32.乱闘、乱戦、大混戦!
さて、今回の戦いにおける英雄は、なにも牡丹1人ではない。
村に敵MOBが入ってこなかったのも、イチイが乱入してこなかったのも、このゲームに参加している全てのプレイヤー達の活躍があってこそだ。
それではその一部始終をお届けしよう。
「みんな〜♡あっちにイチイ君がいるから〜……全力で嫌がらせしちゃって♡」
牡丹は別の場所からも現れる可能性があると考えていたが、実を言うと出現した場所は一つなのだ。
故に影に潜れたあの少女はともかく、イチイはなるべく見つからないように移動するしかない。
しかし、高いところから俯瞰して見ていたヒメに見つかってしまった。
さて、「あっち」とはどっちなのか、なんて野暮なことは言わない。ヒメがあっちと言えばあっちなのだ。
10人近いプレイヤーがヒメの号令によって一斉にイチイの方向に向かう。
ヒメの信者は実際にはもっと多い。
他のゲームでも有名な話だが、本来ヒメは信者を使い物量で色々解決するプレイヤーだ。
それ故「β版ではヒメは活躍できないのではないか」と言われていたが、とんでもない。
「クッソ!マジでお前らっ、くそっ、マトモに戦えっ…!」
イチイが親衛隊達の「嫌がらせ」に悪態をつく。
ヒメ本人は宣伝のために運営から招待されたプレイヤーだが、親衛隊達は違う。
10人しかいないのではない。物凄い倍率の試練を乗り越えた精鋭が、10人もいるのだ。
本来、イチイは一対多の戦闘の方が得意なプレイヤーだ。
どれだけ個の力が強くとも、連携をしようとすれば必ず判断にラグが発生する。特に10人もの人数となれば、連携するのはかなり難しい。
だが、なんだこれは。
10人の連携ではなく、10人全体で1つの個のような、そんな錯覚さえ覚えるほどの見事すぎる連携だった。
「くそっ……『ミゲb──モゴッ……ヴォええぇぇええええ!」
チクチクと動きを妨害するような攻撃ばかりされ、こちらが死にそうになればすぐに回復をされ──そんなことを繰り返され、ついに耐えかねたのか爆発魔法で死に戻りしようとしたら、口にカエルを突っ込まれる始末だ。
「や、やっていいことと悪いことがあるだろうが!」
お前が言うなと言いたいところだが、実際あまりマナーはよくない。
カエルを突っ込むのもそうだが、意図的に試合を長引かせる遅延行為も褒められたプレイスタイルではない。
良い子のみたいなはマネしちゃダメだぞッ☆
……地の文に割り込まないで頂きたい。
しかしそんなイチイの反応も意に介さず、悪質な遅延行為を続ける。
そもそもイチイも「それが出来てしまうゲームシステムの方が悪い。中級者の愚痴など知ったことか」と言っている。お互い様だろう。
さて。
お次はヒメの親衛隊以外のプレイヤー達……つまり、ゴブリンの討伐模様についても見てみよう。
ゴブリン。ファンタジーゲームでは定番の雑魚モンスターとして有名だが、このゲームでは少し事情が変わってくる。
普段から野生で見かける、いかにもゴブリンな見た目のモンスターは「レッサーゴブリン」だ。
というか、β版だからなのか、大抵のモンスターにはレッサーとついている。
レッサーゴブリンは精々が猿程度の知能だが、ゴブリンとなれば話は違う。
イチイ視点で描かれていた通り、まず普通に言葉を話す。次に最序盤とはいえイチイが「手を出せない」と判断する程度にはレベルが高い。最後に普通に強い魔法をデフォで連発できる。
そんな奴らが約300体、高い知能を生かしてプレイヤーにも通用する高度な戦略を駆使して襲ってくる。
対してこちらの戦力は90人もいない。
普通に考えれば勝てるわけがないと考えるのも無理はないだろう。
だが何度でも言おう。ここに集められたゲーマー達は全員普通ではない。
例えば、古今東西あらゆるゲームのオリジナル言語の解読にだいたい絡んでいる言語学者だったり。
例えば、このゲームでの魔法の発見に多大な貢献をした厨二病患者だったり。
そんな愛すべき阿呆共が集まって、1つの大魔法を発動させる!
「はい、皆さん集まって……そこ、もう少しこちらへ……はい、それでは『ウィヴォゲ・ギャケレケ』」
「クックック……我が虐殺の奥義を見せてやろう!『カミノイカヅチ』!!」
魔法使い達を集め、全員の魔力を共有。大量の魔力を使い『オリジナル魔法』の『カミノイカヅチ』を発動させる。
暗雲が立ち込め、雷が雨のように降り注ぐ。ランダムに落ちているのではなく、しっかりと敵だけををホーミングさせて命中させている。
運良く避けられた、或いはこの攻撃を耐えられたゴブリンを他のプレイヤーが倒していく。
そもそもこんな自体は想定されていたことだったので、まぁこんなもんである。
ではでは。
イワヒバとフクロウが討伐しに行った『ギガントゴブリン』はどうだったのだろうか。
結果から言ってしまえば、めちゃくちゃ楽に倒せた。
ギガントゴブリン。
5m程の巨体が示す通りの、高い攻撃力と耐久性、強いスーパーアーマーを持ち、丸太を振り回すという、シンプルだが厄介なモンスターだ。
こういうモンスターは避けタンクで攻撃を引き寄せその場に拘束しつつ、魔法攻撃で離れて攻撃するのが有効的な手段だ。
しかしフクロウが魔法を撃ってみると、一丁前に知能の高さを見せ、持ってる丸太で薙ぎ払ったのだ。
良く見ると、丸太をそのまま持っているわけではなく、しっかり加工されている。
「イワヒバちゃん!」
小さい方から倒そうと、ギガントゴブリンがイワヒバに丸太を振り下ろす。
振り下ろされる直前にフクロウが叫んだが、イワヒバでは避けられないだろう。
「おっけー!!おりゃあああああああああああああああああああああああああああ」
だが、イワヒバはそれを攻撃の合図と受け取ったのか、全力で武器を振った。
いくらイワヒバの体の何倍もある大槌と言えども、流石にあの大きさの丸太とかち合えばひとたまりも……
「打ち返したああああああ!?」
流石のフクロウもリアクション芸人にならざるを得ない。
だが、驚いてばかりもいられない。
イワヒバが攻撃を弾き返したことで、ギガントゴブリンがよろめいた。その隙をゲーマーであるフクロウが見逃すはずもなく、魔法を打ち込む。
「『デドアレウィゼ』ッッ!!」
よろけているギガントゴブリンに大地を揺らす魔法を使う。
普通に使えば範囲も狭く、揺れも少ないこの魔法はあまり効果はないが、こうして相手が『よろけ』の状態になっている時に使えば『転倒』を引き起こせる。
「いくよっ!『大覇空』ッ!!!」
先程の『カミノイカヅチ』が降り注ぐ天罰だとすれば、こちらは重い重い、隕石のような一撃だといっていいだろう。
武器を空に投げ、同時に空高くジャンプしキャッチ、武器の重さを最大限活かした派手な攻撃。本来、武器を投げれる程の筋力値が──この技の場合必要能力値の3倍──必要になるが、イワヒバは違う。
称号『巨岩騎士』の効果で『龍牙の大槌』の使い手となったイワヒバには、筋力値の制限を受けずにこの大技を使うことができるのだ。
結果、その一撃でHPを全損させ、ギガントゴブリン討伐を完了させたのだった。




