37話 三人の英雄
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「おお! ユウキ殿! 目を覚ましましたかっ!」
ローソンはまだユウキが起きていたと思っていなかったらしく慌てて姿勢を正す。
「まだ今起きたとこじゃ。 あまり急かすのじゃないぞ」
キラ様はそう言ってローソンに言葉をかける。
なんだよ。そうゆう配慮もちゃんと出来るじゃないかと俺は心の隅で少し思ってしまう。
「お身体は大丈夫ですかユウキ殿? 三日間寝続けてしまってこのまま目が覚めないのかと思ってしまった程ですよ」
そう言ってローソンは心配そうに話す。
「あ、はい。 力を使いすぎるとこうなってしまうみたいで。 前もこんな風になった時がありまして」
以前にもケルベロスの戦いで魔力を枯渇させたことがある。全身の力が抜けて立っていられなくなり、その後同じように気を失った事を思い出す。
「そうだったのですね。 魔力の枯渇は命を危険にさらしてしまうので、これからは気を付けた方がよろしいかと」
「はい、ごもっともな言葉で。 これからは気を付けて戦います」
「あの時は半日程じゃた。 今回はそれよりもずいぶん永く寝ておった。 使う魔力量が大きくなると、そのぶん反動もでかくなるということかの」
「うん。 ずいぶん寝てたおかけで魔力も戻ってる。 これで……って、あれ?」
自分の身体の異変に気付く。
以前にも比べて魔力量がまた増している。レベルアップは大してしてないはずなのになぜだ。
考えていくとニーアちゃんと愛を深めた時にも次の日同じ事を感じたのを思い出す。
浮かれていたこともあったけど魔力量は確かに上がっていた。
だから今回の戦いで魔力消費の多い神の手を三回も使えたのだ。本来なら使えても2回が限界だったはず。
そして今回、起きたら魔力が元の状態より明らかに上がっていた。
これはレベルアップというよりもシャルルちゃんと愛を深めたからなのか?
ここから想定できる事は、俺が黄金の手を使いお互いに愛を確かめ合った相手が増えることになれば、同時に俺の魔力も増えていくということになる。
この恩恵も遊び人の力なんだろう。メリットは大きいが、リスクも伴うことにもなる。
元の世界ならバレたら確実に修羅場になってしまう状況だが、この世界ではどうなんだ?
魔法が全く使えない俺にとってスキル黄金の手は闘うのに不可欠だから魔力量が上がるのは大変有難い事だが、へたしたら破滅の道を選びかねない。
よくよく考えるとあんな状況だったとはいえ、流れで力を託してしまったが、前世でいうと浮気やに二股にあたらないか?
これって非常にまずい状況ではないのか?こっちの世界では許されるのか?そう思うと冷汗がどっと出てきた。
「ユウキどうしたんじゃ? さっきから固まって顔色が悪いぞぃ」
「いや、何でもないんだ?! ちょっと考え事を……」
考えていたことを見透かされたように目を細めてキラ様は答える。
「どーせ、しょーもないことじゃろ」
「…………」
キラ様にとってはしょーもない事かもしれないが俺にとってはこれから一大事になりかねない案件だぞ。そう思うと少し二人に会うのが怖くなってきたな。
そんな事を考えているとローソンが近付いて来て、膝をつき深々と頭を下げ御礼を言う。
「ユウキ殿。 戦場で死ぬ間際だった私を助けて頂き、ありがとうございました。 私が生きて帰れたのは紛れもなくユウキ殿のお陰です」
かしこまるローソンにユウキは顔を上げて下さいと慌てて手を差しのべる。
「いやいや、したいからしただけなので、そんな気にしないで下さい」
騎士団の隊長を務めるような偉い人が、ただの旅芸人に頭を下げるなんて普通はしないはずだろうに。
「本当に心の深い緒方だ。 娘のシャルルの言う通り、あれほどの強さを持ちながら偉振ることもなく、誰にでも分け隔てなく優しく振る舞える。 本当に勇者様や賢者様のような緒方だ」
「いや、そんなに俺は偉そうな存在ではないですよ」
「失礼ながらユウキ殿が寝ている間に、キラ様から大方の話を聞きました。 遊び人の天職を授かり、そして世界を救うために世界を回っておられるのだと」
「え? まぁでも旅を最近始めたばかりで特にまだ何かを成し遂げた訳でもなくてですね……」
