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36.無知や純粋というのは100%の善性を保証するものではなく、悪に大して無知でありブレーキがないということである



「さむ……くないね!?」

「……そう、だね」


雪山に辿り着いたイワヒバ一行だったが、意外にも気温は低くなかった。

病室暮らしのイワヒバは初めての感覚に期待を、ゲーマーのフクロウはスリップダメージなどを予測して色々用意をしていただけに、拍子抜けした様子だ。


「スリップダメージもないみたいだし、意外と優しいね。とりあえず少し進んでみようか」


しかし、元気よく進んでいたのも束の間、とあることに気づいてしまった。


「歩きづらいにも程があるって!」


当然と言えば当然だが、雪山というのは雪が積もっている山の事である。その積雪量は膝まで埋まる程度はあった。イワヒバに至っては身体の半分が雪に埋まってしまっている。

病院暮らしのイワヒバは勿論、生粋の都会っ子であるフクロウもここまでの雪の中歩いた経験はない。


「他のゲームなら、足首程度で済むんだけどね…!スリップダメージがない代わりにしちゃちょっとキツすぎる気がするなぁ…!」

「はぁっ、はぁっ…わたしつかれたぁ〜」

「そりゃそうだよね!!むしろ今までよく頑張ったよ!」


フクロウはイワヒバを雪の中から引っこ抜くと、肩車して移動し始めた。


「……そ、そういえば、道は合ってるの?ゆきで前みえないし、全部おんなじ景色に見えるんだけど……」


雪山マップは高確率で猛吹雪で、視界が広い時の方が少ない鬼畜仕様だ。もちろん道中にセーブポイントはあるが、方向感覚を失わないプレイヤーの方が珍しく、遭難者が続出した。

地図が作られて多少マシにはなったが、そもそも現在地を表示されない等高線を読めるアウトドア派などこの廃人ゲーマー集団にはほとんどいない。


「ああ、それなら大丈夫。道順はちゃんと調べてあるから」

「そうなんだ!それならよかった!」

「だいたい後400歩くらい歩いたところにセーブポイントがあるから」

「何メートルとかじゃなくて!?」

「あはは……こんな時代になっても“なぞのばしょ”はあるからね。検証勢は自然と歩数感覚が身につくんだよ」

「ほへぇ〜」


一応、同業他社の名誉の為に書いておくと、フクロウがバグゲーを好き好んでプレイしているだけで、今の時代に所謂なぞのばしょにいけるゲームは極々稀である。

そしてイワヒバはスルーしてしまったが、一歩の間隔が常に正確に一定の人間はフクロウくらいのものだ。


「つ、着いたああああ……」


そうこうしているうちにセーブポイントにたどり着いた。


「お困りのようだねえ」


セーブポイントの小屋の中、黒い装束に狐の仮面を身につけた、怪しげな男が座っていた。


「ここまでくるのは大変だったろう。特にそこの背の低いお嬢さんを登って雪山を登るのは」

「ええ、まぁ……」


怪しげな男がボックスからアイテムを取り出す。


「これはスノーブーツと言ってね、この山を登るなら必需品なのだが……どうやら検証勢のキミでも知らなかったようだねぇ。今回は特別に2人分を5万で譲ってやろうじゃないか」

「5万、ですか……」


当然ぼったくりである。

プレイヤーメイドのみのアイテムとはいえ、作ろうと思えば誰でも作れるものだ。せいぜい3000G程度が相場である。


もちろん、フクロウも相場が分からないとはいえぼったくられていることくらいはわかる。しかし払えない値段でもないので諦めて払おうとすると


「えいっ」


なんとも軽い調子の声と同時に、ガキィンッ!というセーフティエリア内で武器がプレイヤーに当たった時のバリアの音が響き渡る。


「イワヒバちゃん!?」

「あ、ここじゃ攻撃できないんだ……」


突然攻撃をしたイワヒバにフクロウは驚き、男に平謝りするのを尻目に、イワヒバは不満そうな顔を見せる。


「えっと……イワヒバちゃん?どうして攻撃したのかな?」

「え、だってこの人倒したらタダで貰えるし」

「だからって攻撃しちゃだめだよ!?」


イワヒバは見た目や口調の割に賢い。思考力も高いし知識も最低限はあるから、大人と話していても置いていかれることは少ない。

しかし病院暮らしで人と関わらなかった弊害か、倫理観がかなり欠如している。もっと簡単に言えば自分が敵だと思った相手に攻撃をすることに躊躇がない。


「どーして?プレイヤーキルは悪いことじゃないでしょ?」

「えっと、システム上禁止されてないってだけでその……みんなで仲良くプレイするための、マナーというかね?」

「え……?あの人はみんなで仲良くしようとしてるの?」


もちろんこのゲームでは不当にアイテムの値段を釣り上げて販売してもルール違反ではないし、プレイヤーやNPCを殺してもペナルティは受けるがBANはされない。

システム上禁止されてなければ何をしても良いのがゲームのいい所であり、悪いところでもある。


「ククク……確かに、不当に値段を釣り上げ無知な者から金を巻き上げるのは、商売を装った強盗にすぎないというお嬢さんの主張も一理ある」

「別にそこまではいってないけどね」


とりあえずまずはお説教して、その後炎上しないようにどうエンタメに持っていくかと考えていたら胃が痛くなってきたフクロウと、未だ不満そうな顔をしているイワヒバに男が近寄って話しかける。


イワヒバは身長が低すぎて全ての人間に対して見上げる形になるので気にならなかったが、2m以上ある男は立ち上がるだけで威圧感があった。


「そこで1つ、ワタシと正々堂々勝負をしよう。お嬢さんが勝てばこのブーツはタダで譲り、ワタシが勝てば通常通り5万払ってもらう」

「やったー!ゴネ得ってやつだ!」

「やめようねそういうこというのはね!ありがとうございますでしょ?」

「ククク……いいのだよ。ワタシも商人である前にゲーマーだ。お嬢さんとは1度戦って見たかったしね」

「ああもうほんとすいません。後でちゃんと道徳の授業やっとくんで……」


ちなみにこの後ちゃんとアンチや杞憂民がうるさくなるようになったが、それはまた別の話である。




フクロウ(そのククク笑いは素なのかな……)

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