える武器のようなもので、広範囲を一気に攻撃することもできれば、槍のような点の攻撃も可能。さらに属性攻撃は受けるだけで状態異常を引き起こしたり、防御が難しかったりする。
魔法攻撃は基本杖の先(または手のひら)から射出されるものだが、呪文を工夫すれば動きを変えることも可能であり、横からはもちろん、上や下からの攻撃ができる。防御や回避が難しくなるだけでなく、体勢を崩して隙を作るのにも便利だ。
だが今回フクロウが聞きたかった答えはそこまで深いものではなく、もっと単純なこと。すなわち
「魔法の利点っていうのは、遠くから一方的に撃ち込めることだね」
「……?」
至極単純かつ明解な事実。飛び道具はウザイという簡単な話だ。
しかしイワヒバはあまりピンときていないようだ。
「……あれ?わからなかった?」
「んー……ううん、大丈夫っ!続ききかせて?」
「いやなんか怖いな……まぁいいか。ただでさえ詠唱時間がかかるのに射程という利点がなくなっただけでも弱いのに、さらにあの人は多分、火力に振ってなかったんだよ」
「つまり、知力にステータス振ってなかったってこと?」
「そうだね。その代わり『耐久力』や『精神力』などの防御系のステータスに振ってたと思うよ」
フクロウは仮面の男のステータスを見た訳ではないが、しかしこのゲームが始まってもう1ヶ月だ。ダメージ計算式もとうに算出しているし、ダメ感はバッチリである。
「今のイワヒバちゃんの攻撃力は、武器の強さもあってかなり強いからね。防御しても大盾じゃない限りはそのまま押し潰せちゃうくらいには」
「でっかい敵のHPが一気に減ってくのはすっごく気持ちいいよ!でも確かに、あの人はあんまり減らなかったね」
今まさに会話しながらノールックで狼のモンスターが潰されたのを見て、もはやモンスターに同情するのと同時に、あれを容赦なく人に向けていると考えると恐ろしくもなった。
「回避の技術も見事なものだったけど、イワヒバちゃんの攻撃を受けて怯まずに殴れる人はそうそういないよ」
「殴ってくるだけならいいんだけど、毒はずるいよ!むかつく!」
火力のなさはスリップダメージで補う。あの時見ていた全ての人が、仮面の下の愉悦を感じ取れただろう。
「武器に爆発する拳を当てて吹っ飛ばして、私に殴られたら投げて回復……ずーーーーっとその繰り返し!!卑怯だよ卑怯!!」
「まぁ、ああいう戦い方は昔から嫌われてるけど、だからこそみんなやりたがるからね……。でも難しいんだよね、ああいうの」
「どこが?毒状態にしたらずっと守ってるだけでいいじゃん、簡単でしょ」
「いやいや、これはゲームだけじゃなくてスポーツとかでもそうだけど、攻めるより守る方が難しいからね」
イワヒバの攻撃力でも1/3しか削れなかったが、逆に言えば1/3は削れるのである。イワヒバほど極端な攻撃力をしていなくても、MPにも限界はあるし、詠唱には隙があるのだから、かなり難しい。
「えっ?うーん……あぁでもそっか、対処させる側より対処する側の方が大変かも」
「……イワヒバちゃんあれだよね、僕がなるべく簡単な言葉で説明したことを難しい言葉に変換して理解するよね」
「もう16歳だからね!義務教育卒業してる年齢だもん!」
「あれ、イワヒバちゃんって義務教育卒業してるの?」
「んーん、ちょっとずつ勉強してねぇ、今小4くらいのとこやってるよ」
「そっかぁ偉いね」
フクロウが頭を撫でると、いつもなら嬉しそうにするイワヒバがふうっ……と大きく息を吐く。
「でさ……全然みつからないね、星4の鉱石ドロップしそうなモンスター」
「……イワヒバちゃん、こういうときはね、考えちゃダメだ」
ノリで書いてるとこういう無駄なシーン書きがちで、あんまりやらないようにしてるんだけど、今回は1話丸々そうだったからやり直すの面倒臭いので許して。




