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22.【警告】絶対に真似しないでください【GWO】


「はい、どうも皆様こんにちは、フクロウと──」

「……牡丹だ。今日はあの少女が使った『技キャンセル』について軽く検証と、そして警告をしにきた」


あの後、フクロウは自分で『技キャンセル』を試し、その危険さを広めようと動画を撮ろうとした。

しかしそもそもフクロウの力ではできなかったのだ。


そこで、人力TASと呼ばれている牡丹に協力を仰ぐことにした。


「うん、そういう訳でね。まずはこの映像を見て欲しいんだ」


牡丹とイワヒバが戦っている時の映像を映し出す。


「……今の、見れば分かると思うけど、明らかに技の後隙がなくなっていた。緊急ログアウトがなければ、私も負けていたかもしれない」

「それほど強力な技術ってことだね。でも、これを見ているGWOプレイヤーは、決して真似をしないでほしい。これからやるのは検証じゃなく、警告だから」

「まぁ、そもそもみんなには出来ないと思うけど。じゃあ、やってみるね」


さらっと視聴者を煽りつつ、軽い調子で大剣を取り出し、構える。


「……『回転斬り』っ!」


一瞬の溜めの後、回転。


「くっ……!」


そして通常、一回転するところを、半回転で動きを止め──牡丹の身体が崩れ落ちた。


「ぐっ…ううっ!」


痛みに顔を歪ませ、悲痛な声が漏れる。


「だ、大丈夫!?」

「……とりあえず、痛みは引かせた」


普段はVR空間の中で()()()呼吸を整えて立ち上がる。


「まぁ、今のだけでも充分伝わったと思うけど……一応、どんな感じだったか聞いてもいい?」

「……緊急ログアウトが起きるくらいだから、相当な痛みは覚悟していた。でも、なんとなく私は、痛みがあるのは力を入れる腕だけかと思っていた」


言われてみればフクロウもそうだ。

漠然と、腕に負荷がかかってすごい痛みが走るのだと思っていたが……。


「でも、違った。全身の筋肉に電流を流される感覚……生まれて初めて、死の危険を感じた」

「なるほど……。それだけの痛みを何度も与えられたら、緊急ログアウトもされるか……」


フクロウにはその痛みを感じることは、あの牡丹が、死の危険を感じると言うくらいだ。きっと相当なものなのだろうと想像する。


「……違う」

「え?」


だが、何故か否定が入る。何かおかしな事を言っただろうかと、牡丹の言葉を聞き返す。


「私は普段、痛覚を消してプレイしてる。その方が戦いやすいから」

「さらっととんでもない発言しないで貰えるかな。え、なに痛覚消すって。そんなことできるの?」

「VR世界は、脳が全て。自分の脳をちゃんと操ることが出来れば、誰でも出来る」


出来る訳がない。

だがいちいちツッコんでもいられないので黙っておく。


「だから、私が今受けた痛みは、あくまで消しきれなかった1部に過ぎないということ。だからこそ、私はこうしてすぐに立ち上がることができた」

「え、じゃあ、イワヒバちゃんはもっと大きい痛みを感じていたってことか!?そんな、ありえない。だって既に死ぬかと思うくらい痛かったんだろ……?」


それは驚きというよりも、懇願しているかのような叫びだった。

イワヒバが、それほどのダメージを受けていたという事実を、簡単にはみとめたくなかったのだ。


「今私が平然と立っているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()

あの少女は、私の受けた痛みの何倍もの痛みに、ずっと耐え続けて、その上で意識を保ったまま戦い続けたのだ」

「そ、そんな……」


それほどまでの痛みを堪えてまで戦ったことに、しかし意味はなにもない。その事実が、フクロウにとって、自分のことのように辛かった。


「……フクロウ。あの少女は、今どんな状態だ?」


ショックを受けた様子のフクロウを見て、役目を果たせと言わんばかりに声をかける。


「あ、あぁ……えっと……筋繊維が切れて、内出血を起こしたって言っていたよ。今も意識は戻っていないよ……」

「だ、そうだ。私達から運営にも知らせておくから、多分製品版では出来ないように対策されていると思うけど、今やってるプレイヤーも真似しないように」


牡丹がチラリとフクロウの表情を見る。理由までは分からないが、元気がないのは一目瞭然だった。

この空気のまま終わるのも、なんだかキリが悪い気がしたので、ちょっと盛り上げることにした。


「じゃー1発芸やりまぁす」

「ん!?!?!?」


フクロウが目を丸くして驚く。


「フクロウ意外とリアクション大きいね。まぁ見てて」


牡丹は、フクロウの手を握ると『トレーニングモード』に入る。


「じゃ、1発芸……()()()()()()()()()()()()()()。──『グラデーション』『回転斬り』」


さらっとまた、有り得ないことを言う。

格闘スキルのアーツ『グラデーション』でバフをかける。そして、回転斬りのコマンドを言い終わるのとほぼ同時に、大剣を上に投げる。

練習用のマネキンにコンボを決め、上から降ってくる大剣をキャッチしたその瞬間、牡丹の身体がぐるんと回る。


「ふぅ……。どう?これなら誰でも安全にできるでしょ?実用性も高いし」


なるほど、とフクロウは思う。

『グラデーション』は6秒間の効果時間中、連続攻撃の数だけ攻撃力がどんどんあがるアーツだ。

牡丹は回転斬りが発動する瞬間に上に武器を投げた。それによって、アーツの判定を保持したまま、素手で連続攻撃、上がった攻撃力で大剣の強力な一撃をあびせる……と。

理屈は分かる。だが理屈しか分からなかったので、一般人を代表して力の限り叫ぶ。


「できるか!!」


できると思うけどなぁ、なんて不満そうに呟く牡丹だったが、その表情はちょっと得意げだったという。



なお、イワヒバ氏(16)は「あれくらい普通耐えれる」などと供述しており……

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