VRゲームのダンジョンは大剣振り回せるように道が広い
「あ、きた!もーおそいよー!」
「いやぁごめんごめん。ついやってみたくなっちゃって」
再びダンジョン前、イワヒバのもとにフクロウが息を切らしてやってきた。
時間にしてみれば15分程度なのだが、しかし15分間、何もなしに喋り続けるというのはかなり難しかったようだ。
「ふぅ……いっぱい喋って喉かわいちゃった。ポーション飲んでいい?」
「贅沢な使い方だね。一応お水あるからこっち飲もうね」
「はぁい、ありがと!」
もちろん喉の乾きなどVR空間においては気のせいに過ぎないので、本来なら「気合いで我慢しろ」とフクロウも言っている。
しかしロリには甘いのでしっかり水を用意していた。実際錯覚であっても無視するのは難しい為である。
「ぷはぁ……じゃあもう早速行こう!」
「あ、その前に1つ言っておきたいことが」
「もーなにー!」
「ごめんごめん。えっと、僕は既にこのダンジョンをクリアしちゃってるから、探索はイワヒバちゃんの後ろをついていくだけにしとくね」
「わかった!!」
これは大事なことである。ダンジョンは自分で試行錯誤して迷いながら進むのが醍醐味なのだ。
イワヒバもそれはなんとなく分かっているのか、元気よく返事をする。
「それで、さっきのやつはなんだったの?」
「さっきのやつ?」
ダンジョンを進んでいると、思い出したようにイワヒバが質問してきた。
「そう!びゅーんっ!って空に飛んでったやつ!」
「あぁ、あれはバグ技──コンピューター上の不具合を利用した技だよ」
「え、すごい!なんかカッコイイ!」
「そ、そうかな……」
カッコイイと言われると嬉しくはあるが、同時にそれは別に技がカッコイイだけだよなと複雑な思いであった。
「わたしもできる!?」
「出来るけど……別にやらなくていいよ」
「え?なんで?」
フクロウは一拍置いて、解説モードに入る。
「まず、すごく難しい。地雷魔法の爆発に合わせて空中でパリィすると、ノーダメージで爆風に乗って飛べるんだけど、セットアップにも時間かかるし成功率も低いからね」
ここまで一息で説明する。
フクロウはこれでも大分噛み砕いて説明しているつもりである。
しかし、ゲームに慣れていないイワヒバには難しいようで、ポカンとしたまま固まってしまった。
「……つまり、殴った方が早いってことだよ」
「そっかぁ。でもかっこよかったなぁ」
一応理屈としては納得できたようだが、名残惜しそうにしながら、敵を処理していく。
「……いや、イワヒバちゃん、今かなりかっこいいよ」
さて、2人が今攻略しているダンジョンは、魔術師の試練というだけあって敵に物理攻撃耐性がついている。
それをものともせず、フクロウと雑談しながら、ほとんど敵を見ずに完璧な戦闘をしている。
思わず嫉妬してしまうほどの才能だ。
これならなるほど、あの牡丹と渡り合ったのも頷ける。
「んー、こっちかな」
「あ、ちょっとまって」
イワヒバは勘もよく働く。先程からまるで通学路のように正解のルートしか選ばないのだ。
ただ、「正解の道に行くと引き返したくなる」というゲーマー特有の感覚はないのでアイテムはだいたい取り逃しているが。
「この先に隠しボスが居てね…。是非あれはイワヒバちゃんに倒して欲しいんだよね」
「え、隠しじゃないボスの前に?」
「いやまぁどっちでもいいけど、こっちの方が近いから」
ということで、隠しボスを先に攻略することに。
道を進むと一見行き止まりに見えるが、壁を押し込むと回転して通れるようになっていた。
「すごいねぇ、こういうのよく見つけられるよね〜」
「あぁ、これは暗いから分かりずらいけど、ちょっと色とかが違うからすぐ分かったよ」
「へ〜……って、もしかして今のお兄さんが見つけたの!?」
「まぁね。それよりほら、ボス部屋だよ」
イワヒバ達の前には、確かにボス戦を示す扉とセーブポイントがあった。
「よし!じゃあがんばってくる!!」
「え、ちょっと待っ……!」
流石に共闘しようと提案する前に、イワヒバはボス部屋に直行してしまった。
イワヒバが部屋に入ると、薄暗い部屋の中に、HPバーと名前がまず目に入った。
【『巨岩騎士』ギルグ】
予約投稿なんてしない。書いたらすぐ吐き出す。




