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31.影縫

「全員、女神像前に集合してっ!!!」


全力を声を出す牡丹に対して、集まったのは数人。

大量の魔物に怯えて動けない者、そもそも距離が遠くて聞こえていない者がいる。

拠点が広くなったせいで、1人では全体に声を届けられないのだ。


牡丹なら2分もあればNPC全員を連れ出して女神像に集められるだろう。

しかし、牡丹のゲーマーとしての勘が言っている。「女神像が壊れたらまずい」と。


……さて、状況を整理しよう。

NPCの悲鳴が上がって民家の扉を開けるまでに1秒もかかっていない。

さらに、それまでにあの家に出入りした者はいない。

つまり敵は「突然あの家に現れ、そして消えた」ということ。

テレポートか透明化の類いだろう。


こうしてもたついてる間に、被害は大きくなる。だが、ここを離れて救出に行けば女神像に攻撃が行く可能性がある。それだけは避けたい。


「みんな〜♡こっちおいで〜♡」


人力TASの珍しい長考を遮ったのは、♡ヒメ♡である。語尾に常にハートマークがつくやつなどこいつしかいないので非常に分かりやすい。


甘ったるい声で集合をかけると、一斉に全てのNPCが駆けつけた。

牡丹が全力で声を出しても数人しか来なかったにも関わらずだ。


何が起きているのか、一瞬フリーズするが、ハッと気づく。


「『魅了』か…!」

「ぴんぽーん♡結構便利なんだよ?♡」


『魅了』というスキルがある。

NPC達の好感度を一定以上高めると取得できるスキルで、好感度の上限がさらに上がるという効果がある。


確かに色々できそうなスキルではあるが、優先的に取るスキルでもなく、NPCの好感度をあげるのも大変なので誰も取っていない。


フクロウですら、まだ検証しきれていないところがあるスキルだがなるほど、好感度が上限を超えるとこうなるのか。まるで……そう、信者である。


「助かった。もう少しで詰みになるところだった」

「困った時はお互い様だょ♡」


ただ悔しそうに、自分を責めるかのようにそう言う牡丹に、いつもの調子で軽く返す。


「……ああ、それと──」


以前出会った時、牡丹はヒメのことをゲーマーとして認めていなかった。

自分でなんでも出来てしまう牡丹には理解できないプレイスタイルだったから、気持ち悪いと思ってしまった。

あの時のことも、謝らなきゃ──


──。


刹那、牡丹の身体がひとりでに動き出した。牡丹の第六感にも似た勘が、思考するより先に身体を動かしたのだ。


いつの間にか牡丹の後ろにいたその少女の手首を掴み、背負い投げを決める。


「『発勁』」


ビタンと地面に打ち付けられたその少女にすかさず『発勁』を打ち込む。

相手の防具の攻撃力カットをある程度無視して攻撃できるというのが、『発勁』の効果だが、もう1つある特性がある。鎧すら通すその衝撃故か、前方に吹き飛ぶのだ。

これを今のように地面に転がっている相手に当てると、地面をバウンドする。


「『たつm──」


そこまで言って最速で蹴りを繰り出し、撃ち落とす。

スキルを発動するフリをして通常攻撃をするテクニックだ。本来「スキルキャンセル」と言えばこれのことを指す。

相手のパリィ動作見てからキャンセル余裕でしたと撃ち落とすが、ガードはされる。

さらに今度は相手もしっかり受け身を取って、引きジャンプからのナイフ投げで牽制。

ガードは甘えと言わんばかりにスライディングで避けつつ距離を詰める。


「『影縫(カゲヌイ)』」


ここで初めて相手がスキルを使う。

一瞬にして地面へと潜り込む。最初に背後から攻撃できたのもこのスキルを使ったのだろう。

だが、その手のスキルは他のゲームでも何度も見てきた牡丹はすかさず後ろを振り向き攻撃をする。



だが、空を切る音だけが虚しく響く。



タイミングを見誤ったかと自分の影を見るが……否、そもそも敵の目的は最初から牡丹ではなかったはずだ。


女神像の近くにいるNPCの影から現れた少女が、その首を狩ろうとナイフを振りかざす。

なるほど完璧な戦略だ。既に女神像までは10mはある。少女がNPCの首にナイフを振り下ろすのに1秒もかからないだろう。確実にこれでNPCは殺せるという寸法だ。



──ドンッ



しかしそれは、明らかに斬撃や刺突の音ではなかった。

まるで()()()()()()()()()()()()()速さで10m以上の距離を詰めたドロップキックのヒット音だ。


「また、遊ぼうね」


倒れ込んだ相手をすかさず追撃し、消えていく相手にそう言い残す。


「きゃー♡すっごーーーーーい!!♡」

「……」


壮絶な戦いを見ていたヒメに抱きつかれる。

やはりグイグイとこれられるのはどうも苦手だ、そうため息をつく。


「あっ!♡そういえば、なんか言おうとしてなかった?♡」

「ああ、えっと……」


ごめんなさい……という言葉は、しかし口から出ることはなかった。

何度言おうとしても喉で突っかかったように、声にならないのだ。


「……べつに、なんでもない」

「え〜?おしえてよ〜♡」


バグだろうか。特定の言葉だけ出せないとは、随分不思議な現象だ。

そういえば、さっきから心臓の音もうるさい。やっぱりなにか不具合があるのだろう。


【『ギガントゴブリン』が討伐されました。侵攻イベントを終了します】


……やはりボス討伐がこのイベントの勝利条件だったようだ。

突然の通知に冷静さを少し取り戻したのか、ヒメの腕を引き剥がし、バグを報告しにログアウトするのだった。

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