31話 救世主
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「父上に触れるなぁぁぁぁっ!!!」
シャルルとタイガは全力でライオネスの元に駆けるが狂戦士達が行くてを阻むように進路に入ってくる。
それを蹴散らすかのようにシャルルは最大の武器で応戦するー
ーーーーー 豹双百乱舞!!! ーーーーーーー
「うぉっ!!」
先頭にいたハイエナ兄弟が連撃を何発かまともに受けてたじろぐが、致命傷にならなかった太刀筋に、シャルルの弱点にすぐ気付く。
「はぁっ!! 野郎共、コイツはスピードだけだ! 集団で取り押さえろっ!!」
ハイエナ兄弟の肉体を犠牲にして数人係りでシャルルを取り押さえにかかる。
スピードでは勝るシャルルでも囲まれた同級クラスの男達の力の前では部が悪かった。
全身の五感を最大限にし、360度に連撃をを繰り出し続ける!
「くっ!! どけぇぇ!!」
戦いながらシャルルも痛感する。
これほどまでにA級ランクの相手が集まると戦闘が苦しくなるのかと。
一人、二人でも苦戦を強いられるのに、それが10人なんて想像を遥かに越える息も出来ないほどの攻防だった。
しかし、狂戦士達は止まらない!傷みになんてものに恐怖を感じていなかったからだ。
「バカみたいに突進するだけじゃ俺達はすり抜けれねーんだよ!!」
その横で三人からの同時に放たれた攻撃を、寸前のところでタイガは横に反れ狂戦士達の攻撃を交わす。
タイガは生捕りで指令が出ていない為、殺すつもりで攻撃が降り注いでいた。
「ガルルルルゥ!!!」
「こっちの獣の方が、よっぽど賢いな!!」
一人の狂戦士が言う。タイガは冷静に状況を見ていた。
一瞬の隙をつくために。
そして背後で隙を見せた一人の狂戦士にタイガ振り向き様に噛みつく。
「ぐぁぁぁっ!! コイツ!!!」
動きの止まったタイガに数人係りで狂戦士達が飛び掛かる。
「そのまま噛まれたまま捕まえておけ!! 道連れて殺してやるぜえ!!!」
そのチャンスをタイガは狙っていた。
間合いを詰めて集団でタイガの元に集まってきた狂戦士に数少ないタイガの広範囲魔力攻撃『煉獄』を放つ。予想していなかった攻撃を狂戦士達はまともに浴びたのだ。
「「「 ぐぁぁぁぁぁっ!! くそったれぇぇ!! 」」」
致命傷にはならないと分かっていた。目眩ましでもいい。一瞬でも道が開けば、それだけでよかったのだ。
タイガは一人のしがみついた狂戦士を抱えたまま、集団で焼かれた狂戦士達の頭上を飛び越しライオネスの元に駆ける。
後寸前のところまで来ていた。たかが15mという距離がこれほど長いと感じたことはなかった。
しかし、噛まれながら、しがみ着いていた狂戦士の攻撃が短剣だが背中に深く入る。
「俺を担いだままボスの前まで行かせる訳ねぇだろぉぉっ!」
「グァァァッ!!」
激痛だった。
普段なら即座に戦闘を止め、逃げるためにはどうしたらいいかを考えてもいい傷の個所だった。
でも今更タイガには関係なかった。
これからも死ぬのに、致命傷だろうがなんだろうが、身体が動く限り、命が燃え尽きるまでシャルルと戦うと決めたからだ。
「こ、コイツ!!!」
ローソンの側まで来ていたライオネスの元にタイガが寸前で駆けつける。
『ほぉ。あの集団を抜けてくるか。流石に純粋な獣だけはあるな』
タイガの死を覚悟して突破してきた事に称賛を放つライオネス。
そしてタイガはそのままの勢いでライオネスの足元に煉獄を放った。
「ガァァッッ!!!」
煉獄の炎と共に煙幕が上がる。
「ぬぅぉっ!!」
一瞬、煙と炎に撒かれライオネスは眼を閉じる。
左の片目を潰したライオネスの距離感を狂わすには直接当てるより視界を奪った方が効果があるとタイガは咄嗟に思ったからだった。
続け様に最大級の咆哮をあげる。聴覚の感覚を奪う為だった。
「「 グァッ!! 」」
周りにいた狂戦士達、しがみ着いていた狂戦士も聴覚を一瞬奪われる。
血生臭い戦争の中で、タイガのキズ位では獣人のライオネスの嗅覚では察知出来ない。
嗅覚。視覚。聴覚を鈍らせた中で煙幕の中から最後の攻撃をライオネスに放った。
ーーーーーー 獣牙!!!! ーーーーーー
ハンターとして気配を殺し、一撃を決めるための最善を尽くした最大級のタイガの技だった。
狙いは首でもなく、足でも、手でもなく。
残された右目だった。
煙幕を抜け、視界に現れたライオネスはタイガに気付いていない。
そしてその攻撃は確実に当たる距離だった!タイガの攻撃が当たると思われた瞬間だった。
「………そうくるよなぁ」
その時だった。
気付いていなかったはずのライオネスの眼がタイガの方にギョロリと向く。
それは、予想されていたからだった。
ライオネスは唯一の弱点と思われた所に獣なら向かってくるであろうと。
『連係攻撃なら一太刀くらいは浴びせられたかもなぁ!!』
獣の強さは肉体の強さにあり、技や、スキルに長けていない。だから攻撃のパターンがある程度限られる。
ライオネスはタイガのような獣相手に死ぬほど戦闘を繰り返して戦ってきた経験から予測され、逆に誘い込まれたのだった。
「死ね!」
炎を纏わせた『不知火』がタイガを襲う!
