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48話 暴飲暴食の怪物 ベヒモス

俺達はこのまま押しきれると、そう思っていた。


シャルルに切りギザまれ、苦し紛れに鳴いたベヒモスは、起死回生の一手は誰もが無いかと思われていた。


「パォォ…ォ……ォォ……ン!!」


鼻を高々と上げ、ベヒモスが鳴いている。その鳴き声は腹の芯まで響いて来るような、地鳴りにも近い声だった。


「パォォ……ォォォォォォォォォ……ン!!!」


「くぅっ! 身体もデカければ鳴き声も大きいな……」


「最後の悪あがきをしおって」


誰もが悪あがきとそう思っていた。

しかし、異変に気付いたのはシャルルだった。


「こっ、コイツ、仲間を呼んでいるわ!!」


「「「 えっ!! 」」」


シャルルのサーチに、とんでもない量の魔物の数がヒットする。それはシャルルも数えきれない程の大群だった。


「ど、どれくらいの数だシャルルちゃん!?」


「分からない! ただ信じれない程の数が集まってきてる!」


「マジ……かよ……」


おいおい。あの魔族のせいで、本当にめんどくさい事になったじゃないかよ。

魔族が最後に言ってた森と共に死ねとはベヒモスがこうすると知ってたからだな。絶対に恨んでやる。


「アイリちゃん! 俺の側から離れないでくれ。 今から魔物の群れと戦う事になる」


「っ!!」


邪気がなくなり状態が回復したはずのアイリだったが、今の話を聞いて絶望にも近い顔をする。


ベヒモスだけでも格上の相手にも関わらず、それ以外にも魔物の群れと戦う余裕なんてアイリには全くなかったからだ。


それにもうひとつの絶望があった。


「逃げ道も完全に断たれてる。 やるしかない……のね……」


先程のベヒモスの魔弾光で、馬車もろとも消し飛ばされてしまったのだ。アイリの言う通りもう逃げ道は皆無だった。


そう。戦って乗りきる他、生き残るすべはなかったのだ。


全くベヒモスといい、魔族といい、とんでもないことやりやがる。


そして静寂に包まれた森の中から魔物の大群が姿を現した。それは森を飲み込む程の数だった。


「ははは……。 一体何匹いるんだよ」


ユウキ達を囲うように現れたのは約千体もの魔物達の大群だった。その中にはA級クラスの魔物もB級クラスの魔物も何匹も混じっている。


「まさか………クソ魔族二匹は始めから魔符とデカイベヒモスを利用して街でも襲わせようとでもしとったんか!?」


「!!」


なるほど、仲間を呼べるベヒモスなら他の魔物を従えて街を襲わせる事も可能だろう。

だとしたら、少しでもナチュカに到着が遅れたら本当に大変な事になっていたな。

魔族ってやつはホントろくなことしないな。


アイリちゃんを見ると、魔法の杖を持つ手が小刻みに震えている。


当然だよな。こんなデカイ怪物と魔物の群れを相手にしたら誰だってそうなるよな。


だけど恐怖は一瞬の判断を鈍らせ、動きを遅くさせる事を俺は前世で学んでる。死の感覚を身をもって体験している。


だからこんな時に、俺が出来る事はこのくらいしか出来ないだろ。


「あれ……? アイリちゃんの杖を持つ手が震えているけど、もしかして怖いのかな?」


「なっ……何よ……これは」


こういったプライドが高いような子は、挑発が一番の原動力になる。

冷たい切り返しも、強がりも出来ないほど身体も頭も強張ってしまってるなら、それを取り除いてやらなくては入団テストは何も出来ずに終わってしまう。


そんなことは本人が一番望んでいないだろう。


「それとも緊張してるなら俺が戦い方を手取り足取り教えてあげるよ」


そう言って俺はアイリちゃんの後ろから優しくハグをした。


「こ……このっ!! わ、私に気安く触るなぁ! 変態っ!!」


ドコォォッ!!


