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27.100万回やられても負けない

【You dead】


「もーいっかい!!」


【You dead】


「おりゃあああああ!!」


【You dead】


「次はいける気がする……!」


【You dead】


「まって、ほら、いけるって!」


【You dead】


「よーし、もーいっかい、もーいっかいっ」

「まって。ちょっと待とう。待っ……止まれ!!」

「ふえ?」


話を聞かずにまたボス部屋に直行しようとするイワヒバに思わず大きな声が出る。


「ふえ?じゃないんだよかわいいけど。そろそろ休憩した方がいいと思うよ」

「わたしまだ疲れてないよ?」


これは本当なのだろう。

既に3時間、同じボスと戦って何度も負けているというのに、精神的にも疲弊している様子はまったくない。


「イワヒバちゃん病み上がりだからね?あとはまぁ……うん、ほら、視聴者も疲れるしね?」

「なるほど…!そういえばいたね!?」


どうやらイワヒバは自分が配信していたことを忘れていたようだ。


【俺ら忘れられてて草】

【コメント全然読まないと思ったらw】

【忘れたままでいいよ】

【忘れるなw】

【俺らなんか気にせず楽しんで】


「みんなごめーん!いやぁ、楽しくてついつい忘れちゃってたよ」


【草】

【3時間ボス戦して全然疲れてないとかマジか】

【そろそろ心折れるだろ……】

【マジ?俺らはもう心折れてたぞ】

【俺らが諦めてどうするよ。この娘はまだ諦めてないんだぞ】

【イワヒバちゃんは楽しんでたのに俺らときたら……】


「んん…?みんなどうしたの?」

「一応説明するとね、イワヒバちゃんが戦ってる間ずっと『そろそろ休め』とか『一旦休んだ方がいいよ』ってコメントが多かったんだ」


フクロウののところにも『イワヒバちゃんを止めろ』というコメントが多く見られたが、それは伏せておく。


「あー……みんな心配してくれたんだ?ごめんねなんか!」

「いや……」


違うと思うよ、とは流石に言わなかった。


「でもねー、わたし今、すっごくたのしいんだ!ずっと狭い場所にいたからね」

「……うん、そっか」


フクロウには、頷くことしか出来なかった。


「よく、『怖がらずに戦えてすごい』ってコメント見るけど、結構怖いよ。

死ぬのはゲームの中でも怖い。でも、『だから戦う』って選択ができるから、あと、何回でもやり直せるから挑戦できるのかな。それがうれしくて、楽しいんだ」


そんな重すぎる話にフクロウは


「……ごめん、ちょっとなんて言ったらいいか分かんな──」

「見つけた」


……耐えられなくなってきた所に突然現れたのは、深紅の髪と瞳がトレードマーク、人力TASこと牡丹であった。


「あ、牡丹ちゃん!!久しぶり!!」

「久しぶり。はいこれ」


【『牡丹』から『窮鼠の指輪』が讓渡されました】


「貴女には可能性を感じた。それは、その可能性を広げる手助けになってくれるはず。」

「え、う、うん……?えっと、まずこれは……?」

「あとは……逃げるな、とだけ」

「え……?あ、行っちゃった……」


言いたい事だけ言ったあと、無駄に無駄のない動きで去った。


「……『窮鼠の指輪』は、自分のHPが10分の1以下の時に、攻撃力が3倍になる優れものだよ。今回みたいに一撃受けたらほぼ即死みたいな状況では特にね」


重い空気が去って正直少しホッとしつつ、フクロウは検証勢らしい解説をする。


「……ふぅん」


イワヒバはおもむろに剣を取り出すと、自身のお腹に突き刺した。


「は!?なにやってんの!?」

「え?いや……ダメージ受けてから挑むんじゃないの?」

「それは、そうなんだけど……」


もっと安全で確実な方法があったと話す。定数ダメージを与える方法は、少ないがないというわけではない。

なにより、よりにもよって腹に突き刺すことはないだろう。なんとなく1番痛いし怖い。


「まぁ丁度9割くらいになったし問題ないね!いってきまーす!」



【『巨岩騎士』ギルグ】



「おまたせっ!『スラッシュ』!」


開口一番、イワヒバの先制攻撃が炸裂する。

イワヒバにできる精一杯のダッシュで距離を詰め、発生の早い『スラッシュ』での低い位置からの攻撃を当てに行く。

いつもならスーパーアーマーで耐えられて終わりだ。しかし『窮鼠の指輪』の効果で攻撃力が通常の3倍になっている。


「よしっ!ひざつかせた!!!」


元々低い位置からの切り上げ攻撃である『スラッシュ』を、イワヒバのような幼女が使うことにより、大剣の強力な一撃が脚にヒットし、彼に膝をつかせたのだ。


「HPは……結構減ってる!1割か2割くらい!」


膝をつかせたイワヒバだが、すぐに追撃には行かない。

今までの戦闘での癖のようなものだったが、恐らく正解の行動だろう。

