贖罪はしても反省はしない転生者。
あぁ。熱い。まるで内側から炎で焼かれているようだ。
いつからこの責め苦にさらされているのか。ただ、熱い。痛い。苦しい。
「455番。贖罪終了ですね。お疲れさまでした。」
・・・俺に話しかけたのか?
「そうです。あなたの罪は5685億年をかけて贖罪が完了しました。なかなかいませんよ?魂が消滅せず贖罪を完了させる者は。さて、ではこれにて晴れて生まれ変わる許可が下ります。あちらの通路突き当りで右に曲がると扉がありますので、さっそく向かってください。」
姿が見えるわけではない。ただ声だけが聞こえる。それから声の主は一言も話さなくなった。
俺は、言われた通りに進みだす。ただ、自分の姿が見えるわけではないから進んでいる感覚があるだけだ。
そして、声の主が言っていた扉はすぐに見つかった。曲がってすぐにあったためぶつかるところだった。
何だか、地味な茶色の扉だな。
俺は、ふと、なんとなしに後ろを振り返る。本当になんとなしにだ。
扉があった。言葉を失うほど美しい扉があった。
ごくり。あっちの扉のほうが良いな。
俺はやっぱり、なんとなしにそちらの扉に進む。
「あっ!!待て!455番何してる!!そっちじゃない!!」
後ろから、声の主が何か言っているが気にせずたどり着いた豪奢な扉を開ける。
「こらこらこら~っ!!・・・あっ・・・」
俺は扉を開けただけだ。だが、後ろからおそらく声の主がぶつかってきたのだろう。
俺は落ちた。感覚的には少し違うが、適当な言葉が見つからないので落ちたといっておこう。
それから、俺が自分の状況を理解するのにたいして時間を要さなかった。
鼻で笑われるのを承知で言わせてもらうと、俺はどうやら声の主が言ったように生まれ変わったようだ。
「エミリオ皇子~っ!!エミリオ皇子~!!」
俺を呼んでいる声が聞こえる。
世話係のメアリばあさんだ。
お気づきかもしれないが、俺は今世ではある大国の皇子として生まれかわった。
第2皇子。正妻の第一子。
眉目秀麗、神に愛されし皇子。
はっきり言おう。完全に人生勝ち組だろう。
ついつい、ニヤリともしてしまう。
「エミリオ皇子!!やっぱりこちらにいらっしゃったのですね?はあ。」
おっと、メアリばあさんに見つかってしまった。
「ごめんごめん。ちょっと息抜きがしたくて。メアリあんまり走っちゃ駄目だよ?」
「エミリオ皇子、メアリを年寄り扱いしなさんな。こう見えて若いころは騎士団の団長もしていたのですよ?」
「はは。そうっだったね。でも、その話何度も聞いたよ」
「それなら、なおさら年寄り扱いされたくないものですよ。はあ。まったく。エミリオ皇子はまたこんなところで蟻を踏み潰していらっしゃるのですか?」
メアリは眉尻を下げながら俺を問いただす。
「そうだよ。楽しいよ?メアリもやってみなよ?」
メアリはますます眉を下げながら首を横にふる。
「エミリオ皇子。メアリはあなた様の将来が心配です。周りの人間はあなた様を神に愛された皇子などと持て囃しておりますが、とんでもない。表に出ていないだけであなた様の本質は残虐で恐ろしい。」
「ひどいな。たかが蟻を踏み潰しているだけじゃないか。」
俺は巣穴から這い出して来る蟻を踏み潰しつづける。
「たかが蟻でも命です。自分より弱い生き物を踏み潰して悦に入っているような人間に一国の王になる資格などありませんよ?」
「・・・ちぇっ。はいはい。分かったよ。もう飽きたし。帰る」
資格も何も、俺以外に誰が王になれるっていうんだ。俺には平民の母を持つ兄がいるけど、あんな出来損ないが王になんてなれるわけない。魔力は少ないし、いつもオドオドしているし、陰気くさいから碌に話したことがない。いたって凡庸な人間という印象しかないな。
「エミリオ王子、メアリはあなた様が心配です。」
「しつこいっ!余計なお世話だ。心配しなくても、周りは簡単に騙される。みんな俺のこと何も知らないのに神に愛されし皇子とか頭の湧いたこと言ってるじゃないか。まあ、都合がいいからあえて受け入れているけどな。」
ふんっと不貞腐れていると何か柔らかいものに包まれた。
「ばばあに抱きしめられてもうれしくないんだが。」
「ふふ。皇子はレディの扱いがなっていませんね。」
「いや、ばば」
「なっていませんね。」
「・・・すまん。」
メアリにはなんだかんだ甘くなってしまうな。まあ、だからと言って自分を変えるつもりなんてないがな。
なんたって、俺は人生の勝利者なんだから!!