92話 強力なスキル
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俺達は南の街道の今はなき元ミュール王国に、走竜ドランコに乗って夕方になる前に早くも着いていた。
「ふぅ。 乗り心地は今一だったけど、流石に速かったな」
俺は前方1km程先に見えた廃墟と化した元ミュール王国を確認すると孟スピードで走ってくれていたドランコのスピードを緩めた。
「あれが元ミュール王国……」
ライオネスが滅ぼした元ミュール王国はベルバド王国よりも数段大きく、縦に長く立ったマンションに近い建物の上には幾つものワイバーンの巣が作られていたのだった。
アイツこんな大きい都市を幾つも壊してたのか。
どんだけ破壊神なんだよ。
もう少し破壊が進んでたらマジで世紀末になってたぞ。
治安が悪くなったのも野盗がこの地域で急激に増えたのも全部アイツのせいじゃねーか。
ほんと討伐しておいて正解だったわ。
ユウキは街を見ながらゆっくりドランコで進んで行くと肩に乗ったキラは大きな口を開けてユウキに話かけた。
「おお。 いっぱいワイバーンが飛んでおるのぉ 」
キラ様もミュール王国の上空を浮遊しているワイバーンの多さに驚いていた。
「そりゃ、あれだけワイバーンが飛んでたら安心して旅人も街道を通って来れないのも頷けるわね。 また前みたいに一掃するだけじゃなく王国ごと更地にする必要がありそうね」
「確かに今回はそうですね。 後の事も考えるとそうした方がいいかもしれません」
アイリとニーアもワイバーンを見ながらそう呟いた。
確かにアイリちゃんの言う通りだ。
今回ワイバーンの討伐は出来たとしても、また外っておいたら違うワイバーンがまた巣を作りにやって来るかもしれないからな。
「さて、どうしたもんか……。 ワイバーンって手懐ける事出来ないのかな?」
「今回は無理じゃろうな。 体力を削る必要もあるし、それにそんな余裕もないじゃろ」
「確かになぁ。 追い払う位じゃダメだしな。 仕方ない今回も倒すようにしよう」
諦めて倒すことに俺は専念する。
アイリちゃんの魔法も召喚も、ニーアちゃんの魔剣も、あれだけワイバーンと離れていると無駄撃ちになる可能性もあるからな。
ユウキはドランコを降り、皆より前に出たのちに少しやりたいことがあると言葉を残し、上空にいるワイバーンを眺めた。
前にもケルベロスの戦いで試した事がある。
それは俺の強力なスキルの一つ。
『 挑発っ!! 』
――― ギンッ!! ―――
眼を見開いてかけたユウキの挑発は空を優雅に飛んでいたワイバーンの意識を一点に集め、凄い勢いで翼を翻し一斉に向かわせることに成功したのだった。
はぁ。 イヤなんだよなぁ。
殺意を一斉に向けられるのは何回やっても。
でも……。
「ここまでは計算通り、次は……」
『 誘う踊りっ! 』
「「 !!! 」」
向かって来たワイバーンの群れはユウキの誘う踊りに釣られて翼の自由が一切効かなくる。 右にも左にも旋回することも出来なくなったワイバーンの末路は決まったようなものだった。
「こうなってしまうと後は想像通り、落下するだけだよね」
自由を失ったワイバーンは向かって来る勢いそのままに激しく地面にグジャッと鈍い音を立て叩きつけられていく。
そしてどの個体も立ち上がることなく身動き一つしなくなったのだった。
そして辺りが静寂に包まれた。
「え…………終わり?」
地面に落としてから戦おうと思ってたのに。
こんなに弱いのワイバーンって?
マジで拍子抜けなんだけど。
「早くも終わったみたいじゃな………」
「流石ですユウキ様」
「そうみたいね」
「…………」
無言のアイリに対し、全員がユウキのスキルに感心するなか、元ミュール王国の解体作業が開始されたのだった。
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