ズバァァァァァァァァァァァァァォンン!!
「タイガァァァァ!!!!」
シャルルが戦い最中、ライオネスの不知火がタイガに当たる様子を見て動きが止まってしまう。
それを狂戦士達は見逃さない。
肩を捕まれ、脚を引っ張られ、一気に地面に叩き込まれ、シャルルはその場に這いつくばるような状態で押え込まれる。
「あ……ぁ…………」
血まみれになりライオネスの横に転がったタイガを見てシャルルは涙を流す。
「そんな………。 嘘だ……」
「はぁぁぁっはっは!! 残念だったなぁ! 後、もう少しだった!」
そう言ってローソンの前に立つライオネス。
「グルルル………」
「……あ?」
獣の鳴き声にライオネスは振り返る。そこには顔を起こしたタイガがいた。
「フゥッ…………フゥッ……」
「なんだぁお前。 生きてたのか? 流石に獣はしぶといな」
タイガは寸前のところで身体を翻し、しがみ着いていた狂戦士を盾にしたのだった。
まともに食らえば内臓もろともえぐり取られ真っ二つになってもおかしくない攻撃だった。
だが狂戦士を犠牲にしたことで即死だけは間逃れた。それでも致命傷だった。
立てない程の傷を受け、後は狂戦士達に殺されるのをタイガは待つばかりの状態になっていた。
「まぁいい。 お前もそこでゆっくり見てろよ。 今からコイツを公開処刑するからな。 楽しんだ後はお前だ。 剥いだ毛皮は俺の腰巻きにでも使ってやるよ」
そう言ってローソンを片手で首を掴み優々と持ち上げる。
「やめてぇぇ!! お願いだから!! なんでも言うことを聞くから!! 父上を殺さないでぇぇっ!!」
シャルルの必死な絶叫に近い声が響く。
ライオネスはシャルルの言葉に振り向き返事を反す。
「はぁ? どのみちコイツはもう死ぬんだ。 何をお前はそんなに必死なんだ?」
「お願い……最後は静かに死なせてあげたいの」
涙を流しながら頼み込むシャルルに心を動かされたのか、ライオネスはローソンに向けた鋭い爪を止める。
「くく。 そうか。 俺もそこまで鬼じゃねぇ。 お前みたいな上玉に言われちゃ聞いてやらんでもない。 ……ただし条件がある」
片手に持った死にかけのローソンを見ながらニヤッと笑った後、シャルルに条件を突きつけようとしてくるライオネス。
「なら今からお前にしてもらいたい事がある……出来ないとは言うなよ」
初めにライオネスがシャルルに言葉を交わした時のように股間からは見えてはいけない物が顔を出してくる。
「………私なら好きに使っても構わない。 だから……」
ライオネスの顔と股間を見て慰み者にされ、弄ばれ、晒し者にされた後に殺される事になるとそう思った。
今、この場で死ぬ事の方が、どれほど楽だろうと考えたが父上の事を思うとシャルルには従う他選択肢はなかった。
「ああ。 そうだ。 お前の手で、その瀕死の獣を殺せ……」
「えっ……?」
「お前と一緒にいた獣。 ソイツを殺すんだよ」
瀕死になっているタイガの方を指を指して言い放つ。
「はぁぁぁっはっは!! 親がダメなら相棒を殺すしかないだろぉぉぉっ!!」
周りの狂戦士達もそれを聞いて賛同する。
「おぉ!! そっちも面白そうだなぁ!! コイツは傑作だぁ!!」
シャルルはその台詞を聞いて頭に血が上っていく。
手がぶるぶると震え、肩も震え、握った拳には、爪が平に食い込んで血が流れた。
どこまでも残虐非道で人の心を何とも思っていない。
殺す事に快楽を求め楽しむ殺戮者ライオネスに。悔しくて涙が止めどなく溢れてくる。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
シャルルの顔を見て笑うライオネス。
人の心を弄び、奔走する事や殺戮に快楽を求める者にとってシャルルの増悪や憎しみ、悲しみはライオネスにとって最高のご馳走だった。
