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59話 夜明け

「ふぁ……ぁ……」


 こんなに目覚めがいい朝はいつ以来振りだろう。

 前世では仕事に追われていて、熟睡できる日なんて一日もなかった。

 この世界でも最初は落ちこぼれ職業と呼ばれた『遊び人』が本当に強くなるのかという不安もあり熟睡とよべる日もなかった。

 だが旅の途中で、シャルルちゃんを助ける為に命をかけて戦ったライオネス討伐が俺のターニングポイントになり周りが手のひらを返したかのように扱いが変化した。

 黄金の手のお陰で周りは限界突破(リミットバースト)し、驚異的な強さを手に入れ、俺自身も互いの絆が深まるとパワーアップして、そして気付いたらAAA級までのし上がっていた。


 どこまでも貢献出来るかは分からない。前世では人助けで死んだはずなのにポンコツ女神のせいで罪人扱いになった俺はこの世界で貢献するという強請イベントが発生してしまったからだ。

 今となってはそんな不運さえメンバーとの出会いを考えればこっちの世界の方が俺には合っていたとさえ思える。

 このメンバーとなら俺はどこまでもいける気すら覚えていた。


 俺は幸せを噛みしめて身体を起こすと、隣にはシーツを腰までかけた裸姿のニーアちゃんがすやすやと可愛い寝息をたてて熟睡していた。


「マジで……可愛すぎだろ……」


 窓を見るとまだ朝は早いようで、人の動きもなくチュンチュンと小鳥が(さえ)ずる音が窓の外から聞こえてくる。


 なんて朝だ。夢にまで見た最高の朝とはこのことじゃないか。

 こんな日が毎日続いたらどんだけ幸せなんだろうか。考えるだけでニヤニヤが止まらなくなる。

 魔物がいなくなった世界になれば、こんな日がくるのも夢じゃないはずだ。

 ニーアちゃん、シャルルちゃん、そしてまだアイリちゃんとは絆を結んでいないが、3人でゴロン大陸に住んでいっぱい子供達に囲まれて幸せな家庭を持つのもいいんじゃないか?


「おっと………」


 妄想を膨らませ過ぎていたのか、時間が経ち街の住人が少しずつ増えてきた事に気づき現実に戻される。


 夜ならまだしも二人で朝からベットでイチャついていたのを知られると周りの視線が痛くなる。

 特にシャルルちゃんは妬き持ち焼きそうだからな。

 早く起きれたので今ならまだ間に合うから気付かれないようにニーアちゃんには少し悪い気もするが部屋に帰って貰うか。


 そう思い隣で熟睡しているニーアちゃんの肩を揺すって起こそうとする。


「ニーアちゃん、起きて……」


 ゆさゆさ……


 肩を揺する度に程よく実った果実のような胸が左右にゆさゆさと小気味良く揺れた。


「ぐはぁっ!!」


 ダメだ…………今は耐えろ。

 これを我慢しなければ朝からキラ様の天罰が下ることが確定するんだぞ。男ユウキ、今は耐えるんだっ!


 そう思い強めに揺すって見るがニーアちゃんは起きようとしない。

 ユウキは初めてニーアちゃんを抱いた時を思い出した。あの時もニーアちゃんはキラ様に壁を叩かれるまで二人気持ちよく寝ていたな……。


「思い出した。 ニーアちゃんは一度寝たら中々起きないタイプだった……」


 まずいな。 非常にまずい……。


 とりあえず俺はベットから降り、いつもの服に急いで着替えた。

 気持ちよい朝が一転して暗雲が立ち込めてきた。

 隣にはニーアちゃんの脱いだ服と可愛い下着が置いてあったが、興奮する余裕もなくキラ様の事を考えたら気が気じゃなくなっていた。


「どうすればこの危機を脱却できるんだ? 考えるんだ俺……」


 ぐるぐると部屋の中を歩いて回るが一向にいい案が浮かんでこない。


「くっ、これじゃまた俺は丸焦げになるぞ。 毎回いてぇんだよあの電撃は…… 」


  少しの苛立ちと焦りに俺はハッと思い出す。 いかん、俺の真相心理はキラ様とリンクしているんだった。 この今の気持ちがもしかしたらキラ様の方に既に伝わっているかもしれない。


「まだ間に合う。 平常心を保て! Be(ビー) Cool(クール)だ!」


 すると俺の気持ちを察知したかのようなタイミングで扉の向こうから俺の部屋に向かって足音が近づいてくる。俺は耳を澄ませキラ様かどうか確認する。


「………あの足音はキラ様じゃない!?」


 キラ様の足音は身体が小さいから聞こえにくいからだ。

 あと店員が朝ご飯を持ってくる事も、起こしに来ることもない。

 ということは二人のどちらかに絞られる。

 俺は頭をフル回転させて考える。相手がシャルルちゃんだった場合、挨拶だけとりあえず済ませ、部屋には入れずに後で合流する計画を立てる。

 二人目のアイリちゃんだった場合は適当に部屋の前で空気をよんで貰い回りにも内緒にしといて貰う計画を(くわだ)てる。


 コンコン…


「はい……。 誰かな?」


 俺はなるべく平常心を装い対応する。が、内心はかなり緊張していた。

 誰だ? アイリちゃんか? それともシャルルちゃんか? ニーアちゃんとは婚約者同志だから今更何もやましいことはないのだが、心理的に慣れていないからどう対応していいか分からない。

