26.巨岩騎士 ギルグ
【『巨岩騎士』ギルグ】。
その名前が表示され、薄暗い部屋の中から、まさに岩のような巨体が出てきた。
それは全身に鎧を纏い、そして棍棒というにも巨大すぎる、何かから削り出したようなものを軽々と持ち上げている。
1歩1歩、ジリジリと間合いを詰められていく。
イワヒバが瞬時に踏み込み、敵の胴体に大剣の一撃を浴びせた。
このゲームにおいて、大剣での攻撃は相手を怯ませられることが多い。
それ故にイワヒバは先手を取ることが多い。敵の攻撃モーションをキャンセルできる場合もあるからだ。
本来人型の敵との戦闘においては有効なセオリーであるが、しかし、この相手には悪手であった。
イワヒバの強力な一撃にも怯むことはなく。
気づけば大槌の圧倒的質量が眼前に迫っていた。
【You dead】
「負けた!!!」
「……大丈夫?押し潰されてたけど」
何度も言うようだが、ここがゲームで痛みが制限されているとはいえ、「殺される」という体験は相当な恐怖を生む。
特に先程のような「大きい物に潰される」というのは、VRゲームをそれなりにやってるゲーマーでも未だに慣れない人が多い。
しかし当のイワヒバはケロッとした顔で「大丈夫だよ?」と言って、すぐに2回戦へと突入してしまった。
【『巨岩騎士』ギルグ】。
再び名前が表示され、暗闇からうっすらとギルグの巨体が浮かび上がる。
1歩、また1歩と近づかれ、またあの棍棒の振り下ろしがくる。
このボスに対する模範解答は『ヒットアンドアウェイ』だ。
ギルグはその巨体にさらに重たい鎧を着込み、どんな攻撃も通さぬ防御力と、棍棒の一撃はどんな相手もハエのように潰される。
現状のブレイヤーの攻撃では、ギルグを怯ませることはできない。そのことは既に牡丹が実証済みだ。
人力TASである牡丹ができないと言ったことはできないのである。
だからこそ、チマチマと隙の少ない攻撃をしてヒットアンドアウェイで倒していくしか方法はないのだ。
しかしイワヒバがとった行動は──
「『ブースト』!!」
──下からの切り上げによる迎撃!
振り下ろされた質量に、大剣の質量とスキルによる加速をもって対抗する。
重たい音が響き渡り、時が止まったかのように硬直する。
「互角……!?いや、やっぱりギルグの方が優勢か!?」
ハラハラと見守るフクロウだったが、それは直ぐに驚きに変わった。
「ぐっ……だああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
気合い。それは時にいつも以上の力を引き出す要因となる。
0と1で管理された世界で、そんなものは存在しないと思うだろうか。
だが、操作しているのは人間だ。0と1で管理された存在ではない。そして人間はいつだって、誰も想像していない奇跡を起こしてきたのだ。
押されていたイワヒバの大剣が、徐々に押し返し、お互いの武器が弾かれた!
イワヒバはこのゲーム始まって以来誰も成しえなかった、ギルグの攻撃をガードすることに成功したのである。
「馬鹿な!?牡丹さんですら弾けなかったんだぞ!?」
思わずモブみたいな反応をしてしまうフクロウ。
しかしそれも無理のないことだ。
あの牡丹が、不可能と断じたことなのだから。
「はぁっ…はぁっ…!つぎ…!」
ただし、戦況は動いていない。ただガードしただけで、攻撃ができていないのだから当然だ。
(また、来る)
既に次の振り下ろしが始まっている。
(また同じように……だめ、考え──)
【You dead】
地獄の耐久配信が始まった。




