49話 私のプライド
「こっ、コイツ仲間を食べて回復してる!!」
シャルルの目の前で、ベヒモスは一匹の魔物を食べ終え、次々と魔物を口に運んでいく。
そしてベヒモスの血肉となった魔物は、ベヒモスの肉体を急速に回復させていった。
「くっ! だから暴飲暴食の怪物ってアダ名があるくらいなのね! これじゃラチがあかない!」
耐久力もある上に、回復の術まで備えているベヒモスは名前通りの怪物だった。
「もうほんとイヤ! 誰か早く何とかして!」
シャルルの聖気を宿した肉体でも、あまりに大きいベヒモスには双剣で肉は切り刻む事は出来ても、致命傷までの深手は負わせられなかったからだ。
「シャルルちゃんが思ったより苦戦してるな」
ベヒモス相手にシャルルちゃんはノーダメージで立ち回っているけど、相手が回復してるみたいだから分が悪いな。
このままだと長期戦になる。
ベヒモスを倒すには、周りの魔物を殲滅するか、回復が追い付かない程のダメージを与えるしかない。
シャルルちゃんも手詰まり、ニーアちゃんとタイガは無双中。
俺がフォローに行きたいけど、そうするとアイリちゃんが無防備になる。
どんな魔法を撃つのか分からないけど、アイリちゃんの魔法の威力に期待するしかない。
全員が混戦中に、一人アイリは魔法を詠唱しながら戦いが終った後の事を考えていた。
「はぁぁぁっ 」
目をつむりながらアイリは一度深い深呼吸をした。
こんなに危機的な状況なのに、不思議と今は恐さがない。
むかつくけど、これも全部アイツのおふざけのお陰だわ。
でも、この戦いが終わったら、きっと私はこのパーティーから外される。
こんなに実戦で役に立たないなんて、私でも信じられないくらいだから。
だって、まだ一発もこの私が魔法をブッぱなしてないくらいだもの。
ホントに悔しいけど、それくらいは自分でも分かる。
今まで色んなパーティーを転々としてきたけど私に合うパーティーなんて一度だってなかった。
可愛いだけで最初は歓迎されたけど、周りの言うことに合わせられないワガママな私に、誰もが最後はイヤな顔をした。
私が実戦で要求する事をまともに聞いてくれる連中は今まで一人だっていなかった。
それよりも要求する私にいつしか付いてこれないと離れていく連中もいれば、後で吠えて唱えてるだけの楽な魔法使いと罵られるようになった。
そんな事を繰り返すうちに、私はいつしかパーティーの中で距離を置くようになり、そして自分がのし上がるためだけの手段になっていた。
私と気の合う連中なんて誰一人といなかったから。
今回の金色の翼だってそう。私はガイアの好意を利用してB級パーティーに入れて貰った。
A級ランクに上がるために彼達を利用したんだ。
自分が強くなる為に、彼達の実力に見合わないクエストを何度も受注させた。
だから今回もユウキ達を利用してランクを上げていくつもりだった。
でも、このパーティーは私が思っているよりも全員が遥かに強い格上のパーティーだった。
仲間に入れてって言った自分が恥ずかしく思えるほど、本当に強かった。
そして………これが伝説の強さになっていく勇者のようなパーティーなんだなって悟ったわよ。
だから私は付いてはいけない。付いて行きたいけど……。
連れていって貰えない。
そんな資格、私にはきっとない。
「くっ…………」
全身の魔力が吸いとられていく。魔法を作り出す手が痺れてる……。
この魔法は実戦で一度だって使ったことがない。
時間がかかり過ぎて使うことすら出来なかった。
そして一番の問題は、魔力量的に一発しか使えないから。
だけど、もし私が倒れてもこのパーティーは動いてくれる。
私が足を引っ張っても、対処するだけの力がこのチームにはあるから。
ホント癪だけど、これが今の私の実力って気付かされたわ……。
だから最後にせめて私が、このアウラ・アイリがこれくらいはやれるんだって思わせる最高で最大の魔法を見せてあげるわ!