もはや、魔族と変わらない程に邪悪にライオネスは染まっていたのだった。
「お前達弱者に、始めから選択肢何てないんだよ!! 弱者が強者に何を指図していやがる! 間違えるなよ。 この世界は強者が全てなんだよ!!」
全てを自分の物にしてきたライオネスは、自分に圧倒的な自信があった。
目の前に立ち塞がる者や、国は全て蹂躙し、狙った獲物は絶対に自分の物にしてきた。
自分が行動したことに裏切られた事が一度もなかったライオネスは、それがこの世界で選ばれた存在と勘違いさせる程、傲慢ささえ許された存在になってしまっていた。
今回もロザリア王国を滅ぼし、自分の思うがままに悪態を働き、欲を満たすために色々な物を撒き散らし、遊ぶ予定だった。しかし、一つだけ違う事が起きていた。
ドォォォォォォ……ォォ……ン!!!
後方から爆発音が響き渡った。
それは狂戦士からのものではないとライオネスも直ぐ気付く。
今迄とは明らかに違う戦いの音だった。
「はぁぁぁっはっは!! ………は?」
笑っていたライオネスの笑みが消える。
近付いてくる気配に今まで感じたことのない何かを感じ取っていたからだった。
「なんだ? 何が起きている? 魔法か?」
戦争が繰り広げられている中を何者かが一直線でライオネスの方に目掛けて進んでくる異様さに、ライオネスは生まれて初めて警戒を強めた。
今度はかなり近くで爆発が起きた。
それは何者かが斬撃を放ったことで起きた爆発だとライオネスもようやく気付く。
「!!!」
A級の狂戦士でもここまでの斬撃を放てる者はいない。
今までの滅ぼしてきた王国のようにはいかなかった。
ー なぜなら ー
ライオネスの元にキラキラサーカス団が到着したからだった。
「どうやらギリギリ間に合ったみたいじゃな」
「そうでしょうか? 状況はかなり悪いように見えますが……」
ニーアとキラ様のやり取りを横に、ユウキがライオネスの方にゆっくりと歩いて立つ。
「お前がライオネスか?」
「なんだぁ貴様?」
マジックマントをはおい、右手にはステッキを、左手にはジャグリングボールを持った戦士でも魔法使いでもない異様な格好をした道化師の男にライオネスは問う。
そのユウキの姿にシャルルは信じられなかった。
まさかユウキが戦場に現れるなんて。
もうキラキラサーカス団は、別の国へと移動してしまっていたと思っていたからだ。
この絶望とも言える状況の中、ユウキ達がここに来たところで、むざむざと好きな人が殺されるのをこれ以上見るのは、シャルルはもう耐えれなかった。
「お、お願い……ユウキ。 逃げて」
泣いたように発したシャルルを見て、ユウキは優しく声をかけた。
「大丈夫。 俺達はシャルルちゃんを助けに来たんだ 」
私を助けに? この絶望ともいえる状況で、ユウキ達はそのメンバーだけで戦局を覆せるとでもいうの? 道化師のユウキにはそんなことはムリだ。 そんなの分かりきった答えだった。
「助けるって……もう助からないよ」
シャルルの絶望した顔に対し、ユウキの顔は優しく、穏やかで、とても戦場の中にいる人間とは思えない姿だった。
「助けるよ。 だから来たんだ」
何の根拠もないユウキの一言。そんな言葉は誰の心にも届かないはずだった。この世界のたった一人を除いては。
「シャルルちゃん……………。 よく頑張ったね」
「っ…………!!!」
もうどこにもすがることが出来なかった。
そのユウキの一言は、シャルルが心の奥底に閉じ込めたはずの1番聞きたかった台詞だった。
堪えきれずに溢れ出た大粒の涙は、とめどなく溢れ、淀んでしまった自分の弱さを全てユウキに吐き出した。
「頑張ったよ……。 私も頑張ったよ。 でも、何も守れなかった!
