46話 現実と理想
なんか俺のイメージと随分違うな。
凄い明るくてキャッキャ言う女子高生みたいなイメージをもっていたんだが、まぁ俺の勝手な思い込みもあったしな。それは修正していけばいい。
口が悪いのはキラ様と同じだし、慣れたもんだ。
俺はそうポジティブに捉え、アイリちゃんの状態を確認して二人で食事に戻った。
気を効かせてニーアちゃんは馬車に最低限積んだ荷物から、野菜と果物を取ってきて簡単に料理した。
うん。マジで出来る嫁すぎるだろ。
戻って来たアイリにキラ様が珍しく心配そうに声をかける。
「大丈夫かオヌシ? 顔色悪いぞぃ」
「ええ。 ちょっとコカトリスはトラウマになって……」
「なら簡単に料理したものですが、これで我慢して貰っていいですか?」
そう言って即席で作った簡易料理をアイリに渡す。
「ほんとごめんなさい。 色々してもらって……」
「大丈夫ですよ。 気にしないで下さい」
そう言ってニーアは優しい言葉をアイリちゃんにかける。
「ちょっと聞いてもいいかしら?」
アイリちゃんが箸を止め皆に聞く。疑問が浮かんだからだ。
「私もギルドに所属してるから周りのハンターのことはよく気にしてたりするけど、ここら辺で有名なハンターは、ロザリア王国のA級ハンターのシャルルさんとエイトくらいでしょ。 ユウキとニーアさんの名前なんてマール大陸では私聞いたことないけど」
俺の名前は呼び捨てかよ。まぁ、いいけど。
でも情報収集していたアイリちゃんも中々侮れんな。まぁ、本当の事は言えないから適当に自然な感じで誤魔化すか。
「俺は元々違う所からキラ様と二人で旅をしてたんだ。 んで、この大陸に来てからニーアちゃんを見つけてスカウトしたんだ」
「ふーん……。 そうだったんだ」
なんか考えてるみたいだが上手くやり過ごせそうだな。
「ニーアちゃんをサーカス団にスカウトしたんだけど、こんなに強かったのは実は俺も知らなかったんだよ。
それからシャルルちゃんも仲間にして、サーカス団をしながら影でハンターもしてといった感じかな」
「たまたま才能が埋もれとったヤツをワチ達が発見したんじゃ。 運もあったが、世の中にはそんなヤツがまだおるはずじゃ」
「まっ、そうでしょうね。 私みたいに凄腕の魔法使いでもまだ世の中に知られていないみたいだしね」
「何を言っとる。 コカトリスごときにパーティ全滅させられて死にかけとったヤツが」
「うぅっ。 あっ、あれは前衛がすぐやられたらから私の魔法が発動出来なかっただけよっ! 本当だったら私の魔法で木端微塵になるはずだったんだから」
「ふーん。 自分の未熟さを仲間のせいにするとは、オヌシの程度が知れるな」
「なんですって!! いくら神の使い魔様だからって………」
「まーまーまー!!! 二人とも落ち着いて!!」
「ふんっ!」
「当然の事を言っただけじゃ。 ワチは何も悪くない」
はぁ~っ。ダメだ。気が短い者同士を喋らせるとすぐに喧嘩になるな。
話題を変えないとめんどくさいぞ。
「とっ、ところでさ! アイリちゃんは何でハンターをやってるの?」
キラ様とは反対の方向に顔を背けながらアイリちゃんは返事をするが。
「チッ……」
おい。チッってなんだよ。俺は何もしていないだろ。明らかに態度が悪いな。
「愚問な質問ね……。 私はこの世界で名を馳せる為に魔法使いをやってるの」
「大層な夢物語みたいな話じゃな
「ちょっと、キラ様は黙っててくれるかな!?」
「ぐぬぅ……」
勘に触ったかもしなれないが今は黙ってて貰わないと話が進まない。
「誰でもそうじゃない? この世界ではハンターで生計を立ててるのが大半なんだから。 その中で私は、このアウラ・アイリの名前を世界中に轟かせたいのよ」
確かにアイリちゃんの言ってる事は分かる。
前世では社会の荒波に埋もれてた俺でも、出世して、役職を貰って、功績を残したいと思うことはごくごく自然なことだった。
この世界でもハンターのランクがそのまま強さと知名度、功績に繋がるからな。
強くなって誰かに認められ、功績を称えられ、収入を多くもらいたいと思うことは自然な事かもしれない。
俺も最近AAA級になってから分かったけど、周りのハンターの目が明らかに違う。
バカにされて、蔑まれてた頃とは態度も対応も、天と地程違う。
この世界ではそれくらいハンターランクは意味を持っている。
「だから………私は強くなりたいの」
その眼差しには強い決意みないなものが感じられた。
強くなりたいか。でも強さを求めれば死ぬっていう最大のリスクもある。そこまでの信念が必要なのだろうか?
