71話 一つの疑惑
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あれから1週間走り、ゴーストタウンに着く前日の夜。
ユウキはいつものように離れた場所でテントを張り熟睡しているなかで、ニーア、シャルル、アイリ、キラ様の四人は馬車でユウキの事について話し合っていた。
「明日にはゴーストタウンに着きますが皆さんに確認しておきたい事があります」
一番始めに畏まって話始めたのは普段はあまり口数が多くないニーアだった。
「ユウキ様の言葉を、皆さんはどう受け止めましたか?」
普段は横から口を挟む事が多いキラ様が、何故かこの時は何かを語るわけでもなく、ニーアの意見や周りの意見を聞き、黙って様子を見ていた。
「いつもは優しい口調で話すユウキが『残党を殲滅する』なんて言った時は少し驚いた。 普段ユウキってあんなこと言うことないから」
シャルルはユウキの台詞を思い返し話す。それを隣で聞いていたアイリも同じような意見だった。
「そうね。 普段のアイツらしくなかったわね。 それにあの時の表情……少し怖かったわ。 あんな顔戦闘中一度も見せたことなかったし」
皆がユウキの事に違和感を覚えていた。 普段とは違う顔に。
「私は今回の殺戮集団を殲滅するのに何の躊躇もしない。 当然の報いと思っていますし、そこに同情の余地もありません」
ニーアは真っ直ぐな目で皆に言い切った。救いようのない奴等を生かしておいても次の犠牲者が増えるだけ。ならば根絶すればいいと。
「まぁ、そうよね。 アイツらはそれだけの事をしてきた訳だし。
実際私も助けて貰えなかったらどうなってたか分からない。 前のライオネスの戦いでそれをイヤって程味わったわ 」
「私もそれには同意見よ。 だけど……ユウキは違うわよね」
そのアイリの一言に皆の反応が変わる。
「はい。 ユウキ様は口ではああ言っていましたが、そうしたくないという思いがあるかと思います」
ニーアも考えていた。 あの台詞はユウキから出た本心の言葉ではないんじゃないかということを。
魔物を討伐しなくても安全に稼げる天職があれば、無意味に魔物を殺さなくても邪気スポットだけを狙えば魔物は大人しくなり、人を襲わなくなる。 少しでも魔物を討伐したくないという理由からユウキはキラキラサーカス団を立ち上げたことをニーアは皆に説明した。
それが人となれば尚更ではないかと。
「なるほどね。 アイツらしいわね……」
アイリはユウキの考えそうな事に納得をしつつも、世界に選ばれし者の存在がどういう者かを知っていた。
「確かにユウキが考えそうな事よね。 でも、この世界はそんな単純な構造で出来ていない」
シャルルもこの世界の事を当然のことのように知っていた。
「ええ。 この世界の邪気が乱れ始めている。 それはきっと封印された魔王の存在が原因だからよ。 でも、そんな甘い事を言っていたらいつか死ぬわ」
シャルルとアイリはユウキの甘い考えを否定した。それはこの世界で15年前に封印された魔王による世界侵略戦争の惨劇を全員が目の当たりした被害者でもあったからだ。
そして、今まで黙って聞いていたキラ様が口を開いた。
「ワチが神の使い魔の間でどう呼ばれておるか知っておるか?」
突然のキラ様の発言に周りは理解できず固まった。今の発言に何の意味があるか分からなかったからだ。
ただ一人だけ除いて。
「死刑執行人………よね?」
「ああ。 そうじゃ……」
アイリだけは知っていた。 魔法にも詳しいが、ハンターの情報や、世の中の事にも常に耳を傾けていたからだ。 そして使い魔の事についても。
使い魔の中でも大きく分けて種類がある。
選定者に着き、邪悪な者を討ち滅ぼすために選定者を導く使い魔。
世界を安定させる為に知恵を与える使い魔。
罪人を見張り更正を促す使い魔。
この世界で圧倒的に多いのが罪人を見張り更正を促す使い魔の存在だった。
そしてその存在の中でもかなりの重罪人を取り扱うのが『死刑執行人』鬼のキラ様だった。
「だから始めキラ様の名前を聞いた時は分からなかったわ。 本当は違う使い魔様なんじゃないかって」
「本人じゃ。 キラの名前を持つのは使い魔の中でもワチ一人しかおらん」
そう言ってキラ様は話を続ける。
「ワチは罪人でも重い奴を扱う専門じゃった。 今までも、そして今でもその役割は変わっておらん」
「「えっ……!?」」
周りがキラ様の発言に驚く。 その台詞からだとユウキは罪人と言っているようなものだったからだ。
「……アヤツは罪人としてこのワチに見張られておる」
「「 なんですって!? 」」
驚愕の事実に皆がその場から立ち上がる勢いで反応した。 その事実が本当なら、今までの出来事を根底から覆す程のことだったからだ。
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