「おっほぉぉっ!!」


強烈な肘の一撃が俺のみぞおちにまたも入る。このツッコミのキレは本来の動きだ。


「いつつ……。 ほら。 いつもの元気が戻ってきた」


「…………あっ 」


不安と恐怖と緊張が抜けたのか、いつもアイリちゃんの顔に戻っている。

そう。でもそれがアイリちゃんだろ。プライドが高くて負けん気も強い、ワガママでキラ様と同じように沸点が低いのがさ。


だから、本来のアイリちゃんの強さを俺達に見せてくれよ。


「大丈夫。 安心しな。 俺たちがいる」


「!!」


「あんた……私の緊張を解くためにわざと……」


アイリはユウキが他の今までのパーティーにはない、何か特別なものがあると感じ始めていた。


「こんな絶望した中で、何であんたはふざけていられるのよ?」


「ははっ。 それが俺の道化師の仕事だからさ。

泣いている可愛い子がいたら笑わせてあげる。

困ってる可愛い子がいたら助けて笑顔にさせてあげる。

俺は可愛い子達全員を笑顔にさせたいんだよ! 」


「ふっ………ふふ。 あははっ。 イカれてるわ!」


「ははは。 だろうね」


緊張も溶け肩の力が抜けるアイリがそこにはいた。

戦いの中で本当に相手に背中を預けて戦うのもこれが初めての経験だった。


(しゃく)だけど、ユウキに周りは任せるわよ」


ユウキか………あんたからホンの少し各が上がったな。


「オーケー、ドンと任せてくれ」


そう言ってアイリは集中して詠唱を始める。周りの様子なんて一切関係のないように。全力で今できる最大の魔法を唱えた。


どうやら特大の魔法を出すみたいだな。俺が周りを蹴散らさないとアイリちゃんに攻撃がいきそうだ。魔法使いは狙われやすいからな。


そして魔物の大群は俺達に向かって一斉に動き出した。


「ここからが正念場だ皆! シャルルちゃんはベヒモスと近づいて来た魔物を! ニーアちゃんとタイガは残りの魔物も殲滅を!!」


「「「 了解 」」」


激しい戦闘が始まった。その中でやはりニーアちゃんとシャルルちゃんの存在はでかい。

二人ともあれだけの数をもろともしない強さがある。


勇者なんじゃないかって思えてくる程強いな。


「キラ様は……」


気まずそうにするが、キラ様は神の使いだ。罪人と魔族以外の罪のない操られた魔物には裁きは下せない。


「ワチは……応援しとるぞぃ」


「はは……ありがと……っと!!」


魔物の攻撃を交わし、俺達に向かって来てる魔物にも集中しないとな。

アイリちゃんにケガでもさせたら後が恐い。


俺はありったけのカードを出し構える。今回は生きるか死ぬかまできてしまってるからな。残念だけど確実に仕留めて、相手の勢いを止めないといけない。


向かってきた魔物達に鋭く全方位に向けユウキはカードを投げつけた。

聖気を宿したカードは意図も簡単に魔物を切断していく。


「「「 グォォ……ォォ……!!! 」」」


「大人しく森に帰ってくれると助かるんだけどなっ!!」


ユウキが激しく魔物の群れと混戦していくなか、そしてシャルルもベヒモスと魔物達を相手に無双を続けていた。


「コイツ、しぶといわね! 相性悪いし中々倒れない……体力はホントに象並みね!!」


「パォォ……ォォォ…ン!!」


振り回す鼻はシャルルには当たらなかったが、違うことが起きようとしていた。


それはベヒモスがシャルルとの戦闘中、側にいた一匹の魔物を掴まえた時だった。


ムシャ……ムシャ……ムシャ……


「うそ! コイツ仲間を食べて回復してるっ!!」


暴飲暴食の怪物ベヒモスは仲間を食べて己を回復させれる(すべ)を持っていたのだ。

読んで頂きありがとうございます!


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