 俺は恐怖しながらも少しだけドアを開け扉の向こうの人物を確認した。


「おっはよ。 ユウキっ!」


 扉の前にいたのは満面な笑顔を向けてくれていたシャルルちゃんだった。


 くっ。このタイミングの時はまだアイリちゃんの方が良かったな。仕方ない、適当に考えたプランでその場をやり過ごすしかない。


「あ、ああ。 おはよシャルルちゃん。 朝から元気いっぱいだね」


「うん。 ユウキに会いたくて早く起きたんだっ」


 曇りない笑顔で俺に答えてくれ、本来なら俺もその気持ちに全力で答えたいのだが、今の俺はその逆の気持ちで変な汗が俺の手のひらと脇からじわっと吹き出してくるのを感じていた。


 くっ、生きた心地がしねぇ。


 俺はそう思いながらも無下にしたくはないので誠意を持って答える。


「そうなんだ。 それは俺も嬉しいよ。だけど、今から着替えるから後で合流しようか?」


「え~? 今更二人の仲でそれ気にする事? ユウキって着替え見られたくないタイプだったっけ?」


「あぁ。 そうなんだ。 俺は身体に自信ないから一人で着替えたいタイプなんだよ」


 本当は見られてもいいんだけど、今は適当な理由をつけて一時凌ぎをするしかないんだ。


「なんだ。 そうなんだ。 私は気にしないんだけどなぁ。 どんな姿でもユウキを好きでいられるよ」


 シャルルちゃんも相変わらず気持ちがストレートだよな。そんなにストレート過ぎると俺の心が少しだけチクッと痛むわ。


「俺は恥ずかがり屋さんだからさ。 ごめんね、すぐ行くから」


「も~。 分かったわよ。 なら後でロビーで落ち合おうね」


 そう言ってシャルルは一旦引返そうとするが、そうは上手くはいかなかった。



「ところでニーアを知らない? 朝から姿が見えないんだど?」



 ドキィッッ!!! 急な質問に俺の心拍数が180を越える。



「えっ!? どこだろうね? もしかしたら朝から剣の練習でもしてるんじゃないかな?」


「ふーん。 ニーアも真面目よね。 街にいるときくらいゆっくり休めばいいのに……」


「影で努力するタイプなんだよ、ニーアちゃんはさ」


「確かにそうよね。 あの強さは並々ならぬ努力をしないと到達出来ない強さだしね」


 早く……今だけは、早く帰ってくれ。でないとキラ様もこの部屋に来て厄介な事になる。


「でもニーアって朝苦手だったはずだけど……?」



 ドキィィッ!!!



「どうしたの? さっきから凄い汗だけど……」


「えっ!? ああ、 朝から暑いなって!!」


「あと気付いたんだけど、さっきからニーアの匂いがユウキからするんだけど?」


 ぐはぁっ!!


 ヤバイ! シャワーを浴びてなかった。獣人のシャルルちゃんは人間より鼻が何倍もきくのを忘れていた!苦し紛れの言い訳なんて出来ないぞ。


「はわわ……それは昨日夜少しだけ一緒に飲んだからで……」


「それと、さっきから索敵(サーチ)でニーアがずっとユウキの部屋にいることになってるんだけど? なんで? まさか一緒にいないよね?」


 駄目だ、この目は完全にバレている。最初からシャルルちゃんは俺の事を全て分かって言ってたのか。


 万事休す………


 すると横からキラ様がヌッと姿を現した。


 くそっ。 やっぱりそういうことか。 始めから二人はグルかよ。


「ユウキや。 婚約者に嘘なんてつくんじゃないぞぃ!!」


 バチバチと音を立ていつものお決まりのコースが俺を待っていた。


「天誅じゃぁ!!」


 激しい稲妻が俺に向かって容赦なく放たれた。


 バチバチバチバチィィィ!!!


「ぎょわわわわわわぁ!!!」


 大の字に丸焦げになった俺を見ながらシャルルちゃんは言い放った。


「ダメだよ嘘は! それとニーアと抜け駆けするならちゃんと私にも後で平等に愛情を注いでよね。 そしたら許してあげるからねっ!」


 知っててわざと俺の反応を見るために二人で来たってことなんだな。


「ず……いま……せん………でした……」


 そうニッコリ微笑んでシャルルちゃんはその場を丸く納めてくれた。

 寛大な心の持ち主の二人には感謝しなくてはと思う俺であった。







読んで頂きありがとうございます。


少しでも良かったと思われた方はブクマ登録と評価をして頂けると大変嬉しいです。


底辺作家ですが、レビューもお待ちしてますので宜しくお願いします!

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