高々と上げた杖の先には巨大な魔方陣が出現する。それはベヒモスを倒すために遥か上空に作られた特大魔法だった。
「出来たわよっ!!」
「よし! アイリちゃんの魔法をお見舞いしてやれっ!!! シャルルちゃん! ベヒモスから離れるんだ!」
「了解よっ!!」
離れたシャルルを見計らって、アイリはベヒモスに向けて最大級の魔法を発動させた!
「これでも食らいなさい!!!」
~ 全ての者を砕き焼き尽くせっ! 巨大炎球!! ~
それはライオネスを討伐する際に魔法隊が魔法を掛け合わせて発動させた時と同じ魔法だった。
ドゴゴゴォォォォォォォォォォォォォォォンン
降り注がれたメテオは巨体なベヒモスに直撃する。骨は砕かれ、焼き尽くされるかの如く、ベヒモスは崩れ落ち鳴いた。
「パォォォ…ォォォ……ォォ……ン!!!!」
「く……あれで倒せない……なんて……怪物すぎ……」
魔力量が底をつきそうになり、フラついたアイリをユウキはしっかりと受け止めた。
「はははっ!!! よくやったよアイリちゃん!!」
「よくって……倒してない……わよ」
「これだけやれば充分さ。 後は……ニーアちゃん! シャルルちゃん! 全力で撃ち込むんだ!!!」
「「 了解!!! 」」
二人は一瞬でベヒモスに間合いを詰め、そして最大級の技を食らわした。
巨大炎球でかなりのダメージを受けていたベヒモスは二人の容赦ない攻撃に成す統べもなく、そして回復出来ぬまま生命とも言える核を壊されたのだった。
「後は残党狩りだけだ!! 一気に押し切ろう!!」
「「「 おおっ!! 」」」
残った魔物達をタイガ、ニーア、シャルル中心で無双していく。
そして、ユウキはアイリを背中に担ぎ上げたまま起用にジャクリングボールとカードを操り、周りの魔物を討伐していた。
「ははっ! ホントに凄かったな! さっきのアイリちゃんの魔法! さすが漆黒の魔道士だっ!!」
「皮肉よ………倒せてないじゃない」
「倒せてなくても充分効いただろ!?」
「私は倒したかったのよ……」
「いいんだよ。 あれだけの魔法が打てれば。 俺なんて………魔法を使えないしな」
余裕そうに戦っていたユウキが少しだけ真顔になり、羨ましそうに答えた。
その勇ましさからは想像もつかなかったアイリは、そんなユウキが信じられなくて質問した。
「あんた……魔法が一つも使えないの!?」
幻滅するかもしれない。もしかしたらアイリちゃんはパーティー志願もやめるって言うかもしれない。
だが俺はあえて正直に言うことにした。アイリちゃんが真剣な顔で俺達に頼み込んだだように、俺も自分の事に嘘をつきたくなかったからだ。
「ああ。 ……そうみたい。 俺の職業は落ちこぼれ職業の遊び人みたいだからね」
遊び人の職業を聞いてアイリは唖然とする。
そんな職業で最前線を戦っているハンターなんて聞いた事がなかったからだ。
この強さで……これほどの強い魔物達を相手にしているユウキが、一つも魔法が使えない落ちこぼれの職業。
はは………それこそありえないでしょ。
二人の間に一瞬の沈黙が続いた。それはお互いがお互いを確かめるように、触れている身体が二人の距離を確かに繋ぎ始めていた。
「あんたは落ちこぼれなんかじゃない……」
「えっ?」
その言葉にユウキはびっくりする。アイリちゃんなら必ずバカにするか幻滅するだろうと思っていたからだ。
「この先、いつか大魔道士になる私が保証してあげるわ。 あんたは落ちこぼれなんかじゃないって」
「…………」
まさかアイリちゃんからそんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかった。
例え今の言葉が気紛れだったとしても、この言葉はずっと心に留めておこう。
「ああ……」
二人が言葉を交わす中、キラキラサーカス団の活躍により魔族の企みを阻止し、魔物達の討伐を今回も無事終わらしたのだった。
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