77話 本音
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夜が明け、いよいよ殲滅戦に向けて動き出す時が来た。
この日は珍しく今にも朝から雨が降りそうな曇行きだった。
ゴーストタウン到着まで馬車で15分ほどの所まで近づいていた。
「さぁ、いよいよ開戦だ。 皆、準備はいいか?」
ユウキは緊張した面持ちで皆に質問した。
「はい。 私達は大丈夫です。 ですが………その……なんですが……ユウキ様は本当に大丈夫でしょうか?」
ニーアはユウキの事を心配し、声をかけた。
キラ様も昨夜の事を察し、ユウキに話した。
「オヌシの不安な気持ちが皆に伝わって来とるぞい。 お前さんもコヤツらのことをもっと信用してやったらどうだ?」
ユウキはそのキラ様の言葉にハッとした。
また自分で色んな気持ちを一人で抱えていた事に。
「そうよ。私達をもっと頼りなさいよ。 これでも、あっ………あんたの嫁なんだからっ!」
「そうだよユウキ。 何でも相談していいんだよ。 聞きづらい雰囲気だったから訊けなかったけど、私達も何でも相談して欲しいんだからさ」
シャルルとアイリも本音で話し、ユウキと向き合おうとしていた。
「みんな………」
俺だけの問題だと思っていた。
俺が乗り越えなければいけない壁だと思っていた。
でもそれは自分の勝手な思い込みだった。
共有して意見を出しあって、皆が同じ方向を向いていかないといけなかったんだ。
「ごめん皆、俺に気を使わせて。 実は俺は情けない事に対人戦を殆どしたことがないんだ。 したいとも思った事もなかったしさ」
「キラ様からも聞いたわ。 ユウキは野盗を殺めた事がないだろうって。 この世界でそんな人珍しいわよ」
「うん。 まぁ、ちょっと複雑な環境で育ってきたからさ。 だからそんな状況になったこともなかったし、人を殺める事に少し抵抗があったんだ」
俺は前世からの転生者の話はキラ様から口止めされていたので、そこははぐらかしたが、人を殺める事については正直に話した。
ムカツク奴は腐るほどいた。
だが、殺すまでに至ったことはない。
当たり前の事だが、前世では殺しが許される世界ではなかったからだ。
「でしたら、ユウキ様は今回の殲滅戦は無理なさらずに後方支援に立って頂き、私達が先陣をきって野盗を殲滅していきますので……」
ニーアは気を使ってユウキに声をかけたが、ユウキの出した答えはニーアの予想に反した答えだった。
「俺も最前線で戦うよ。 そう決めたんだ 」
「えっ?」
「俺だって話し合いで解決出来るなら話し合いで解決したいし、 金で解決出来る問題があるなら金で解決したい。 だけど分かったんだ。 話し合いが通用しない奴らも実際にこの世界には沢山いるってことを」
この世界では街から一歩でも外に出れば、殺意を向けて襲ってくる野盗がいる。
理由は金になる物や食料を奪う為だ。
たったそれだけのこと……。
野盗からしたら生きる為にはそれしか残された道がないからだ。
襲われた人は抵抗し撃退する者もいれば、運悪く命を落とす者もいる。
俺が前世で運悪く刺されて死んだように、この世界では簡単に死が訪れる。
それがこの世界の現実。
あり得ないほど普通に人が簡単に死ぬ世界。
その事に誰も抵抗を感じている者もいないし、皆が死を身近に受け入れている。
俺の習ってきた前世での道徳心なんて何も通用しない。
逆にその甘さがこの世界では最悪命取りになるってことを俺はライオネス戦くらいから感じ始めていた。
「まぁ、そうでしょ。 話して分かる位の連中なら野盗になってまで落ちぶれたりしないはずだから」
アイリもごく正論を返した。それがこの世界の起きている現実だったからだ。
「今でも戦うのが怖い。
でも……それ以上に中途半端に何もしないで、その結果、万が一誰かを失う事になるのが1番怖い。
周りの強さや優しさに甘えて、俺は後ろで戦うのはもう終わりにしたい。
それに女、子供に手をあげ、人権を無視したような扱いをする野盗が俺は1番キライなんだ。 アイツらに生きる資格なんてない。
だから、今回の殲滅戦は俺が最前線で戦う」
「ユウキ様……」
「そんな風に思ってたんだ」
「多くの野盗をオヌシが殺す事になるぞ」
キラ様はユウキに真剣な顔付きで話した。
「ああ………。 救えない奴もいる。 だったら俺の手で終止符を討つって決めた」
厳しい顔付きをしたユウキにニーアは再度声をかけた。
「ユウキ様がもしそのことで心を痛めるのなら、私達が代わりにやりますのでムリだけは……」
「ありがとうニーアちゃん。 もし、万が一俺の剣が止まるような事があれば頼むよ」
俺はそう答えて、旅の始めの時に腰にさした短剣を見て、もう一度自分の甘さを取り去るようにした。
「なぁに、オヌシが苦しければ剣を振るのを止めればいいだけのことじゃ! オヌシの分までワチらが動いてやるワイ。 その為の仲間じゃろう?」
そうキラ様は笑って答えてくれた。周りも同じ意見だった。
そうか……。
俺の苦しみも悩みも、これからは皆で乗り越えていけばよかっただけのことだったのか。
ユウキの気持ちが少しだけ軽くなったような気がした。
「ありがとう皆………行こう!」
こうして殺戮集団殲滅戦が始まった。
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