33.暗殺者、闇縫迷路
「ダメじゃん」
ポツリと茶髪の短いツインテールをぴょこぴょこさせながら、抗議の視線を向ける。
「いやメイロ、作戦自体はよかったろ。上手くいかなかっただけで。」
イチイがクソみたいな言い訳で返す。
とはいえ、実際作戦自体は良かったのだ。ただ、牡丹だけを意識しすぎたというだけだ。
牡丹と戦った某少女──闇縫迷路は立ち上がると、ビシッと指を指す。
「はい、じゃあなんで上手くいかなかったでしょーか!!」
「んまぁ……正直牡丹以外のプレイヤーを舐めてたわな。あんなすぐ決着がつくとは思わんかった。あとプレイヤーの人数が足りない」
「そう!それ!人数が足りない!」
ビシッ!と指を指して叫ぶ。
「だからまだ攻めない方がいいって言ったのに!」
「しょうがねぇだろ。お前と違って俺は招待勢だから定期的に動画上げなきゃなんねぇの」
ダーティーなプレイをすることで有名──つまり荒らしとして有名なイチイだが、彼も実況者として、ゲームを宣伝する側として呼ばれた1人なのだ。
苛烈な競争を勝ち抜かなければならない一般枠と違い、招待勢は定期的に配信をしなければならない。
なのでそろそろ派手に動きたかったなのだ。
「……ってわけで、まずこいつが闇縫迷路。俺の仲間だ」
「あれっ!?もう撮ってるの!?そうならせめて言ってよ!もうちょっとこう……いろいろ、ねぇ!?」
「まぁ生放送じゃないから安心しろ」
編集で切り取るとは言ってない。
「残念ながら今回の作戦は失敗に終わったが、お前らのとこのNPCを一体屠り、牡丹と互角に渡り合った最大の功労者だ。覚えとけ」
「あんたがもーちょっと仕事してくれればワンチャンあったかもね〜」
「うるせぇ!殺すぞ!」
実に和気あいあいとしたやり取りに、視聴者も和むこと間違いないだろう。
「んで、こいつが来た経緯だが……。ある日突然現れてな、『人殺しはここって聞いたんだけど』って」
「そんな感じだったっけー?そんな物騒な……ねぇ?」
恐らく映像を見ているだけの視聴者には伝わらないが、この時迷路からは殺気が漏れていた。
(余計なことを言うな)(分かってる)と、一瞬、目配せで会話する。
「おう。ったくカメラ回してないときにくんなよな。結構映える登場だったってのに」
殺気が治まる。
これは流石に、少なくとも動画で公にできる話ではないが、闇縫迷路はプレイヤーキルではない。
これはプレイヤーを殺さないという意味ではなく、そんなお遊びの称号で言い表すことはできないという意味だ。
そう、彼女は本当の意味で人殺し──正確には暗殺者であると語った。
ちなみにゲームどころかネットも初心者なので本名で登録してるし、そもそも一般常識が欠けているので人殺しはいけないことなんだよから教えないといけなかった。
闇縫、と言えば某都市伝説番組でも紹介されているほど、有名な暗殺者集団であり、尾ヒレがつきまくって信じている者はほぼいないが、一応実在する。
彼女はそこで生まれ、育てられたそうだ。
そんな人間が、何故このゲームに参加しているのかまでは、運営も語り部もしらない。普通に遊んでくれるだけであれば良いのだが。
「んで、俺らを探していた奴らもいたようだが、実はもう拠点を移していてな。
そこで、俺たちに協力してくれるプレイヤーはタイトル画面で下記のパスワードを打ち込んでくれ。
入った時点で魔族認定されて戻せないっぽいから、そこは注意な!」
このゲーム、牡丹がいる時点で理論上いける場所には全ていけるし、フクロウがいる時点で隠しエリアは隠せない。
事実ゲーム序盤に、ゴブリン達の拠点が牡丹によって攻め入られている。
運営もそこは予想していたので、人間側と魔族側のプレイヤーのサーバーを分ける処置を取っている。
人間側のプレイヤーは、魔族側のサーバーに簡単には立ち入ることはできないようにし、魔族側のプレイヤーが不利になり過ぎないようにしたのだ。
「魔族側のゲームは、魔族の育成がメインになる。人間側とはまた違ったゲーム性で、かなり面白いから、興味があったら是非きてくれ
その辺のクエストの様子は、今後の動画で紹介するから、そっちもよろしくな!」
動画も締めに入り、カメラを切る。
「ふぅ……これであと4,5人くらいは来て欲しいところだが」
「そーね。人を殺す楽しさを覚えちゃえば、みんなこっちに来てくれると思うけど……」
「別にんな物騒な話はしてねぇよ。カメラ回ってる時にそういう発言すんなよ」
「わ、分かってるよ。……あんたも結構物騒な発言多いけど、どこまでいいの?」
「その辺のラインをちゃんと自分で見極められるようになるまで全部ダメだ」
「はぁい」
その後、苦労しながら一般常識や良心を教え込む害悪プレイヤーがいたらしい。