ギルグの行動はゆったりしているようで無駄な動きがないのだ。隙のように見える状態こそ警戒しなければならない。


「……つぎ」


初見時は歩き方に圧があり、なかなか踏み込めなかったが、3時間で100戦以上したイワヒバには、もうただゆっくり歩いているだけにしか見えない。


それでも焦らずじっと待つ。


待つ。待つ。待つ。


「……いまっ!」


ギルグが次の1歩を踏み出した瞬間、深く足を踏み込み懐に入り込む。


「おりゃあああああああああ!!!」


ギルグが大槌を振り下ろすと同時に攻撃をする。振り下ろされた大槌とイワヒバの大剣がぶつかる。


キィン!と、派手なエフェクトと効果音が鳴る。

これこそ、人力TASと呼ばれる牡丹が、ギルグ相手には「不可能」と断じた剣によるパリィである。


パリィされたことにより、ギルグの身体が大きく仰け反る。


「『ターンブレイク』っ!!!!」


アーツによる攻撃により、ギルグのHPは残り半分になった。


「……よくぞ、我が制約を打ち払ってくれた。強き者よ、ここからは本気でいかせてもらおう」

「しゃべった!?」


HPが半分になったことによって特殊イベントが発生。ギルグの鎧がボロボロと崩れていき、鍛え上げられた筋肉が露出する。


次の瞬間、空気がズンと重くなる。


否、彼自身が重くなっているのだ。

筋骨隆々の身体は、だんだんと岩のように変質し、彼の身体を硬質化させていく。


「はあっ!!!」


無防備なギルグにイワヒバが攻撃を仕掛けると、ガキン!という、およそ人体に攻撃を当てたとは思えない音を立てた。


「なんで裸になった方が硬くなってるのかなぁ!?」


ツッコミながら距離を取る。

幸いなことに、動きは変身前よりにぶくなっている。

攻撃のスピードも前より遅くなっていて、これなら1度避けて様子見できそうだ。


1歩後ろに足を引いたその時、牡丹の言葉が甦る。


『あとは……逃げるな、とだけ』


そうだ、逃げてはならない。

ここで気持ちが後ろに向いたら自分は死ぬ、そう思った。


すぐに前に足を踏み込み、剣によるパリィを試みる。


「はぁあっ!!……ぐっ!」


しかし、パリィは成功しなかった。

盾のパリィと違い、武器によるパリィはかなりシビアなのだ。


「こ……ぬぉおおおおおお!!!!」


押し潰されそうになりながらも、なんとか気合いで耐える。

しかし、変身により攻撃力も上がっているのか、今までよりもさらに重くなっている。


イワヒバの大剣が、ズンズンと沈んでゆく。こうなっては力押しでは絶対に勝てない。

万事休す……と、見ている誰もが思った。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!」


咆哮が響き渡る。

ギルグのものではない。小さな戦士、イワヒバのものだ。

それと同時に、少しずつ彼の大槌の位置が上がっていく。


「一体何が……まさか、火事場の馬鹿力とでも言うつもりか!?」


フクロウがそう叫ぶ。

そんなことは有り得ないと理性は告げる。ここはゲームで、0と1で構成された世界なのだから。

しかし実際、イワヒバのステータスでは押し返すどころか、そもそも受け止めることすらできないはずである。

何か見落としがあるか、計算が間違っているかのどちらかであるはずだ。決して「気合い」なんてものが反映されるはずがない。


「ぐっ……どりゃあ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"!!!」


痛みを堪えるような表情で、ついにギルグの大槌を押し返す。


「こ"う"っ"!!!て"つ"!!!ざ"ん"っ"っ"!!!」


大きな隙が出来たギルグの腹に、自身の最高火力『鋼鉄斬』が炸裂する。

ガキンッ!と岩にぶつけたような音に次いで、見慣れたエフェクトとSEが鳴る。


【『巨岩騎士』ギルグ が討伐されました】

【討伐報酬『龍牙の大槌』を獲得】

【『巨岩騎士』ギルグの魂が解放されました】

【称号『巨岩騎士』を獲得】

【称号『火事場の女王』を獲得】

【称号『手負いの獣』を獲得】


大量のシステムメッセージが表示され、自分が勝利したことをようやく自覚したイワヒバは──その場で倒れた。


【接続が切断されました。10秒後に強制ログアウトします】


「イワヒバちゃーーーーん!?!?」

おまたせしました。

もう既に最近というほど最近でもなくなってしまいましたが、にじさんじの鈴原るるさんが引退してしまいました。

イワヒバというキャラクターは鈴原るるに多大な影響を受けて作られたキャラクターで、引退直前まで「挑戦」をし続けた鈴原るるに経緯を表してこのサブタイトルにしました。


今後ともイワヒバちゃんを含めた様々なタイプのゲーマーの物語を見守って頂ければ幸いです。

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