「アイリちゃんはB級ランクだよね? ここら辺では充分強いじゃん。 それじゃダメなの?」
「ダメよ。 私はいずれ、あんた達よりも強くなりたいの」
「そうか………。 なら頑張らないとね」
大丈夫か?ナチュカの医務室で倒れてた金色の翼のガイア、ダリアン、コドゥは意気消沈していたぞ。
特に戦士と思われるガイア、あの顔はB級のランクに限界を感じていた。
アイリちゃんのハンターランク昇格の為にはA級クラスの魔物、つまりコカトリスと同等の相手を討伐しなければいけない事になる。
現実的に今のあの金色の翼じゃ無理だろう。
そう……今のパーティーを捨ててでも違うパーティーに変えない限り。
そう思っている時だった。
「ん……?」
森の中から何やら小さい光が現れる。
見たことあるな。確か混沌の森と同じ……
「あれは…………微精霊?」
ユウキの方に向かって飛んできた一匹の微精霊は、やがてユウキの出した手のひらの上にとまる。
「えっ何?! こんな微精霊を見るの私初めてなんだけど!?」
「どうやら俺は微精霊になつかれてるみたいなんだ」
「ユウキ様は選ばれし者ですからね」
「そうね。でも私も初めてみた。綺麗ね」
ニーアちゃんとシャルルちゃんが話す中、微精霊が俺に話しかけてきた。その内容は緊急を要する内容だった。
………森ガ………危ナイ………助ケ……テ…………
「何だって!?」
皆の顔付きが一気に変わる。
微精霊が姿を現してまで伝えたかった事が森の危機だったからだ。
「皆、どうする?! すぐに行きたいけど……」
俺はチラリとアイリちゃんの方を見る。戦闘の疲労もショックもある。一端戻ってアイリちゃんを置いてから向かうという選択肢もあるが、そうするとそこそこ時間もかかる。
するとキラ様が言いにくい事をサラッと言ってくれる。
「アイリは置いてから向かった方がいい。 足手まといはチームを全滅させる危険があるからの」
確かにそうだ。キラ様の言うことは分かる。
「シャルルちゃんとニーアちゃんは?」
「ユウキ様の考えにお任せします」
「私もユウキに任せるかな」
俺はアイリちゃんの顔を確認する。まだ万全じゃないと思っていたからだ。
「悪いけどアイリちゃん。 今回は……」
俺がアイリちゃんに、街に戻ろうと伝えようとした時だった。
「私も行くわ……」
「えっ!」
「私を仲間にしてちょうだい! 私は……たとえあなた達を利用してでも強くなりたいの!」
「でも……」
「お願い……します」
そう言ってアイリちゃんが俺に頭を下げる。この口の悪い子が頭を下げるなんてよっぽどの事だろう。
この選択は迷うな。彼女がどれ程強いか誰も知らないからな。
今のパーティーでも充分強い。逆に弱すぎるとパーティーのバランスを崩すことになりかねない。
「分かった。 こうしよう」
俺はアイリちゃんの意思も尊重したい。志は嫌いじゃないからだ。
前世であった口先だけでやりもしない。 先輩というだけで無能な権力を振りかざす奴らとはアイリちゃんは違うと信じたくなったからだ。
「テストさせて貰う。そして俺が合格と判断したらキラキラサーカス団の仮の一員になってもいいよ。
アイリちゃんの夢の為に俺達を利用して貰っても構わない。
皆、今回は黄金の手は彼女には使わない。 だからアイリちゃんの事をちゃんと見てみたいんだ。 俺の勝手だけどいいかな?」
「何よ? 黄金の手って??」
黄金の手の事は今は伏せて置こう。後の事を考えて。
「ふん。 どうせいつものようになるんじゃ、好きにせぇ」
「異論はありません」
「大丈夫よ。 アイリちゃん頑張って」
「ええ。 頑張るわ。 自分の為にね……」
そうして俺達は食事を早急に済ませ、微精霊が伝えた森が危険という場所に急いで馬車を走らせたのだ。
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