父上も! タイガも! このままじゃ大切な人を全て失ってしまう!! 私の力じゃ……何も救えなかった!!!」
予知でこうなる世界を私は知ってしまった。
父上も、お母さんも、タイガも、そして私も全員死ぬ。そんな未来を私は変えたかった。
大好きなロザリア王国を守るために、残酷な未来を自分の手で変える為に私は最後まで頑張った。
だけど、何一つ変えることが出来なかった。
声をあげても誰一人と聞いてくれなかった。
最後の望みの選ばれし者も、街中探し回って聞いて回ってもなんの情報も手がかりさえ見つからなかった。
どれだけ頑張って、どれだけ努力しても無力な私には何も出来なかった。
そんな悲痛な顔をしたシャルルに、ユウキは真剣な眼差しで答えた。
「まだ救える……」
「っ!!」
信じられなかった。でも……もし、この中に選ばれし者がいたとしたら…………
「あぁ?」
その言葉にライオネスは反応する。
コイツの目はハッタリじゃないと言っていたからだ。
それに全身から出る今まで感じたことのないオーラが、S級のライオネスだけには感じ取れていたからだ。
「非力なてめぇらに何が出来るって言うんだ?」
ライオネスが他種族をバカにした発言をユウキは聞いて、右手に握りしめたステッキに力を込める。
その拳には光が宿り、ジャグリングボールとステッキも同様に神々しい光を帯びていく。
「な……なんだ、その光はぁ?」
初めて見る聖気にライオネスは気付く事が出来ない。
これが勇者や賢者が持つ同じ気だと。
そしてシャルルも初めて見るユウキの気に気付いていなかった。これが探していた選ばれし者だと。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
飛び出したユウキに肩からキラ様が補助で電撃を放つ。
「キラ様っ!!」
「おぉ、わかっとる! 天誅じゃぁぁ!!!」
ギリギリでキラ様の電撃を交わすライオネスにユウキはジャグリングボールを投げる。
「そんなの当たる訳ねぇだろうが!!」
片手でジャグリングボールを弾いた瞬間だった。痛みよりも力が抜ける感覚に襲われる。
「なぁぁっ、ガァ!!!」
その一瞬!!
バゴォォォォォォォ……ォォン……ンンン!!!!
ライオネスの頬に振り抜かれた聖気を宿したステッキがまともにヒットする。
「グハァァァァツ!!!!」
後ろに吹き飛ばされて回転した後に再び膝をつき体勢を立て直すライオネス。
「グァァッ!!! グッ……なんだぁ、その力はぁぁ!!!!」
力を吸い取られるような感覚と、人生二度目の激痛を味合わされライオネスは激昂する。
油断はしていなかったにも関わらず攻撃を受けたからだ。
絶望的な状況の中、シャルルは信じられない光景を見た。
父上以外、誰一人とライオネスの前に立ちはだかる者はいなかった。
正確には立ち向かう勇気のある者がいなかった。
立ち合わなくても分かるほどに、それほどライオネスな強さは圧倒的な強さだった。
魔法部隊が大魔法を当てても顔色一つ変えずに戦場を歩いていたライオネス相手にユウキは一撃で膝を着かせたのだ。
光がユウキの元に集り全身を包んでいく。
その光は見たこともない勇者様と思うほど神々しい程の光を放っていた。
キラ様はその姿を見て改めて驚く。
勇者でもここまでの光を放つ事はないからだ。
「また世界がユウキに力を貸していく……。 これが世界に愛されたユウキの力なのか……」
人間も動物も、全てを救いたいと願う純粋に優しいユウキの気持ちに、世界ががユウキに勇者以上に力を宿させたのだった。
膝をついたライオネスを横目に、泣いたシャルルちゃんの方に身体を向け、ユウキは答える。
「まだ救えるよシャルルちゃん」
その言葉は嘘でも強がりでもなく、本当に強き者だけが持つ、まるで果てしなく平がる清み渡った空のような懐の深さだった。
「うん……」
絶望的な現実に、突如現れたハンターでもない、ただの道化師のユウキの強さにシャルルは目を奪われた。
「俺が世界を変える。 その為に俺達が来たんだ!」
全身から光を放つユウキの言葉は力強く。シャルルの黒く塗りつぶされた地獄のような世界に再び色を着けた。