「いや、何を仰いますか! ユウキ殿はキラ様、ニーア殿と同等に、この国を救った英雄ですぞ!!」
「えっ! どう言う事ですか?! 俺は今回の戦いで大して活躍してないですよ」
「いやいや、それもキラ様とシャルルに聞きました。 私にもして頂いた神の手を使い、ニーア殿とシャルルを魔力ブーストさせ、ライオネスを討伐し勝利に導いたと。 あの奇跡のような神の手が無ければ国は滅んでいたでしょう。 この件で国王陛下も御二人には功績を称える為に授与式を行うと言っております」
「彼女達の力があったからこそライオネス討伐が出来たんですよ。それに旅芸人に授与式なんて大袈裟な……」
「そうでしょうか? あの力はシャルルも言っておりましたが桁違いに身体能力が上がると言っておりました。 肉体強化魔法のように肉体への負荷ダメージがまったくなく、高純度で全ての能力が上がると。 普通はそんな風にはなりません。 本来魔法で身体強化をした身体は両刃之剣と同じなはずなのです。 その矛盾こそ正に神の力、勇者や賢者様と同じかと。 なので授与式は当然の話かと」
確かに魔力ブーストで身体的リスクもなくS級のライオネスと互角に戦える程の能力を使える俺の神の手は反則かもしれないが、彼女達が元々強いのも事実。
前みたいに遊び人という職業だけで、バカにされたりギルドの連中から爪弾きに会うのはもうごめんだ。
今後旅をする上で功績が何かの役に立つのならニーアちゃんの功績も貰いつつ気は引けるが俺の功績も上がるならそれはそれで良しとするか。
「俺はサポートしただけになってしまいましたが、お役に立てたのならよかったです」
そう言い、功績を受け入れる事にした。そしてこの三日間の出来事をローソンとキラ様から聞いた。
俺が寝ていた場所はどうやらロザリア城の中の医務室と言うこと。
ライオネスは討伐され、功績を与えられる事になったのだが、ニーアちゃんとシャルル、そして俺までも英雄扱いにされていると言うこと。ちなみにキラ様は世界を正す為の神の使いなので何の功績もこの世界ではないらしい。
俺が起きるのを待ってくれていたみたいでハンス国王から正式な授与があるとの事で、ライオネス討伐記念式典が開かれるとの事
そんなこんなでローソンは陛下に俺が目覚めたと報告しに足早に部屋を出ていった。
服に着替えた俺は、綺麗な係員の指示に従い暫くの間、待合室と思われる部屋に案内されキラ様と一緒に軽食をして時間を潰していた。するとそこに二人の女性が現れた。
「ユウキ様!!」
「ユウキっ!!」
シャルルちゃんとニーアちゃんだった。
俺の少し後ろめたい気持ちもあり、俺の心臓がドクンと跳ね上がる。
「や、やぁ。 二人とも身体は大丈夫なの?」
俺が二人の心配をよそに二人は飛び付いてくる。
「!!!」
「心配したんですよ! ユウキ様!」
「ユウキっ!! 大丈夫なの? 心配したんだからね!!」
まだ二人の関係はお互い気付いてないのだろうか?特に変わった様子は見られない。こんな時、どんな話を切り出していけばいいのだろう。検討もつかな過ぎて頭が全然回らない。
「あ、ああ。 もう大丈夫だよ」
少し顔色の悪そうな俺にキラ様が言葉を投げかけてくる。
「ユウキ。ライオネス討伐の時にシャルルにも神の手を使っただろう?」
「え……!? そうだけど」
待合室の空気が変わったのが分かった。まさかの台詞だった。
まるで俺の心を見透かしたかのように聞いてくる。そう言えば以前言っていた事を思い出す。
『ワチはお前とリンクしておる。 何処に行こうが逃げれはせん。良からぬ事を考えていようなら裁きが下ると思うのじゃな』ってキラ様に言われたな。
と言うことはさっき冷汗をかいてた時に考えがバレてたことになるのか。
どこかのタイミングでとは考えていたが、いきなりとんでもない話をぶっこんで来るとは予想外すぎて、心の準備が全くできてないぞ。
どっと汗が吹き出てきた時にキラ様が話始める。
「今回コヤツの能力のおかげでライオネスを倒す事が出来た。 これからの旅でも必ずあのスキルが必要になる。 だが、二人の気持ちもわかる。そこでじゃ……」
シャルルちゃんとニーアちゃん二人に強く抱き締められた俺を見ながらキラ様はいい放つ。
「二人ともコヤツと結婚することじゃ」
「 ………… 」
「「「 えええっ!!! 」」」




