74話 小さな感情
遊びに来てくれてありがとうございます。
少しの間短編で更新していこうと考えています。
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「天界で何かが起きておる……」
あまりにもマリア様からの返事が遅いことにキラは胸騒ぎを覚えた。今までも遅いことは度々あったが、これ程遅くなることはなかったからだ。
「正直、私達には天界のことなんてどーでもいいのよ。 要はユウキが罪人扱いを受けているのが納得出来ないのよ」
至極まともな事をアイリは述べてキラの返答を仰ぐが、天界から返答が来ない以上、キラにもそれは分からないことだった。
「すまぬな……。 じゃが、分からんもんはワチにも分からん。 それに今となってはそれもいいと感じてきている自分がおるんじゃ……」
キラは女神マリアに手紙を出すことを途中からやめていた。始めは天界に何度も出していたのだが、あることが理由で出すのをためらい始めてしまったのだ。
「どうしてキラ様はユウキを罪人のままでいいって言うの? 普通罪人のままでいいなんて、そんなこと思わないはずよ」
シャルルはキラの言った事の真意を確かめるために問いかける。それはキラの歯切れの悪さも気になったからだ。
キラは正直に答えた。 神の使い魔として1000年以上同じ行動をずっとしてきたのに、ユウキとの出会いが考えを少しずつ変え始めていたのだ。それが正しいのかなんてキラ自身も分からない。
だが今まで何も感じたことがないキラの中にある無の感情に、少しずつ色をつけ始めていたのだ。
「アヤツとおると楽しかったんじゃ………。
この世界でワチは1000年以上神の使い魔として仕事をしてきた。
色んな事があったよ。
時にはワチに殺意を持って向かってくるヤツもおれば、ワチから逃げようと必死に抗うヤツもおった。
逆にワチを罪人にしようと考える下衆もおった。
そんなサイコパスでも、始めは更正するヤツもおったからワチも努力した頃もあった。
じゃが、容易じゃなかった。
来るヤツくるヤツ裁く奴は変わっても根本が同じ様なヤツラを相手にしておるうちにワチの心も次第に蝕まれていった。
コヤツらにいくら努力して指導しても何も変わらない。
努力するだけ時間の無駄だと。
ワチの情熱はいつしか乾いた感情に徐々に変化していった。
そして罪人に見切りをつけ、裁くのに時間は掛からなくなっていた。
裁くのに情はいらない。
自分から更正する意思のないヤツに情けは無用と。
ワチはいつしか使い魔の間でこう呼ばれるようになっていた。
死刑執行人の鬼のキラと……。
じゃが、そんな悪名すらも何も感じなくなっていた。
しかし、ユウキとの出会いがそれを変えた。
こんな感情初めてじゃった……。
アヤツと出会い一緒に旅をし始めて、色々な街を見て、一緒に飲み食いをし、そして途中でオヌシラと出会い、笑ったり、怒ったり、戦ったり、苦楽を共にし過ごしていくうちにアヤツの魅力にどんどん引き込まれていく自分がおったんじゃ……。
こんなにも心踊るような毎日が訪れるとはワチは夢にも思わんかった。
それがいつしか罪人を裁くという本来の業務を忘れさせてしまうほどに。
本当に退屈をした日なんて1度たりともなかった。
不思議なヤツじゃ。 アヤツはワチになかったものを沢山持っておったんじゃ…… 」
その台詞を聞いてシャルルもキラが嘘を言っていないとは分かったが、罪人のままでいいということと繋がりがいまいち分からなかった。
「キラ様の言い分は分かるわ。 ユウキは女性を惹き付ける特別な力があるから。 ちょっとエッチだけど、それもユウキの魅力の内の一つだから。 でも、それと罪人のままでいいとは直接理由が繋がってこないけど……」
キラは自分でも分からない初めての感情に、どういう顔をしていいか分からなかったが、話せる範囲で理由を説明した。
「すまんが神の使いの諸事情で深い理由までは言えん。 じゃが、アヤツが罪人でないと神に認められれば、2度とワチを含め、ヌシラとも会えんくなるかもしれんからじゃ……」
「「「 え……… 」」」
その場の空気が変わる。誰も予想していないキラの答えに思考が追い付いて来なかったからだ。
「ちょっ……ちょっと待ってよ。 なんでそーなるのよ!」
アイリは混乱しながらもキラに問いかけるが答えが変わる訳でもなかった。
「すまぬ。 これ以上は言えん……。 じゃが、ユウキの返答次第で会えんくなるかもしれんというのは事実なんじゃ……」
すまなそうに返事をするキラを見て、ニーアは優しい声で答えた。
「だから、ここ最近物思いにふけったりしていたのですね……」
「アヤツと一緒に旅を続けたい……。 神に仕える身のワチがそう思ってしまったんじゃ……」
ニーアはたまに見せるキラの物思いにふける表情をずっと疑問に思っていた。 それがこの事だったのかとようやく気付き納得をした。
「キラ様。 私はユウキ様を信じます。
ユウキ様が私達を置いて何処かに行ってしまう、そんな冷たいことをする人じゃないって。
今も、これからも、ずっとその先も、寄り添いながら一緒にいてくれるって約束しましたので、だから私は信じています。 私の最愛の人は必ず一緒にいてくれるって」
「それは私だって同じよ。 ちゃんと……責任とって貰うって約束……したから」
「私だって将来は7人は子供が欲しいって思ってるんだから。 ちゃんとユウキには頑張ってもらわないと!」
「オヌシら……」
どういう顔をしていいか分からない。 だけど不思議と3人を見ていたらユウキがこの3人を置いて天界に行くとは考えずらかった。
「もしも……その時がきたら頼むぞぃ」
「はい、キラ様」
ニーアは微笑んで答えた。 アイリもシャルルも当たり前のことのように。
「当然でしょ」
「勿論任せてよね」
なんでそう言ってキラは3人と約束したのかは分からない。 だが、離れたくない。 自分でも気づかないほどの小さな感情がキラに少しずつ芽生え始めていた。
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