55話 最強の黒魔道士になる為に
俺はアイリちゃんの話を聞いて暫く考えていた。
アイリちゃんがイフリートに認めて貰う為にはどうしたらいいのかをだ。
一つはそのままイフリートの所へ行き、実力を見て貰うことだ。
だが、過去に勇者パーティー以外に精霊王達は自身の欠片を渡した事がないと言っていた。
少なくとも勇者パーティーは今のアイリちゃん以上の実力者という可能性が濃厚だ。当たり前だがパーティー中には賢者がいる。 そして間違いなく精霊王は賢者に欠片を渡しているだろう。
攻撃、魔法と専門職の勇者と賢者はどれくらいの強さかなんて俺には到底計り知れない。 とするとアイリちゃんは、素の実力が賢者同等か、それ以上じゃないとイフリートに認めて貰うには厳しい可能性が高い。
上級魔法を扱えるようにするにはハンターランクを上げないことには術式を手にいれる事が出来ないって言ってたからな。
普通に皆で旅をしていればいつかはランクが上がって上級魔法も使えるようになるんだろうが、この焔の欠片は多分そうはいかない。
そもそも精霊王達ははなんで過去に勇者パーティーにしか欠片を渡した事がないんだ……?
単純に強いだけなら他にも強い魔道士もこの世界にも何人かはいるはず。
だけど、アイリちゃんは渡した事がないと言っていた。
そこからは考えられる事はなんだ?
もしかして単純に強さじゃない……?
だとしたら。
A級に上がろうが、S級になろうが永久にアイリちゃんは精霊王達から欠片を貰えないことになる。
焔の欠片を手に入れるためにはどうしたらいい?
くそっ……。
なんか、いい案はないのか。
せめて何かが分かれば、どうとでもなるんだが……。
俺は少しの可能性を信じてアイリちゃんに聞いてみた。
強さ以外の何かが分かれば欠片は手に入れられるはずなんだ。
それを知っている人間は……
「なぁアイリちゃん。 焔の欠片を貰った人間は魔道士ではいないのか?」
ユウキの突拍子のない発言に目を丸くして驚くアイリ。
「どうしたの急に? そんなの今の賢者シーダ様と過去の賢者達くらいしかいないんじゃないかしら……」
「ならそのシーダ様のいる場所までは、ここからどれくらい離れてる?」
「うーん。 ここから北のマライア大陸に船で渡って、そこからは馬車で賢者シーダ様がいる魔法学院までは最短で大体片道7日くらいかしら………」
往復で2週間で、それも別の大陸に渡らないといけないのか。 そうなると意外と時間がかかるな………。
行って焔の欠片をどうやって貰ったのか訊く価値はあるかもしれないが、行ったところで無駄足になるかもしれない。
せめて、賢者のような選ばれし者が近くにいれば………
………………………
……ん?
…………選ばれし者?
もしかして、俺は賢者にこだわってだが、実はそうじゃないのか?
いや…………そうかもしれない。
俺は可能性についてアイリちゃんに話した。
「正直に答えるよアイリちゃん。 今のままじゃきっと焔の欠片は手に入らないかもしれない」
「―――――っ!」
傷付くかもしれないが先ずは理解して貰う事が重要だ。
「考えたんだ俺なりに。なんで精霊王達は勇者パーティーだけに欠片を渡していたのか」
「それは……彼達が強いからでしょ?」
当たり前のような顔をしてアイリちゃんは言ったが、半分は正解だと思う。 だけど、それ以外の事が重要なはず。
「多分、精霊王達は『選ばれし者』にしか欠片を渡していない。 それはきっと世界を救うと思える存在かが判断基準だと思うんだ」
「どうしてそう思うの?」
俺の話にアイリちゃんはハテナマークが浮かぶが俺には確信に近いものがあった。
「精霊王達は世界の生命エネルギーで生まれていると言ったからさ。
俺達が助けた微精霊達は邪気スポットを本当に嫌がっていた。
魔族がこの世界で悪さするのも邪気スポットが増えるのも精霊達には生命エネルギー源が破壊されたりして都合が悪いからだ。
それは精霊王達にもきっと当てはまる。 それを排除してくれると思える相手にだけ精霊王達は自身の一部を渡して託してるんじゃないかと俺は予想したんだ」
「精霊と仲がいいアンタだから分かったのね。 なら尚更もう手に入らないわね……」
がっかりしてしまったかもしれないが、これがこの世界での現実かもしれない。
でもそれを受け止めた上で俺達は手に入れるためにどうしたらいいか決めないといけない。
ダメでもやってみないことには始まらないからな。
近いうちに起こると言われてる厄災に備える為に、強くなれとポンコツ女神にも言われているからな。
「俺はアイリちゃんに焔の欠片をイフリートから貰って欲しい。 だけど、今のままじゃ確実に手に入らない」
だから、1つの可能性を言う。
「実力でダメなら、俺がイフリートを説得させて焔の欠片を貰う」
「いやいやいや、いくらアンタが凄くてもイフリートが私達の話なんてマトモに聞いてくれる訳ないわよ!」
顔を振るアイリちゃんに、俺は強い口調で納得して貰うよう説得する。
「でも、話してみる価値はある。 俺も選ばれし者だからね」
「!!」
その言葉にアイリは激しく動揺した。またユウキがとんでもないことを言い始めたからだ。
「ほ……本気なの?」
「本気も本気だよ。 俺も世界に貢献するというキラ様との約束もあるからね。 その為にはアイリちゃんのスキルアップが必要なんだ。 その為だったらいくらでも俺は協力するよ」
話すだけなら失うものは何一つないからな。
それに俺も話してみたいこともある。
「いやいやいや……」
イヤイヤ星人になったアイリちゃんを俺は勢いで話す。
「欲しくないの焔の欠片が?」
「う………欲しいわよ」
「なら、行ってイフリートに実力がダメだった場合、話だけでも聞いて貰おうよ」
呆れた顔で俺の顔を見るアイリちゃんは目を丸くして言った。
「よくそれだけの仮説で堂々とそんな事言えるわね。 開いた口が塞がらないわ」
「はは。 よく言われるよ。 勢いは凄いねって」
でも、これだけは思うんだ。
アイリちゃんとの約束。
俺が頑張る理由なんてそれだけなんだ。
「アイリちゃんには賢者を越える最初の最強の黒魔道士になって欲しいからな」
「!!」
「最強の黒魔道士………」
「そうだよ。 それくらいアイリちゃんにはなって貰おうかな」
その言葉を聞いてアイリの覚悟が決まったようだった。
「いいわよ。 大魔道士になってやるって約束したしね」
「よし。 なら決まりだな。 皆でイフリートに会いに行ってみよう」
こうして俺達はイフリートのいる煉獄谷に向かう事になったのだった。
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