82話 無の世界
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ブチは驚きを隠せなかった。
誰よりも警戒し、周りにおかしな動きがないかも確認していたにも関わらず、気付いたら突然ユウキが目の前にいたからだ。
「何で……何でお前がここにいるっ!? お前は確かにこの俺の弓に射たれたはずだろ!」
ブチの嗅覚は一キロ先の僅かな血の臭いもかぎ分けられる程の敏感な鼻だった。その鼻があの血の臭いは本物だと錯覚してしまっていたのだ。
「ああ。 それはお前が見ていたのは全て幻術だったんだよ。 だから俺はお前の弓に射たれてもいないし、 傷1つ付けられてもいない」
ユウキは挑発するように両手を広げピンピンした様子を見せた。
「あれが……幻術? あの出来事が全て幻だったっていうのかよ」
信じられないと言った顔でブチはユウキの姿を確認し、無傷だった事に現実を認めざるを得なかった。
「信じられん……。 いつからだ……? オメエはいつからこの俺を幻術にかけてたんだよ!!」
「お前達に向かって大声で話しかけた時だよ。
あの時に声が雨音にかき消されないかを確かめたんだ。
後は察しの通り、幻術にかかった周りの野盗を全て殲滅して、最後に残ったお前の幻術を解いたって訳だ」
「オヌシは以前ライオネスの隣におった幹部の一人じゃろう? その不細工な面を見たら一目で思い出したわ。 心眼でオヌシの計画ともすぐに分かったしの」
わざと大声を出して、狂戦士達に聞き耳を立てさせたこと。
それともう一つは建物に声が反響して偶然効果範囲が広がったのも重なりユウキの幻術ミラージュに殆んどの狂戦士達は技をかけられたのだ。
「あの時か……テメェ、二人して汚ねえぞ」
しらない間に全員仲間が殲滅されたこと。
子供たちを利用しはめるつもりが逆にはめられていたことに、歯ぎしりをたてながら悔しがるブチにユウキは呆れ顔で答えた。
「これが俺の戦闘スタイルなんだよ。 それに集団で人を囲って、更に子供を盾に攻撃してくるようなお前らに汚いなんて言われる筋合いなんて1つもないけどな」
「けっ! 俺達の何がいけねぇんだ。 子供も女の扱いも、全部使い捨てみたいなもんだろうが。 こき使って、壊れて死ぬまで楽しんだらそれでおしまいだろ。 お前だってそうだろう?! 散々遊んで捨ててきたんだろが!」
「どこまでも救えねぇな……」
腰にぶら下げた短剣をユウキは一瞬で抜き、ブチの右腕を切り落とした。
「ぐっ……ぐぁぁぁぁぁっ!!!」
「何か最後に言っておく事はあるか?」
ブチは切り落とされた自分の腕を見ながら激痛に涙し、必死にユウキに命乞いをした。
「たた……助けてくれ! 何でも言うことを聞く! 金も女も欲しければくれてやる! だから……」
「え……」
ザンッ!と鈍い衝撃音を立てた後、ブチの頭は横に転がった。
「今のお前にしてやれるのはこれが最善だよ。
死んで、あの世で死ぬほど後悔しろよ。
今までやってきたことを何度も何度も後悔して、次に生まれ変わる時は真っ当になって生まれて来いよ」
涙を流していた滴が横に落ちた後、ブチは魂と共に肉体ごと消滅していった。
「ユウキや……オヌシは優しいのぉ。 ワチならもっといろいろ地獄を味合わせてからあの世に送ってやっとったぞ」
死んで消失したブチの跡を見ながらユウキは呟いた。
「死んだ奴等はどうなるんだ?」
「天界に行き、マリア様の判断が下される。 あれほどの行いをしてきたんじゃ。 アヤツらは魂ごと『無の世界』を何千年も漂う事になるじゃろうな」
「無の世界?」
確か一番始めにぽんこつ女神が言っていた重罪人が行着く世界の事か。
「ああ。 無の世界は言葉通り何もない世界じゃ。 存在するのは己の魂のみ。 水も空気も光もなければ、本当に何処までも永遠と続く闇の世界じゃ」
ユウキの隣に立ってキラ様は答えた。 罪人が死ぬということがどういうことか改めて教えておきたかったからだ。
「あの世界は本当に苦しいぞ。
何も……何一つない世界じゃからな。
暗闇の世界で悔いを改めさせる時間が何百年、何千年と永遠と続くのじゃ。
その途方もない時間に、辛くなり死にたくなったとしても魂だけでは死ぬ事すら出来んからな。
自我も崩壊出来んあの世界は正に地獄のような世界じゃろうて」
ユウキの感情がキラ様に流れ込んできていた。
それは少しの怒りと、救ってやれなかった者への悔しさと二つの感情だった。 そこには以前のような強烈な怒りの感情など全くなかった。
「心配するな。
オヌシのやった行動は間違っておらん。
いずれアイツらは全員死ぬ運命だったじゃろうて」
「ああ……そうだろうね……」
俺は覚悟してこの戦いに挑んだ。
「アイツ等は生かしておいたら確実に被害が増えるだけの悪の存在だった。
だから、俺は殺した。
その事に後悔はしていない。
でも戦ってみて以前のような怒りよりも実際には別の感情が沸いたよ」
「別の感情じゃと?」
流れてきていた感情の事かとキラは思った。
だが、ユウキから出た言葉は違う台詞だった。
「それはアイツ等を楽にしてやりたかった。
俺のように再び何処かの世界で転生して生まれ変わって、一からやり直せるようにと。
悔いを改めて次はまともに生きて欲しいと。
俺も……アイツラと同じ様に挫折や絶望を味わったことのある人間の一人だったからな」
「ユウキ……」
「俺だって強い心を持ち合わせちゃいない。
弱いなかで必死に生きてきたうちの一人だ。
その心の弱い者の成り果てがこの世界では野盗という存在。
絶望に絶望を重ねたアイツ等に同情は出来ないけどな……」
振り向きキラ様の顔を見てユウキは静かに話した。
「それが、この世界の厳しい現実なんだな」
「ああ。 全ては救えない。
アヤツらは罪を重ね過ぎた。
あの世でしっかり反省してもらう必要がある。
それに、光があれば、そこには影ができ、闇がうまれる。
そうなれば野盗は知らん間にまたわいてくる。
そうならん世界を作るにはまだ時間がかかるじゃろうな」
いずれ向き合う事になるであろう戦いの定めにユウキは向き合おうとしていた。
「じゃあな、クソヤロウ供……。
次に生き返る時は真っ当に生きろよ…… 」
そう言葉を残しユウキ達は子供達の元に戻って行った。
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